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OEMメーカーが自社ブランドを立ち上げる際の価格・数量・販路戦略の考え方

目次
はじめに:OEMメーカーが自社ブランドに挑戦する理由
製造業の世界では、OEM(Original Equipment Manufacturer)としてクライアントブランドの商品を長年作り続けてきた企業が、近年増加しています。
しかし、受託生産一本での成長には限界があります。
価格競争の激化や取引先の購買力増大、グローバルでのコスト競争などにさらされ、OEMビジネス単体では収益力や事業の安定性が脅かされる場面も多くなっています。
これを打破するために、多くのOEMメーカーが「自社ブランド」を立ち上げ、新たな収益基盤の構築と持続的な成長を目指すようになっています。
だが自社ブランドビジネスには、OEMとはまったく異なる難しさがつきまといます。
その核となるのが、「価格設定」「生産数量」「販路の構築」という三つの戦略です。
本記事では、現場目線と業界動向を加味しながら、OEMメーカーが自社ブランドを成功させるための考え方を深掘りしていきます。
価格戦略:OEM時代の“常識”を捨てよ
OEMの価格感覚は自社ブランドで危険になる
OEMメーカーは通常、原価積み上げ+利益率で価格を決めます。
そこに発注ロットや継続取引、相見積もりによる値下げ圧力が加わります。
その価格感覚のままで自社ブランド商品を市場に出してしまうと、利益が大幅に削られて持続不能なビジネスになる危険があります。
自社ブランドの場合、流通コスト、マーケティング費用、販売店への利益シェアなどOEM時代にはなかったコストが必ず発生します。
価値ベースの価格戦略が不可欠
大切なのは、消費者がどの程度の“価値”を感じ取るかに基いて価格を決定する「価値ベース価格戦略」です。
市場内の競合商品リサーチはもちろん、そうした競合と比べて「どんな新しい価値」を提供できるのかを明確にし、その価値に見合う価格設定を行うべきです。
機能・性能だけの比較は危険です。
例えば「メイド・イン・ジャパン品質」や「工場直販の安心感」「納期の速さ」「メーカー直接サポート」などが新価値になり得ます。
損益分岐点を冷静に見極めて価格設定を
生産原価、物流コスト、プロモーション費用、販促用のサンプル配布費用、返品リスクなど想定される全コストを積み上げ、どの価格まで下げれば利益が出なくなるのかを把握したうえで、価値訴求による単価アップを狙うことが重要です。
OEM時代とは異なり「低価格路線」では差別化が難しいため、むしろ“ちょっと高くても選ばれる理由”づくりに集中しましょう。
数量戦略:生産ラインと在庫リスクの最適バランス
最小ロット主導では失敗する
OEMで日常的に大量生産を担っている工場は、「とにかくたくさん作ればコストが下がる」という発想に陥りがちです。
しかし自社ブランド立ち上げ初期のお客様は未知数であり、市場の反応も読めません。
そのため製造最小ロット(MOQ)いっぱいに生産することは非常にリスキーです。
小回りの効く生産体制を確保する
初期段階では、多少割高になっても超小ロットでも生産できる体制を構築しましょう。
たとえばA商品を1000個作るのが従来でしたが、そこを100個×10回に分散したほうが、在庫リスクと市場変化への適応力が高まります。
ライン切替や原材料手配の柔軟化、外部サプライヤーとの連携強化も有効です。
在庫リスク管理と“売り切る力”の両立
「在庫=悪」という考えはもはや昭和の遺物です。
トレンドに強いブランドは「タイムリー感」「数量限定」「プレミアム体験」を訴求することで在庫回転を高め、次々と新商品に切り替えて利益率を確保しています。
量販より小ロット・高回転、適正在庫で現金化を意識してください。
逆に“売り切るためのプロモーション力・マーケティング力”をOEM時代以上に磨こうとする意識も不可欠になります。
販路戦略:OEM業界の常識から脱却するために
営業基盤の築き直しが必要
OEMメーカーは基本的に「BtoB営業」が得意です。
しかし自社ブランドを立ち上げる場合、BtoC(消費者向け市場)またはBtoBtoC(小売・問屋を介した市場)での営業基盤が全くゼロからのスタートになります。
今までの「工場同士の信頼」とは異なる、新しい販路開拓能力が必要です。
販路の多角化と“直販力”の強化
最初のステップとしては、自社ECサイト、Amazon・楽天などのECプラットフォーム、ふるさと納税サイトでの展開、展示会やポップアップショップへの出展など、デジタル&リアルの両面から販路開拓を進めます。
既存取引先との関係が活かせるのであれば、企業向け記念品や販促品、OEM取引先のPB(プライベートブランド)商品としてもアプローチが可能です。
サプライヤー側の企業が、販路構築の過程で得たノウハウやコネクションは、今後のOEM営業でも差別化ポイントになり得ます。
マーケティングと“顧客の声”を徹底的に経営に反映
これまでは完成品を納入した後は「お客様=発注企業」でしたが、自社ブランドの場合「お客様=最終消費者」となります。
そのため「ユーザーの声」を集めるための仕組み(レビュー、アンケート、SNS、カスタマーサポート)を強化し、商品改良→ブランド強化→口コミ増加という好循環サイクルを創り出してください。
OEM時代の「納期・品質・価格」三本柱に、消費者起点の「使い勝手・デザイン・体験・共感性」を加えた新たな視点が不可欠です。
現場で実践するための工夫と注意点
社内意識改革が何より重要
OEMメーカーは「BtoB体質」が強く、すぐに「工場の論理」や「効率最優先」思考に流されがちです。
自社ブランド事業は、現場スタッフ一人ひとりの意識改革や、部門を超えた連携が不可欠です。
新規事業部門の創設や現場アイデアの吸い上げ、営業・開発・生産・品質管理の一気通貫したプロジェクト運営が成功のカギとなります。
既存OEM取引先との関係性への配慮
OEM事業者が自社ブランドを立ち上げる場合、現有取引先と商品ジャンルが被る場合には「共食い」「競合」になってしまうリスクがあります。
これは信頼関係にヒビを入れかねません。
自社ブランドで扱う商品ジャンル・ターゲット・販売エリアの線引きを明確にし、取引先への事前説明や差別化策の提示など、丁寧な調整が必要です。
アナログ体質との向き合い方
昭和型のアナログ現場では、「新ブランドなんて無理」「今まで通りが一番」という反発が根強く残ります。
パート・派遣も含めた全従業員への理解促進、現場主導の成功体験の共有、小さな成果の積み上げによる説得力強化が、その壁を乗り越えるポイントです。
社長・工場長・現場リーダーの情熱が浸透するかどうかで成否が分かれます。
バイヤー/サプライヤー両者の視点を持つ強み
OEMメーカーが自社ブランドを経験することで、バイヤー(顧客)側のロジックを理解することができます。
「なぜこの価格で発注するのか」「どうして数量や納期に細かく指摘があるのか」を自ら経験することで、今後のBtoB取引にも活きるノウハウと視点が得られます。
サプライヤー視点でしか商談できなかった過去の自分から、バイヤー目線・市場目線で製品企画や営業提案ができるようになれば、OEM事業自体の競争力も飛躍的に強化できます。
また、OEMと自社ブランドの両立に成功しているメーカーはこの“両利き”の発想力を武器に、単なる下請けから脱却し「市場を自ら開拓できる工場」へと進化しています。
まとめ:製造業の未来を“自分たちで選ぶ”ための挑戦
OEM事業だけに安住するのではなく、自社ブランド事業に未来を賭けることはとても大きなチャレンジです。
ですが、「価格戦略」「数量戦略」「販路戦略」という三つのポイントを押さえ、現場目線の創意工夫と丁寧な社内外コミュニケーションを積み重ねれば、製造業の未来はあなた自身の手で切り拓くことができます。
アナログな業界のDNAも活かしつつ、新たな成長の地平線に一歩踏み出してください。
あなた自身が、その先陣を切る時代のリーダーです。
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