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プリント基板の回路実装設計におけるノイズ対策技術

目次
はじめに:昭和型アナログ現場に根付く「ノイズ」問題の本質
製造業の現場では、「見えない敵」であるノイズがプリント基板(PCB)の品質や信頼性を大きく左右します。
プリント基板の実装設計におけるノイズ対策は、デジタル化・高周波化が進む中でますます重要性を増しています。
現場では「経験則」による対応も根強いですが、グローバル競争やIoT化といった新潮流の中で、従来型のやり方だけでは通用しません。
今回の記事は、20年以上にわたり製造現場でノイズと格闘してきた筆者が、最新動向と現場で明日から使えるノイズ対策技術を分かりやすく解説します。
なぜプリント基板にノイズが発生するのか
アナログからデジタル、そして高周波化で深刻化するノイズ
かつての昭和型製品では、回路自体がシンプルで信号も比較的低速でした。
しかし今日のプリント基板は、小型化・多層化・高速化が加速し、ノイズの影響がより顕著に現れるようになっています。
隣接するパターン間や、デバイスから大地(GND)へのループ、EMI(電磁妨害)と呼ばれる外部ノイズ…対策しなければ最悪の場合、製品不良・リコール・企業信頼失墜に直結します。
ノイズの発生メカニズムと主な種類
ノイズには以下のような種類が存在します。
- 伝導ノイズ:パターンや電線を伝わって入るノイズ
- 輻射ノイズ:空間を伝って侵入もしくは放射されるノイズ
- クロストーク:信号線どうしの“おしゃべり”で生じる混線ノイズ
- 共通インピーダンスノイズ:共通のGND線を流れる電流が影響しあうノイズ
- 静電誘導・電磁誘導ノイズ:隣の高速パターンや装置の影響を受けるノイズ
これらが混在するため、“万能薬”はありません。
しかし、発生メカニズムと原理・原則を理解することで効果的な対策が見えてきます。
現場で実践!必須のノイズ対策技術
1. パターン設計の基本ルール
パターン設計段階でのノイズ発生抑制は、最も「コスト効果」が高い対策です。
以下のポイントを意識してください。
- 信号線は最短距離・直線的にレイアウト
- 高周波信号線やクロック信号はグランドプレーンと近接配置
- 電力線と信号線を並走させず、層を変えて妨害
- クロストークを避けるため、平行配線の間隔・距離を十分に取る
- 戻り電流(リターンパス)のための適切なGND設計
現場では「分かっていても多層基板を使えない」「コスト制約で配線密度が高すぎる」といった悩みがつきものです。
その際は「ノードごとのノイズ優先順位づけ」「GND信号分離」「電源とGNDプレーンの重ね配置」も検討しましょう。
2. 層構成とグランド設計
現代の多層PCBでは、「グランドプレーン」の設け方がノイズ耐性のカギです。
できる限り広く連続性のあるGND層を配置し、「島状」や「分断形」にならないことを重視してください。
また、電源プレーンも可能なら別途設けておき、GNDと電源層でシールド効果を高めます。
GND層を設計する際は、「戻り電流経路」に細心の注意を払いましょう。
「IC下のGNDプレーンはできるだけ切らない」「バイアホールで多点接続を行う」ことで、ループ面積を最小化しEMI発生を抑えられます。
3. 部品配置とデカップリング
周辺部品の配置にも大きな意味があります。
特に「ノイズ源となるLSI・マイコン類」「高速クロック回路」は、基板の中央ではなく端部やシールド空間に配置するのが基本です。
さらに、電源ピンとGND間に適切なデカップリングコンデンサを直近に配置します。
「0.1μF」「0.01μF」など複数のコンデンサを並列配置し、広い周波数帯域のノイズをカットするのが現場での鉄則です。
4. ガードパターンとシールド
アナログ回路・高インピーダンス回路には「ガードパターン」や「シールド線」による保護も有効です。
ガードパターンは、感度の高いパターンを同電位のGND信号でぐるりと囲むことで、外部からのノイズ侵入を防ぎます。
また、ノイズ源が特定部品に限定される場合は、その部品だけ金属ケースでシールドするのも現場で使える裏ワザです。
昭和型“勘”からデジタル解析時代へ:最新動向とツール活用
シグナルインテグリティ解析(SI解析)の定着
従来は「実験と勘」に頼る部分が大きかったノイズ対策ですが、いまやプリント基板設計でもSI解析が不可欠となっています。
ツールを活用して「どのパターンがどれだけノイズ感受性が高いか」「クロストークのしきい値は?」などを事前シミュレーションすることで、設計の無駄打ちが激減します。
解析ソフトは有償から無償までありますが、最低限“波形の乱れ”や“反射”をグラフ化して比較する文化の導入を推奨します。
EMC規格・グローバル要求の高まり
特に欧米・アジア大手顧客との取引増加に伴い、「CEマーキング」「FCC規制」など法的なEMI・ノイズ基準への適合義務が強化されています。
これをクリアできないと、製品が“使えない”リスクもあり、上流設計段階からのノイズマネジメントが必須です。
海外顧客は「EMC試験レポート」を求めてくるケースが増えていますので、調達購買部門やバイヤーも現場のノイズ設計事情を理解しておくことが求められます。
サプライヤー・バイヤー視点でのノイズマネジメント
サプライヤーが知るべき「回路設計者の頭の中」
サプライヤーの立場でバイヤーやユーザー企業と技術提案・交渉を行う際、
「なぜこんな厳しいノイズ規格が必要なのか」「なぜここに部品コストをかけてほしいのか」
回路設計者の“現場の論理”を知っておくことは取引成功のカギです。
対策部品(フェライトビーズ・シールド部材・高性能コンデンサなど)はコストアップとして嫌われがちですが、
納品後の不具合やEMC試験落ちによる損失と比較すると、事前対策コストは“投資”であると説得する視点を持つと良いでしょう。
調達部門・バイヤーの課題と対策
バイヤーはコスト競争だけでなく「品質担保」「納期遵守」を総合的にマネージすることが使命です。
不具合リスクの高い部材ほど、現場の設計担当・生産現場・品質保証部門との連携を密にし、「なぜこの部材でなければならないか」「仕様をなぜ守る必要があるのか」を論理的に説明できる体制を構築してください。
たとえば、ノイズ対策コンデンサやGND強化部品の調達に関しては、信頼できるメーカーの部材トレーサビリティ・長期供給体制も併せて確認し、「安かろう悪かろう」の罠にはまらないようにしましょう。
ノイズ対策の「費用対効果」と最適化のための現場PDCA
ノイズ対策は「やりすぎ」てもコストアップ、「手抜き」でも不良率や歩留まり悪化というジレンマと常に隣り合わせです。
現場では、EMC試験/現場通電試験の実データを基に、「どこまでやればよいのか」「最小コストで最大の対策効果は何か」をベンチマークし続ける必要があります。
そのためには、
・対策実施前後の不良率・EMI値の比較
・部材コスト・組立工数への影響集計
・顧客クレームやリコール費用のモデリング
といった「現場PDCAサイクルの定量化」がカギとなります。
“経験と感”をデータで補強することで、経営層の理解も得やすくなります。
まとめ:これからの製造業は「見えないノイズ」に強い現場が勝つ
プリント基板の回路実装設計におけるノイズ対策は、高度化・複雑化の一途をたどっています。
昭和型の“やったつもり”対策から科学的・構造的なPDCA対策へと、現場も意識転換を迫られています。
サプライヤーもバイヤーも、現場エンジニアが何と格闘しているのか「Why(なぜ)」を深掘りし、コスト・納期・信頼性をトータルで最適化する視点が欠かせません。
「ノイズゼロ」は幻想ですが、「ノイズと共存し最小化する」設計文化こそが、日本のものづくり現場の新たな武器になると信じています。
今後も現場の知恵とテクノロジーの融合によって、プリント基板から始まる“静かなイノベーション”を実践していきましょう。
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