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人手不足問題の相談で経営が知りたがる数字と現場の実感

目次
はじめに:製造業の人手不足、その本当のリアルを見抜くために
日本の製造業は今、大きな転換点に立っています。
高度経済成長を支えた熟練工の世代がリタイアし、若手人材はなかなか入ってきません。
一方で生産量や品質への要求は落ちるどころか、むしろ増すばかり。
この厳しい状況を「人手不足」という言葉ひとつでまとめてしまうのは簡単です。
しかし、経営が本当に知りたいのは「どのくらい人が足りなくて」「どんなインパクトが工場や業績にもたらされているのか」。
そして現場が肌で感じているのは、「単純に頭数を補充するだけでは解決できない」複雑な実情です。
ここでは30年以上現場や経営双方で実感してきた立場から、「経営が知りたがる人手の数字」と「現場で感じているリアル」、さらにアナログな製造現場が新しい時代に適応するためのヒントについて、現場目線で詳しく解説します。
経営層が知りたがる“人手不足”の指標・数字とは
人員ギャップ(マンパワーギャップ)
経営層が真っ先に知りたがるのは「今、実際に何人足りていないのか」という人数です。
単純な人数だけではなく、職種・スキル別、経験年数別、工程・シフト別など細かい内訳まで求められます。
特に現場ごとの負担度や既存スタッフへのしわ寄せ(残業や休日出勤回数)が可視化されていると、説得力が増します。
生産能力とのギャップ(人員不足が与える生産影響)
単なる“人数の多い少ない”でなく、「本来の生産計画に対してどれだけズレが生じているか」を知りたがります。
たとえば「必要ラインスタッフ30名のところ現有人員は25名。
これにより生産遅延が何%生じ、納期遅れのリスクが年間で○件発生」といった、経営判断材料となるロジックが重要です。
採用・離職データ、充足率
「採用してもすぐ辞めてしまう」「新人確保が困難」などの悩みはどこの工場も同じです。
新規採用数・定着率・離職率・定期採用の充足率など、KPIとして把握しているでしょうか。
これが悪化していれば、「現場の雰囲気や教育体制」にも経営が踏み込むタイミングと言えます。
業務の自動化/外注化がカバーする範囲
工場の自動化投資(FA/ロボット導入)が人手不足をどれだけカバーできているのか。
アウトソーシングや派遣労働などの活用度合いも、経営視点では“数字での根拠”を要求されます。
労務コストと生産効率のトレードオフ
人手が減れば1人あたりの残業が増え、結果的にコストも上昇します。
単なる人員補充ではなく、「現有メンバーでどう回すか」「外注すべきか」といった選択は、生産効率やクオリティへの影響も考えて判断しなければなりません。
この指標として、「1ユニットあたりの人件費」「残業代率」「生産性(人時生産性)」も重視されます。
現場が感じている“人手不足のリアルな実感”
「人が足りない」現場の声は単なる人数問題じゃない
実際の現場では、単に「人が少ない」ことへの不満だけではありません。
特定のスキル保持者(例えば熟練溶接工や検査員)が少ないことにより、OJTや引き継ぎが回らなくなるケースが深刻です。
また若手スタッフに十分な教育時間が取れていない、繁忙期の応援体制が組めない、現場リーダーの多能工化が進まず負担がかたよる……など、抜け出せないアナログ課題が噴出しています。
極端な属人化・個人技依存に陥る例
業界全体として、昭和の成功体験から抜け出せない現場も多いです。
ベテラン職人の「見て覚えろ」「職人技を盗め」的な文化が残り、暗黙知のまま業務が進みがちです。
これが人手不足でさらに加速し、「あの人がいないとその工程が回らない」「休まれるとライン停止」など属人化リスクが表面化します。
現場責任者の“メンタル不調”リスク
現場管理職にかかるプレッシャーは日に日に増しています。
「生産を止めるな」「品質クレームは絶対許されない」「新人教育もやってくれ」と複数のミッションが降りかかります。
このため疲弊・メンタル不調で本人がダウンしてしまう例も多く、人手不足問題がドミノ倒しのように広がる可能性があります。
“昭和から抜け出せない”現場でのあるある事例と再構築のヒント
紙とエクセル頼みの業務フロー——デジタル化の壁
今なお、「作業日報は手書き」「手配・在庫管理はエクセル」「勤怠はタイムカード」など、紙と担当者の記憶頼みで運用している工場も非常に多いのが実情です。
デジタル化しようにも「データ入力が面倒」「現場のITリテラシー不足」「習慣として新しいやり方に拒否感がある」など、現実的なハードルが山積みです。
旧来型の人事評価と多能工化促進の断絶
評価軸が「年功序列型」「役職者がえこひいきで評価」では、多能工化や若手のやる気を引き出すことは困難です。
現場の技能やリーダーシップ、改善活動など具体的な行動に対する評価制度の導入が不可欠でしょう。
給与・手当にも明快な反映をさせ、「スキルアップした分だけリターンがある」仕組み作りがポイントです。
現場と経営をつなぐ——“納得できる”人手戦略のための3ステップ
現実的な業務量・生産目標の『見える化』
「本当にこの人員で回していけるのか?」を経営と現場が正しく共有するために、工程ごと・時間帯ごとの稼働状況や、手待ち・応援・残業など細かな実態をデータ・グラフ化することが重要です。
勤怠管理クラウドや生産管理システムの活用で“数字を根拠とした議論”ができる環境を作りましょう。
スキルマップ・多能工化と業務標準化の徹底
「あの人でなければできない」「業務がブラックボックス化している」状態を防ぐため、現場ごとのスキルマップやマニュアル整備、教育カリキュラムの整理が必須です。
属人化リスクを減らし、“誰でも一定精度でできる工程割合”を増やすことで、人員急減にも粘り強く対応できる体質になります。
若手確保・定着へ現場主導の雰囲気づくり
人手不足の本質的な解消には、若手や未経験者が「安心してチャレンジできる」「成長できる現場だ」と感じられる職場づくりが重要です。
現場主導で小さな意見交換会、KY(危険予知)活動、たとえば「ミス事例共有」「新人・ベテランのペアリング」など、柔らかい仕掛けが定着へのカギです。
人を責めるより仕組みを変えることが、人材流出を防ぐ秘訣です。
“バイヤー”や“サプライヤー”視点で今後どう動くべきか
バイヤーには「サステナブル調達」の視点が必須
自分が買い付ける工場・現場が、将来的にも安定して供給できる体制かどうか。
短期的な価格競争に終始するのではなく、「人手不足リスク・生産能力適正・改善活動への取り組み」を面談や実地評価で確認する力がますます求められます。
工場と共に『現場支援』を行う姿勢が信頼を生み、中長期的なパートナーシップにつながります。
サプライヤーには“見せる化”と“巻き込み”戦略を
「人が足りないので納期遅延します」では今後の取引は難しくなります。
現状の生産・人員状況をデータと現場の声で“見える化”し、今足りないリソースをいかに社内外で補完していくか(外注・自動化・業務再設計等)を具体的に提案できるかが、差別化のポイントです。
自社が「ただ受け身」ではなく、「能動的に課題解決している」ことをアピールしましょう。
まとめ:人手不足の“数字”と“現場感”を両輪で考える時代
人手不足は、ただ単に「人を採れば解決」するものではありません。
経営は数字で判断したい、現場は肌で苦しみを知っている——この溝を埋める“数字に基づく現場課題の可視化”と“柔軟な現場マネジメント”が同時に求められます。
昭和的なアナログ習慣にしがみついていては、新たな人材や技術は活かせません。
一方、現場目線のリアル(属人化、スキル・教育課題、現場責任者の負担など)も無視できません。
これからの製造業の未来を共に切り拓くために——
現場と経営、バイヤーとサプライヤーが“数字”と“現場の実感”を共有しながら、“自分ごと”として動くことこそが、最大の突破口になるのです。