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船便か航空便か:納期リスクと運賃を両立させる輸送戦略

目次
はじめに:船便か航空便か、その選択が経営を左右する
製造業において、調達購買担当者やバイヤー、さらにサプライヤーの皆様が必ず直面する課題があります。
それは、「船便と航空便、どちらを選ぶべきか」という命題です。
グローバルサプライチェーンが複雑化し、調達先も世界中に広がる現代において、輸送手段の選定が経営上の重大な意思決定に直結します。
この記事では、現場で20年以上の経験を持つ筆者が、船便・航空便それぞれの長所・短所、最新の業界動向、納期リスクとコスト最適化の実践的な戦略について解説します。
昭和から令和へ、アナログな意思決定の時代を抜け出し、現場としていま何が求められているのか、一緒に考えていきましょう。
船便と航空便、基本の比較と業界の現状
船便の特徴と利用実態
船便は、「安価」「大量輸送に強い」「長納期」という3拍子で長く製造業の主力でした。
特に、調達価格を重視するバイヤーや、安定した需要が前提の物資輸送では圧倒的なコストパフォーマンスを発揮します。
また環境負荷面においても、二酸化炭素排出量では航空便より優れています。
しかし裏を返せば、「納期の長さ=リードタイムリスク」が大きな弱点です。
2021年〜2022年のコロナ禍、上海ロックダウンや欧米の港湾スト、北米西岸の混雑など、想定外のリスクで納期遅延が多発しました。
情報の可視化・追跡性の悪さも、依然として課題です。
航空便の特徴と注目ポイント
航空便は、「最速」「納期遵守率が高い」「少量・高付加価値貨物向け」が強みです。
需給逼迫や部品の急なトラブル、緊急対応で力を発揮します。
アップルや自動車業界のJust-in-Timeモデルでは、航空便がしばしば戦略的に活用されています。
一方で、「単価の高さ」が致命的な弱点。
そして昨今は燃油サーチャージやハンドリングフィーの高止まりも、バイヤーの悩みの種です。
航空会社や貨物代理店の取り合いで便が制限されることも散見され、需供バランスが崩れるとリードタイムも読みにくくなります。
昭和アナログ調達からの脱却:なぜ戦略が必要か
昔ながらの「見積もり3社・都度価格比較」「経験則のみの一括発注」というアナログ体質が、日本の製造業には根強く残っています。
大量調達時代はそれでもよかったかもしれませんが、グローバル化・多品種少量生産時代では対応力が問われます。
今バイヤーに必要なのは、「納期リスクと運賃コストをどうバランスさせるか」という戦略的な意思決定です。
従来の慣習に頼るだけでは、慢性的な納期遅れ、調達コストの高止まり、リスク顕在化時の緊急対応費用の増大といった副作用を引き起こしかねません。
納期リスクと運賃コストを両立させる実践的な輸送戦略
以下に、実際に調達や生産管理の現場で使える「船便・航空便ハイブリッド戦略」の最前線を紹介します。
(1)Aグループ:納期厳守のクリティカルパーツは航空便確保
あらかじめ「これが止まるとラインが止まる・多額の損失が発生する」コア部品を洗い出し、緊急時の航空輸送枠を確保しておきます。
専用のSOP(標準作業手順)やフレックス契約をサプライヤー、フォワーダーと締結しておくと安心です。
たとえば半導体、エンジン主要ユニット、コンプライアンスが厳しい特殊部品などが該当します。
(2)Bグループ:安定供給前提の汎用品は船便でローコスト化
ストック可能なボルト・ナット、成型品等、数ヶ月単位で安定的に消費するものは、まとめて船便で大量輸送。
在庫コントロールの工夫(JIT+一定の安全在庫設定)と、予備輸送ルートを用意して「念のため」のコスト増を避けます。
サプライヤー側にもB/L(船荷証券)やリンギング(到着予定日共有)の運用を徹底し、情報の透明性を高めます。
(3)Cグループ:船便+航空便へのスイッチングを柔軟に設計
中間ゾーンは「普段は船便、必要時だけ航空便」という柔軟対応が有効です。
たとえば、新製品立ち上げ期は先行ロットのみ航空便にして市場投入を早め、以降は船便ベースに切り替える設計です。
あるいは、直近需要増減や想定外の港湾混雑、天候リスクが高まった際にだけ、スポットで航空便を利用します。
輸送手段切り替えの判断タイミング(引き返し点)も、工程表上で事前に明確にしておくことが重要です。
サプライヤー・バイヤー双方に必要な視点
サプライヤーが知っておきたいバイヤー心理
バイヤーは「コスト最重視」「納期重視」に見えて、実は「社内/顧客との約束履行」に日々追われています。
突発トラブル時に頼れるパートナーかどうか、想定外に柔軟なリードタイム短縮提案や、ストック・代替ルート提案ができるか、が選定基準となります。
サプライヤー側も船便・航空便双方の最新状況、港湾情報をアップデートし、納期遅延の兆候が出た時点で早期に連絡や選択肢提示ができる体制を目指しましょう。
バイヤーが把握すべきサプライヤー現場の実情
サプライヤーも物流混雑、アルミや半導体原料ひっ迫による出荷遅延、コンテナ不足など、納期コントロールが難しい現場に悩んでいます。
「要求納期と現実のギャップ」「数量ブレへの対応力」「必要な書類・情報の共有」といった、現場同士の歩み寄りがファーストステップです。
また、余裕を持った発注スケジュールと、実際の輸送手段の決定期限をすり合わせることも、納期遅延の防止策として非常に効果的です。
最新業界動向:DXで変わる輸送戦略の未来像
サプライチェーンの可視化とAI予測の進展
IoTセンサやAI予測を活用し、コンテナの現在位置、港湾混雑、気象条件など、物流の透明性が劇的に高まっています。
バイヤーもサプライヤーも、リードタイムの見える化や「リスク予兆」への先手対応が現実的になっています。
今後は、受注→生産→出荷→輸送→納品まで、一元管理できるSCMプラットフォームの活用・連携が生命線となるでしょう。
脱炭素化とサステナビリティ要求の高まり
グリーン調達やESG経営の流れの中では、「安価な船便」→「CO2排出量削減」への要求が確実に高まっています。
航空便利用も“必要最小限かつグリーン証明可能か”が問われる時代です。
CO2オフセット輸送や、次世代燃料船・電動貨物機なども今後はトレンドになっていきます。
調達購買担当者は、「コスト・納期・環境負荷」のトリプル最適化が必要になっています。
まとめ:選ぶのではなく、組み合わせる時代へ
もはや「船便 or 航空便」ではなく、「最適な組み合わせ戦略」が勝負を決める時代です。
本当に重要なのは、現場で起こる変化や予兆をいち早くキャッチし、適切なパートナーシップ、柔軟な輸送手段の切り替え、リスク共有や情報の透明化を推進できる現場力です。
バイヤーもサプライヤーも、古い昭和型マインドセットを乗り越え、新しい地平を切り開いていきましょう。
輸送戦略の進化が、日本のものづくりの未来を大きく左右していきます。
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