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技能伝承が滞り“不良が増える未来”を誰も語らない現実

目次
はじめに ― なぜ「技能伝承」が製造業を揺るがすのか
日本の製造業界は、これまで「現場での技能伝承」を強く重視してきました。
その積み重ねこそが、高い品質と信頼、そして世界に誇るモノづくり大国・日本を築き上げたと言えます。
しかし、2024年現在、この現場力の根幹を成す「技能伝承」に、かつてない危機が訪れています。
従来は先輩から後輩、熟練工から若手へ、現場で直接技術を教え、注意点まで肌で覚えさせてきました。
それがコロナ禍による人流制限、デジタルツールへの対応遅れ、働き方改革の影響、そして熟練者の急速な退職といった“時代の波”にさらされ、技能伝承が想像以上にスムーズに行われていないのが現実です。
多くの現場関係者は「なんとかなる」「自動化やAIでカバーできるだろう」と楽観的な姿勢を見せています。
しかし、その陰で静かに進行しているのは「不良率のじわじわとした増加」と「現場知見の喪失」です。
今回は、なぜこの問題が深刻で、今こそ本気で向き合わなければならないのか、現場目線で解説していきます。
日本の製造業が抱える「技能伝承」3つの現実
1. アナログ依存 ― 昭和的“背中で覚える文化”の限界
未だ多くの製造現場では、手順書よりも「現場の空気」や「人の勘」を重視しがちです。
「手で触り、音で違和感を察知しろ」「金型の締めすぎ・ゆるめすぎは経験で分かる」。
ベテランのこうした一言で、品質が保たれてきたのも事実です。
しかし、そのノウハウをデジタル化する動きは一部でとどまり、多くは職場単位、個人単位でのアナログ継承に依存しています。
例えば、熟練者が定年で去る半年後に、機械の妙な音変化に気づく人が現場から消え、異常を早期に察知できなくなった――といった話は枚挙にいとまがありません。
2. 現場教育の“効率化”がもたらす綻び
近年、生産コスト圧縮や納期短縮の要請から「新人も即戦力として働け」「マニュアル通りに手を動かせ」という風潮が強まっています。
一見正しい合理化ですが、製造現場において「なぜこうするのか」「どう失敗するのか」といった肌感覚の知見まで伝えないまま、作業標準化だけを進めた結果、イレギュラーな不良やライン停止が急増しています。
技能伝承が、単なる「手順の教え」に矮小化されている点も見逃せません。
「失敗から学べ」という文化は、忙しい現場では蔑ろにされがちですが、ミスが起きる原因も結果として伝承されずじまいとなっています。
3. DX(デジタル変革)の波と人への無関心
多くの企業がDX(デジタル変革)、工場の自動化に邁進しています。
デジタルツイン、IoT、AI判定。
“昭和的職人芸”から、可視化・自動制御の時代へと大きく舵を切ろうとしています。
一方で、「人」の最終判断や、設計変更時のクリティカルな調整が未だ機械には難しい場合がほとんどです。
また、DX推進をする現場リーダーが本質的な現場知見を持たず、熟練者の意見が初期段階から除外されている事例も頻発しています。
結果、「現場の困りごと」が現場から上に伝わらず、ITツールや自動化装置が形骸化し、本質的な技能伝承のシステム作りが頓挫するリスクすら高まっています。
なぜ「技能伝承」が止まると不良が増えるのか
技能継承と不良低減 ― データだけでは見抜けない真実
製造現場の品質コントロールは、ややもすると数値管理やAIによるデータ分析に頼りがちです。
確かに自動検査装置の導入で特定の不良は大きく減りました。
しかし、実際には“熟練工の経験則”や“暗黙知”に依存していた領域、イレギュラーな微調整領域ほど「ヒヤリハット」の件数が増加しているのです。
例えばプレス作業では、金型の温度や摩耗、原材料ロット違いによる「なんとなくいつもと違う感じ」を察知できるか否かが不良発生の分かれ道となります。
こうした違和感の察知や小さなトラブルの未然回避は、経験知の蓄積が必要です。
ここが新入社員や外国人労働者、派遣社員だけのラインに一新された場合、表面的な生産量や稼働率は維持できても、不良率・歩留まりが下がってしまうのは避けられません。
誰も語らない「じわじわ不良が増える」未来
昨今は景気停滞やコストダウン要求で、不良発生の責任が追及される現場リーダーが萎縮し、問題を“隠す”環境に陥っていることもあります。
一方で、現場不良やヒヤリハット件数が「表向きは減少」している工場も増えています。
しかしこれは、現実が良くなっているわけではなく、「不良とは認識されないまま流出し顧客から指摘される」「細かな異常が現場で検知できなくなっている」ケースが大半です。
つまり、「じわじわと不良が増加しているのに、経営層や現場リーダーすら気付けない」事態が迫っています。
部品サプライヤーであっても、バイヤー側の視点に立てば「少量ロット不良の発生」「品質クレーム増加」「なぜ不良が止められないのか不明のまま得意先を失う」という由々しき結果になりかねません。
“昭和モデル”の限界と、脱アナログへの地殻変動
現場力は「人と人」から「人と仕組み」へ
長らく日本の現場を支えてきたのは、OJTによるリアルタイムの技能伝承です。
これには確かに優れた利点がありましたが、現代では「量産スピード」の要求や「多品種小ロット化」、熟練者の減少、働き方改革での就労時間制限などにより、従来モデルの“伝承余力”が完全に枯渇し始めています。
特に1990年代までの日本の現場は、「背中で語る」「阿吽の呼吸」といった非言語的伝承に支えられていました。
しかしグローバル化が進み、外国人従業員や多様な人材が混在する現場では、暗黙知頼みでは「意図が伝わらない」「なぜダメなのか分からない」といった齟齬だらけになります。
今まさに、「人と仕組み」による再現性ある技能伝承が、必要不可欠なのです。
バイヤー・サプライヤー双方の目線で危機を直視する
バイヤーの立場で見れば、目の前のコストダウン目標達成のため、サプライヤーに非情な短納期や「標準化」を要求しがちです。
しかし、サプライヤーの「現場力」が目に見えぬところで枯渇していると、不良増加や安定供給の崩壊という“巡り巡って自社も被害を被る”構図になっています。
サプライヤーからすれば「現場で支えてきた熟練工がどんどん去り、なり手も少ない」という断末魔の叫びが聞こえてきますが、それは表立って言えないのが常です。
バイヤーが真に現場を理解し、技能伝承策について現場担当者まで声をかけるか、これまで以上にパートナーシップ型の取引が求められる時代です。
これからの技能伝承 ― ピンチをチャンスに変えるための現場実践
1. 「見える化」「言語化」を徹底する
暗黙知から形式知へ、「阿吽の呼吸」を徹底的に言語化・数値化し、マニュアル再構築を図る動きは急務です。
例えば、単なる作業手順だけではなく、“失敗例”“こうすると必ず不良が発生するパターン”“音・振動・匂いなど異常兆候”まで、動画や写真、音声データでも記録します。
そして、現場ミーティングや朝礼・終礼で「今日の気づき」を必ずシェアし、異常兆候の早期検知ノウハウを全員の財産へ落とし込むことが肝要です。
2. 「デジタル化」でなく「人間拡張」の発想を持つ
製造現場のDX=人減らし・自動化の象徴にしてしまうのは危険です。
「デジタルはあくまで人間を拡張し、“ちょっとした違和感”の早期共有やフィードバックを高速化するためのもの」と捉え、現場のリアルタイムなナレッジ共有に最大限活用しましょう。
熟練者の目や手の動き、たとえば「この時にこう触る」「音の違いの聞き分け方」など、エキスパートの実体験をウェアラブルカメラやAIで記録・分析し、新人へフィードバックすることも十分可能です。
3. 多層的なOJTとリバース・メンタリング
技能伝承は「上から下へ」だけでは限界があります。
多様な年齢・国籍のスタッフを活かし、ベテランと若手、新人と外国人スタッフによる双方向のOJTや“逆メンタリング”を導入します。
「若手目線で分かりやすく解説」をベテランにアドバイスさせ、逆に若手からはDX活用アイデアをベテランに教えることで、ノウハウのダブルループ化を目指します。
まとめ ― 技能伝承の危機に気付く「目」に企業の未来がかかっている
技能伝承が滞れば、不良の連鎖、現場ノウハウの消失、そして顧客信頼の失墜という「ゆっくりと進行する危機」が、日本のモノづくりに押し寄せます。
誰もが明言しない“小さな不良の芽”こそ、現場経営者・バイヤー・サプライヤーが今すぐ直視しなければならない重要課題です。
今こそ「技能伝承を新しい地平に進化させる」タイミングです。
アナログ文化の長所を大切にしつつ、デジタルの利点を最大限活用し、“人と人”“人と仕組み”の掛け算による現場力強化に、勇気を持って挑みましょう。
それが日本の製造業がこれからも「世界の最前線」で生き抜く最大の鍵になると、現場経験者として強く提言します。
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