投稿日:2025年11月24日

ODMで差が出る“量産性と体験価値の両立設計”

ODMで差が出る“量産性と体験価値の両立設計”とは

ODM(Original Design Manufacturing)は、日本の製造業にとって、これまでOEM(Original Equipment Manufacturing)を核として発展してきた歴史から、大きな転換点に位置づけられる事業形態です。

単純な量産供給だけでなく、顧客企業の要求や最終消費者の体験価値にどこまで寄り添い、かつ「量産モデル」に落とし込めるか。

これは昭和型のアナログ調達、生産現場の信頼と技術に支えられたものづくり体質にとっても、また新時代のバイヤーやサプライヤーが直面する根本的な課題です。

ODMによる競争力をいかにして生み出せるのか――。
本記事では、その核心である「量産性」と「体験価値」の両立設計について、現場マネジメントの知見も交えて深掘りします。

ODMにおける“体験価値”と“量産性”の本質

体験価値重視の時代におけるODMの役割

近年、製造業では「売るためのスペック」より「感じる価値」が重視される傾向が強まっています。

最終ユーザーが手に取ったとき・使ったときにどう感じるか。
驚きや安心、使い勝手や長期的満足感。

この“体験”をいかにして製品仕様に落とし込み、伝えるかがサプライヤーへの要求です。

ODMでは、顧客企業とともにアイデア出しからデザイン・設計へと進みます。

求められるのは、単なる図面供給屋ではなく、「その先のユーザー体験を映し出すパートナー」としての存在感です。

量産性がもたらす企業の競争力

一方、どれほど斬新な体験価値を盛り込んでも、それが多品種少量生産でしか実現しないのでは、量産メリットが出ません。

日本のものづくり現場では「段取り替えレス」「無駄の排除」「安定した品質」を長年追求してきました。

ODMでも、設計段階から製造現場目線で

・標準部品の活用
・ライン汎用性の確保
・バラつきが出ない工程設計

といった量産体制への配慮が欠かせません。

通常は対立しがちなこの2つの価値を、どのように“両立”させるか。

両立設計のためのラテラルシンキング

現場のリアリティ:設計と製造の壁を越える発想

多くの日本の工場では、設計部門と製造部門の間に見えない“壁”があります。

図面が出来上がるまでは設計主導、そのあとは製造部門が試行錯誤しながら担う。
この「分業発想」自体が、体験価値と量産化を両立しにくくする一因です。

ラテラルシンキング(水平思考)で見るならば、

・生産管理担当は設計初期から会議へ参画
・試作段階で製造現場リーダーの声を吸い上げる
・バイヤーやサプライヤーも早い段階から参画し、素材・部品の調達難易度やコスト、ロット最適化を議論

これが、単なる「量産性のチェック機能」ではなく、「ユーザー体験を“現実の工場で量産する幸福”」への本質的な道筋です。

昭和型“職人技”とデジタル設計の共存

昭和の時代から脈々と受け継がれる“現場力”。
帳面や口頭、エクセル管理が色濃く残る一方で、設計は3D-CADやシミュレーションのデジタル化。

ODM案件で真に強い企業は、

・QC工程表や作業標準書に、現場の“ベテランの勘所”をデータ化
・製造ラインの改善サイクルを設計部・品質部とも可視化している
・デジタル管理ツールとアナログ作法を適所で組み合わせて無理なく運用

といった“併存知”の精神にたどり着いています。

ラテラルに考えれば、合理性追求だけに偏らず、体験価値向上において人の知恵や美学も加味し、両立を設計図段階から織り込むことが推奨されます。

バイヤー・サプライヤー視点で考えるODM両立戦略

バイヤーが求める“量産性と差別化”への期待

近年のバイヤーは、コストや調達リードタイムだけでなく、
「いかに製品体験でブランド価値を高めつつ、安定供給できるか」
「サプライチェーンの変化リスクにどう対応できるか」
これらを重視しています。

サプライヤーとしては

・新規テーマについては、量産時の課題見通しも最初の企画提案で共有
・体験価値の譲れない部分、コストの妥協案を明確化
・量産体制構築のために、マイナーチェンジも視野にバイヤーとすり合わせ

という姿勢が、共創型ODMを成功に導きます。

サプライヤーの立場でバイヤーの意図を読み解く

バイヤーが「あえて量産時のリスク共有」をしてほしい理由は、自社内の社内提案やリスク管理が年々求められているためです。

単なる“できる・できない”の表明では不十分で、

・「この工程だけは自動化可能」「この部品だけは2社購買推奨」など具体的アイデア
・体験価値を崩さず実現できる特許やノウハウ技術の提案
・万一量産移行で問題化した場合のフォロー体制案

これらがサプライヤーの強みとなり、差別化のポイントになります。

引いては、日本の伝統的“阿吽の呼吸”と、データドリブンなリスク提示が共存するODMパートナーが選ばれやすい時代です。

現場発の両立設計・ケーススタディ

受託家具メーカーの挑戦:量産用設計で生み出す価値

個人消費者向けに、室内家具をODMで設計・生産するA社の例です。

顧客企業からは「北欧テイストのぬくもり」「組立てやすさ」「2万円以下」という体験&コスト要求。
設計段階で以下に挑みました。

– 製材・カッティング工程を共通モジュール化
– 研磨や塗装は自動ラインだが、一部の“手触り”は現場職人の後加工で担保
– 梱包も、一般家庭で開封しても初期不良が出にくい工夫を追加

試作数回後に、現場から「この塗装工程で歩留まりが安定しない」とフィードバック。
設計担当と品質管理グループで現地ラインを再訪し、歩留まり安定のマイクロ改善と、塗装材料調達先の見直しを同時に進めました。

結果、体験価値(手触り)は守ったまま、量産時の不良率を顕著に下げることが可能となりました。

このような一体設計は、Web会議やチャットでも情報は伝わりますが、「現場を見る」「量産で起こりがちなバラツキや異常を肌で感じ取る」といった昭和型“現場視察”の重要性も再認識されたプロジェクトでした。

製造業DXの先進事例:体験価値と生産効率の両立

B社は工場自動化(FA)を強みとしているサプライヤーです。

バイヤー企業から「従来であれば人手でなければできなかった“微妙な押し加減”」が要求仕様とされ、これをロボットで安定表現するODM案件に着手。

– トルクセンサー付きロボットを自社開発ラインへ実装
– 作業員の“感覚”をAI学習させ大量データ化
– 工程動画をクラウドでリアルタイム共有し、工程ごとの体験バラツキをバイヤーと日次レビュー

この過程で、従来の自動化ラインとは大きく異なる「再調整→評価→再設計」回数が必要となったが、現場スタッフの主体的なフィードバックが設計改善の要となりました。

ODMにおける体験価値追求と量産性実現を、最新デジタル技術と現場職人の直感が両輪となって支えた先進事例です。

これからのODM、“両立設計”を支える現場知と組織力

ODMとひと言で言っても、その本質は「体験価値をどう量産できるか」の知恵の集大成です。

ものづくり工程の全員――バイヤー、サプライヤー、設計・生産管理・現場スタッフが早期から参画し、自分の担当領域だけでない“横断的シナジー”を引き出せるか。

昭和型の現場主義から、DXやデジタル設計の融合へ。
今こそ製造業の地力が問われる時代です。

ODMで差が出るのは、「単なる要件対応」に終始せず、
工場と設計の持ち味を横断的に生かしながら、“体験価値と量産性”が創発する「両立設計力」です。

これからの時代、製造業従事者・バイヤー・サプライヤーを問わず、「現場知と未来発想の双方に軸足をもつ」ことが、ODMの競争優位の真髄となるでしょう。

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