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OEM工場の選定で見るべき“社内技術者の層”

目次
はじめに――OEM工場選定の本当のキーポイントとは
製造業のバイヤーの皆様、そしてバイヤーを目指す方やサプライヤーの立場でバイヤーの思考を知りたい方に向けて、実践現場で培ったノウハウを深掘りしてお伝えします。
この記事のテーマは「OEM工場の選定で見るべき“社内技術者の層”」です。
多くの購買担当者がOEM工場を選ぶ際、設備や価格、納期、品質保証体制といった外形的な条件ばかりに目を奪われがちです。
しかし、私が20年以上製造業の現場で経験してきた中で「なぜ見抜けないのだろう?」と感じてきた最大のポイントが“社内技術者の層”です。
設備やシステムは投資次第でどうにかなりますが、技術者の層厚みや質は一朝一夕には整いません。
本稿では、なぜ技術者の層を見ることが本質的なポイントなのか、その見極め方、また層の厚い技術者集団がOEM工場にもたらす具体的な価値について、現場目線かつアナログ業界特有の土壌も織り交ぜて解説していきます。
なぜ“社内技術者の層”が重要なのか
1. OEMの本質は「問題解決能力」の移転
OEM(Original Equipment Manufacturer)の本質とは、コア技術や商品企画を持つ発注側企業と、ものづくり力を持つ供給側企業との協業です。
発注側の要望をそのまま形にするだけなら、基本的な生産設備とマニュアル労働で十分でしょう。
しかし実際の現場では、試作時のトラブル、原料変更時の微調整、現場の小さな改善、納期急変や工程内不良への即時対応など「想定外へどう対応するか」こそが、OEMの価値を左右します。
この“現場力”の核心にあるのが、社内技術者の層なのです。
2. 昭和的「匠の技」は属人化リスクにすり替わる
日本の製造業は長年“職人技”や“匠”が誇りでした。
しかし、今求められるのは一人のスーパーマンではなく「体系的かつ多重的な技術者集団のナレッジ共有」です。
属人化が進むと『あの人頼り』、『その人が休めばラインが止まる』、『標準化が遅れる』といったリスクになりえます。
逆に、一定の層厚みがあると、助け合い・継続的改善・技術伝承のサイクルが回ります。
この差は、短期的には見えづらいですが、長い取引の中で明確な差として現れます。
3. 人材流動化時代の“危機耐性”は層が決める
近年、製造業も人材の流動化が進み、退職や急な人事異動といった予期せぬ事態が起こります。
仮に中核的な技術者が抜けた時、残った人材で業務・技術伝承が回るかどうか。
これも技術者層の厚みが十分かどうかで決まるのです。
お問い合わせやトラブル時の初動スピードも、組織内の情報共有と経験層の厚さで差がつきます。
どう見抜く?OEM工場“技術者層の厚み”の見極め方
バイヤーにとって“技術者層が厚い工場”を言葉やパンフレットだけで判別するのは困難です。
ここでは現場を歩き回ってきた私から、実務的なチェックポイントを紹介します。
1. 組織図・役職名・専門職の数に注目
工場見学の機会があれば、必ず組織図や社員数の内訳を確認しましょう。
特に「技術部門」「生産技術」「品質保証」「工程管理」の名札付きのデスクが何台あるかを見るクセを付けてください。
現場でよく聞くのは「うちは現場力でカバーしてます」という言葉ですが、具体的ケーススタディや、担当者が自分の役割・業務範囲を明確に説明できるかどうかが重要です。
2. 若手・中堅の技術者比率を質問する
「この分野はAさん」と個人名ばかり出てくる場合は属人化が進んでいる証拠です。
「伝承の仕組み」や「OJT/教育体制」が体系化されている場合は、現場見学の際に若手・中堅技術者へも積極的に質問してみましょう。
ベテランだけでなく、若手が自信を持って説明していれば、技術伝承がうまく進んでいる可能性が高いです。
3. トラブル時の事例を掘り下げてヒアリング
OEM工場へのインタビューでは、「この2年で一番大変だった失敗やトラブルは何ですか?」「その時、現場や技術部門はどう動きましたか?」と聞くと、その工場の“対応力”のリアルな層を感じ取れます。
個人のヒーロー談ではなく「チームとしてどう乗り越えたか」の具体例が返ってくる工場は、技術者層が十分に機能している証拠です。
4. 現場改善・提案活動の履歴を見せてもらう
エクセルや紙の改善報告書が山積みになっていれば、現場は何かしら動いている証拠。
なかでも「複数名の名前で連名」「社内コンペ」など、活動が多様な階層で行われていることも確認しましょう。
一部の名物社員だけが主導している現場は、社内技術者のナレッジが偏在しているかもしれません。
5. 資格保有状況や外部講習参加者の数を聞き出す
工場としての公式回答だけでなく、「QC検定やISO内部監査、技能検定などを誰が受けているのか」「最近どんな外部研修に誰が出たのか」といった話題を振るのも現場力の見極めポイントです。
技術者層が厚い工場は、教育やスキルアップに積極投資している傾向があります。
層の厚い技術者集団がOEM選定で生む“本当の価値”
1. 長期安定供給と柔軟対応力
設備導入やシステム投資よりも、現場力やトラブル時の対応力は、人の層で決まります。
技術者の層が厚ければ属人化リスクが下がり、長期的な安定供給を実現できます。
特に、急な設計変更や法令改正など変化が起きた時、技術者の頭数と知見がある工場は、複数の視点から最適解を出せます。
2. コスト低減や納期短縮の“現場改善サイクル”
改善活動は、日々の業務の中で現場技術者が自発的・多層的に動くことで初めて成果が出ます。
コスト面でも納期面でも、日々の“カイゼン”こそが競争力の源泉。
技術者層の薄い工場は改善活動が単発で終わりますが、厚みのある集団では中長期的に競争力を創出し続けます。
3. 品質保証力と“未然防止力”
OEM供給において不良品混入や工程不良は絶対に避けなくてはいけません。
この時、現場技術者が自ら管理基準を設定でき、トレンドを追って未然防止策を講じられるかが鍵です。
技術者層の厚さは、潜在的なリスク検知力と未然防止の知慧に直結します。
4. “共創パートナー”としての提案力
単なる受託生産者ではなく、発注者の課題・悩みに先んじてさまざまな視点からアドバイスできる工場こそ、本当の意味でのOEMパートナーです。
技術者層が厚い工場は、細かい部分設計、工程・設備アレンジ、材料選定や製品評価などで一歩先の提案をしてくれます。
この“共創力”は、価格競争だけでなく「困った時に頼れる」「相談先になる」ことへと繋がっています。
昭和のアナログ業界が“層厚み”を生みやすい理由と、その落とし穴
昭和から続く中小製造業は、現場スタッフが定着しやすく、技術伝承が自然発生的に行われていることが多いです。
これらの企業は「顔が見える安心感」「現場との距離感の近さ」という点で大手にないアドバンテージを持っています。
一方、注意したいのが、
・十年以上変わらないベテラン主体(若手育成が停滞)
・口伝中心で、標準化や文書化が未整備
・“ムラ”や“ムダ”を許容する職人気質
こういった土壌が根強い現場では、外からは技術者層が厚いように見えても、実際は属人化リスク、伝承停滞リスクが潜在しています。
アナログ業界の良さも活かしつつ、「組織的・体系的」な人材マネジメント、ナレッジ共有まで踏み込んでチェックすることが望ましいです。
最後に――現場目線の選定で「パートナーシップ」の未来を拓こう
OEM工場選定において「社内技術者の層」を見ることは、短期的なコストや納期以上に、長期的な供給安定性、現場課題への対応力、提案競争力といった“見えない価値”を掴むためのポイントです。
昭和の伝統的な現場力を活かしつつ、令和のものづくり現場に求められるのは「多層で機能する技術者集団」です。
採用・教育・層厚みの観点でOEM工場を見つめ直すことで、発注者もサプライヤーも、強い共創パートナーシップを築くことができます。
本稿が、「技術者層」に注目する新たな地平を切り拓くきっかけとなれば幸いです。
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