投稿日:2025年10月20日

マスクの肌触りを良くする不織布の繊維配向と静電処理技術

はじめに:マスクの性能を左右する「肌触り」とは

近年、マスク需要がかつてないほど高まっています。

それに伴い、機能性はもちろん「肌触りのよさ」が消費者の重要な選択基準となっています。

特に敏感肌の方や長時間着用する医療従事者にとって、快適な着け心地は非常に大切です。

しかし、メーカーの多くは捕集性能やコストダウンに目を向けがちで、肌触りの改善は後回しにされることも少なくありません。

この記事では、不織布マスクの「肌触り」を左右する繊維配向と静電処理技術に焦点を当て、現場目線で実践的に解説します。

また、アナログ的な業界体質のなかでいかに最新技術を活用し、差別化を図るかについても深掘りしていきます。

不織布マスクの構造と「肌触り」を決める要素

不織布マスクの基本構造

不織布マスクは一般的に三層構造となっています。

外側は撥水性を持たせたスパンボンド不織布、中層に微粒子をキャッチするメルトブローン不織布、内側には肌触りを重視したスパンボンド不織布が使われます。

このうち肌に直接触れる内層が、着け心地や刺激・違和感の多くを決める部分です。

肌触りは「繊維径」「配向」「表面処理」で決まる

マスクの肌触りを良くするには、内層不織布の「繊維径の細さ」、「繊維配向の均一さ」、さらに「静電処理等の表面改質技術」が重要です。

太い繊維や配向がバラついているとゴワゴワ感やチクチク感の原因になりがちです。

また、静電処理などで繊維が柔らかく肌当たりが良くなります。

現場視点:不織布の製造と繊維配向の制御

スパンボンド製法の繊維配向技術

スパンボンド不織布は、溶融樹脂から直接繊維を紡糸し、エアでベルト上に堆積させることで不織布化します。

このとき、繊維の吐出方向やエア流、ベルトの速度といった要素を微調整することで繊維配向がコントロールされます。

一定方向に偏った配向だと応力集中・偏摩耗が起こりやすく、均一な配向が「ふんわり感」や「なめらかさ」を生みます。

現場では、製造装置の微妙な設定(例えばダイ幅・風量・集束ガイドの選定)がこの品質を大きく左右しています。

熟練オペレータの「勘」をデータ化する

実際、不織布業界は「職人の勘と経験」が根強く残るアナログ業界です。

生産ラインのちょっとした条件差が繊維配向に大きく影響し、「今日はいつもより柔らかい」「昨日と同じはずなのにチクチク感じる」など品質ブレが生じます。

DX(デジタル・トランスフォーメーション)が叫ばれる今、経験値をデータ化しAIやセンサを活用したリアルタイム品質管理への転換が進みつつあります。

しかし、現場では「勘」を大切にしつつ、それを「見える化」して次世代の標準化に活用することがカギとなります。

静電処理技術が肌触りを劇的に変える

帯電加工でマイクロファイバー化する

不織布のメルトブローン層では古くから「帯電加工」が使われています。

分かりやすくいえば、繊維に静電気を帯びさせて微粒子を吸着するマスクの防塵・防ウイルス機能の肝です。

近年はこの帯電処理技術が、肌ざわりの観点でも応用されています。

帯電によって繊維が適度に反発し合い、繊維同士の密着を防いでよりふわりと軽やかなタッチへ。

また、同時にマイクロファイバー化(超極細化)が進み、繊維の肌当たりが格段にやさしくなります。

重合改質や界面活性剤処理との組み合わせ

さらに高度な現場では、帯電処理と併用してポリマー重合改質や界面活性剤による「表面改質」を実施しています。

これにより繊維表面の摩擦や貼り付き、静電気の放電感などを低減し、長時間着用でも違和感の少ないマスクに仕上がります。

また、この改質技術を高めることで「毛羽立ち」や「繊維抜け」といった不良の発生も抑制可能です。

アナログ現場でDXが進まない理由と、変革へのヒント

なぜ製造現場は「昭和のまま」なのか

不織布をはじめとした多くの日本の製造現場は、いまだ人の目・手触り・経験に依存している部分が大きいです。

理由としては、1品1様の製品品質・受注生産文化・技能伝承の壁・ライン自体の古さ……などさまざま挙げられます。

実際、「AIやセンサでは良品と不良品が同等に判定されてしまう」「微妙なタッチはセンサーでは分からない」といった声も根強いです。

デジタル×現場知見で次世代競争に勝つ

ですが、今後の国際競争には「データ活用×現場知見」の両立が必須となります。

例えば、不織布の繊維配向や表面処理の最適条件をビッグデータとして蓄積し、AIによるリアルタイムの条件フィードバックを活用する。

人の感覚だけに頼らず、経験情報を「見える化」と「教育用データ化」する。

「省人化」「高頻度切替え」といったニーズにも柔軟対応できる自動化設備の導入が一つの突破口になるでしょう。

常に「現場の感覚(暗黙知)」を分析・数値化し、デジタル技術と融合させる視点が生き残りのカギになります。

バイヤーやサプライヤーの立場で考える「強いマスク」とは

バイヤーが求める「価値」とはなにか

マスクを選定・調達するバイヤーの多くは、「安定供給」「コスト」「安全性」だけではなく、「肌触り」「着用感」「ブランド力」といった付加価値部分にも目を向けています。

特に大手流通・病院・自治体の調達担当者は、ブランドのイメージや顧客の声、市場トレンドを踏まえて仕入先を選定しており、「同等グレードでも肌触りがいい」メーカーには大きな優位性が生まれます。

サプライヤーはどうバイヤーに「響かせる」か

サプライヤーの立場では、自社の技術情報や生産プロセスの強みを「肌触り」「安全性」「信頼性」という形で具体的に訴求することが重要です。

繊維配向や静電処理などの専門技術も、そのまま伝えても伝わりません。

「この処理で肌当たりを〇%改善」「1日10時間着用でもストレスを感じにくい」というような現場データ・ユーザーアンケートなどを組み合わせたエビデンス重視のセールスが求められています。

また、環境対応・脱プラスチック等のSDGs観点も意識し、「マイクロプラスチック発生低減」や「リサイクル原料活用」もマスク選定の差別化要因として無視できません。

今後の展望と実践ポイント

高性能・高付加価値マスクへの需要は続く

今後もインフルエンザやアレルゲン、感染症対策の需要増が予想されます。

そのなかで調達担当、サプライヤー双方には従来の「枚数×単価」志向だけでなく、使用者目線での「着け心地」を追求した技術力と、その裏付けとなる生産現場のデータ化・自動化推進が求められています。

現場が変われば価値観が変わる

従来のアナログ発想から、いかに現場の知見をデータ化・再現可能にし、「肌触り」に代表される“見えない価値”を製品差別化につなげるか。

その挑戦こそが日本の不織布・衛生材料業界が再び世界で存在感を示すためのキーファクターです。

現場の変革、新しいテクノロジーの導入、そして「現場力」の見える化。

それぞれが組み合わさることで、消費者、バイヤー、サプライヤーを納得させる“強いマスク”を生み出していくことができるでしょう。

まとめ:現場発・技術発信で未来を拓く

マスクの肌触りを向上させる不織布の繊維配向や静電処理技術は、製造現場で蓄積された知恵と最新のデジタル技術が融合してこそ最大の力を発揮します。

その実現には「勘と経験」の見える化と、データをいかに活用して“安心・安全・快適”という価値を最大化するかが鍵となります。

製造業に携わる方、バイヤーとして調達戦略に悩む方、サプライヤーとして差別化を目指す方。

それぞれが現場に立脚したラテラルな視点で発想を拡げ、これからの製造業を進化させていってほしいと願います。

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