投稿日:2025年12月7日

歩留まりが急変しても誰も原因を説明できない状況

はじめに:製造業の現場でよくある「歩留まり急変」の悩み

ものづくりの現場では、安定した生産ラインを確保し、高い品質とコスト効率を両立させることが求められます。
しかし、現場では「歩留まりが突然悪化した」「なぜ不良品が急に増えたのか誰も説明できない」といった状況が珍しくありません。
私が実際に現場管理や調達部門で経験した中でも、この「歩留まり急変の原因不明」は定番の悩みです。

昭和から続く製造文化や、日本的な「問題のうやむや文化」も依然として残っており、業務のデジタル化が進んでも根本課題は解決されにくいのが現状です。
本記事では、現場目線で歩留まり急変の真因に迫り、「なぜ説明できないのか?」そして「どうすれば説明も対策もできるようになるのか?」を深掘りしていきます。

歩留まり急変あるある:現場でよく見る奇妙な現象

1. 突然の不良品増加:特に思い当たるフシがない場合

生産ラインでは日常的に数値管理を行っているのですが、ある日を境に不良品の発生率が急激に上がることがあります。
設備も材料も変わっていない、作業員にもミスは見当たらない、それでも「なぜか歩留まりが悪化した」。
しかも、しばらくすると自然に元に戻ることもあります。

このような場合、会議や報告会で「急に悪くなった理由は?」と問われても、誰も具体的に説明できず、結局「様子見」となりがちです。
調達やサプライヤー、品質管理の担当者も手をこまねいて安易な仮説に頼り、一時しのぎの対策に終始することになります。

2. アナログ文化が根付いた現場の限界

多くの日本の工場では、いまだに帳票類の紙運用や、現場担当者の勘や経験を重視した手法が根強く残っています。
不具合発生時の記録も「○○さんに聞けば大体わかる」と個人技頼みになり、データが点在、分析環境も不十分です。
これが、「誰も正確に原因を説明できない」大きな背景となっています。

原因不明がもたらす現場の分断

1. 部門間の壁と責任の所在不明

歩留まりが悪化しても、「それって工程Aの問題?いやB工程では?」と、部門ごとに責任転嫁が始まります。
特に調達部門と製造現場、サプライヤーとのやり取りはお互い疑心暗鬼になりやすいです。
歩留まり悪化の原因究明をサプライヤーへ丸投げし、「とりあえず材料を変えろ」と短絡的な対応を指示するケースもしばしばです。

仲介者であるバイヤーが現場を十分理解していない場合もあり、実態に即した判断ができません。
こうして問題は曖昧なまま、結局誰も説明できないまま「自然解決」を期待して時間だけが過ぎていくのです。

2. 見えないコスト増の深刻さ

歩留まりが悪いままでの生産は、目に見える材料損失、手直し工数の増大に加え、納期遅延や品質低下による信頼損失といった「見えないコスト」を膨らませます。
現場で原因追及やプロセス改善に本腰を入れないままだと、同じ問題が何度も繰り返され、競争力がどんどん低下していきます。
実際に多くの日系工場がこの「なんとなく現場文化」に悩まされています。

昭和アナログから抜け出すには:新たな着眼点の提示

1. 「見える化」から始める原因究明の第一歩

根本解決のためには、とにかく「歩留まりの悪化」を客観的なデータで見える化し、誰の目にも明確な形で共有することが不可欠です。
IoTやセンサー技術が安価になった昨今、実際の製品不良率や各工程のパラメータを自動記録・可視化する仕組みは導入しやすくなっています。
「〇月〇日〇時〇分、この工程で設備の温度が基準外になっていた」など、時系列での詳細な記録が後からの検証・改善に役立ちます。

現場の勘や経験も大切ですが、「紙・口頭・個人」の世界から「データ・チーム・仕組み」への脱皮を図るべきです。

2. ラテラル思考で原因を多角的に掘り下げる

単純な「材料が悪い」「機械の調整不良」だけでなく、たとえば「三交代のシフト境目で作業者の習熟度差が出た」「設備のメンテナンス履歴が抜けていた」「新任オペレーターが配置された」など、多角的な視点から原因を考えることが大切です。

ラテラルシンキング(水平思考)とは、物事を多面的に捉えて新しい発想で問題解決を目指す思考法です。
「この歩留まりの変化、実は調達リードタイムの変更と関係しているのでは?」と、部門横断的に課題の関連性を探る習慣が、今後の現場には重要だと言えます。

3. サプライヤー・バイヤー連携の新常識

調達部門やバイヤーは、サプライヤーを単なる「購入相手」と見るのではなく、生産現場のパートナーとして歩留まりデータや異常発生要因を共有し、本質的な改善を一緒に進める意識が不可欠です。
サプライヤーの現場での変動要因(とくに作業者交代や設備メンテなど)もデータとしてもらうことで、予防的なアプローチが可能となります。

現場を巻き込んだ「対話型の原因究明」が、もはやグローバル競争に打ち勝つために必須の時代です。

「説明できる現場」がもたらす3つのメリット

1. トラブル対応速度が圧倒的に早くなる

具体的なデータで「ここに問題があった」「この工程のこの作業で急変した」と説明できれば、対策の的が絞れます。
その結果、部門間の押し付け合いが減り、トラブルシュートのスピードが劇的に向上します。

2. 持続的な工程改善と競争優位の獲得

問題が説明できる=常に工程に目を配り、PDCAサイクルを実践できる土壌が整っています。
これは「たまたまうまくいった」ではなく、「常に良い状態を作り出せる」持続的な強さにつながります。

3. サプライチェーン全体での信頼性向上

調達~生産~サプライヤー全体が一体となって説明責任を果たせる組織は、不測のトラブル時も顧客や社内関係者に納得感のある説明ができます。
取引先・サプライヤーとの信頼も一気に高まります。

まとめ:誰もが「説明できる現場」へ歩みだそう

歩留まりが急変し、誰も原因を説明できない状況は、ものづくり日本全体で根深い課題です。
しかし、見える化や水平思考、バイヤー・サプライヤー連携の進化、デジタル化の取組みを通じて、必ず“説明できる現場”へと変革が可能です。

昭和的なやり方の良さも活かしながら、歴史と革新のちょうど良いバランスを追求しましょう。
強い現場こそが、これからの日本の競争力の源泉です。
「なぜ歩留まりが急変したのか?」を、胸を張って説明できる日常を、みなさんと一緒に創っていきたいと心から願っています。

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