投稿日:2025年9月7日

OEM商品の価格戦略と市場でのポジショニング方法

はじめに ― OEM商品の価格戦略が重要な理由

製造業の現場で事業を拡大する中で、OEM(Original Equipment Manufacturer)商品は今や多くのメーカーにとって欠かせないビジネスモデルとなっています。

特に日本の製造業界は、昭和時代から続くアナログな取引慣習や価格決定の暗黙知が未だ根強く存在します。

しかし、市場のグローバル化やデジタル技術の発展により、OEM商品の価格戦略と市場ポジショニングの巧拙が直接収益性や競争力に影響を与える時代に突入しています。

本記事では、現場目線の実践的な考え方と、業界に根付く力学を融合しながら、OEM商品の価格戦略と効果的な市場でのポジショニング方法について解説します。

OEM事業における市場ポジショニングの重要性

ポジショニングとは何か?― 差別化の本質を問う

市場での「ポジショニング」とは、競合との差別化を明確に打ち出し、顧客に自社商品の存在価値・魅力を伝える戦略を指します。

OEM商品は、外見・スペックが似通いがちなため、どこで、どうやって違いを際立たせるかが事業成功のカギを握ります。

例えば、単にコストだけを武器に市場争いへ参入すると、熾烈な価格競争に陥りやすく、安値受注地獄に陥りがちです。

そのためにも、技術力・対応力・品質・納期など“価格以外”の部分で独自価値を可視化し、「この分野なら○○社」と想起してもらうことが不可欠となります。

バイヤーの立場から見たOEMサプライヤー選定観点

バイヤーは、単純な「仕入れ値の安さ」だけでサプライヤーを決めているわけではありません。

実際の選定要素には、以下のような現場的事情が深く関わっています。

– 品質安定性(ロットごとのバラツキが少ないか)
– 納期の確実性(予定変更や突発的なイレギュラー発生時の柔軟性)
– 技術的な提案力(改善・コストダウン提案などOEMの上流側での協働体制)
– サプライチェーン全体のリスク分散(地政学リスク、サプライリスクなど)

このため、価格戦略を考える際も、単に売価だけで攻めるのではなく、「他社にはできない付加価値をどう市場に伝え、残すか」を考えることが差別化に直結します。

OEM商品の価格戦略構築のポイント

コスト積み上げ型 VS 価値ベース型 ― どちらを選ぶべきか

伝統的な日本の多くの工場では「コスト積み上げ型」の価格設定が主流です。

これは製造原価に一定のマージンを足し、順に営業原価・一般管理費を載せて価格を決めていく方法です。

このアプローチは合理的に見えますが、市場環境やバイヤー事情、最終商品価値を反映しきれていないケースも多々あります。

一方、「価値ベース型」の価格決定は、バイヤーの“本質的な期待値”やOEM商品が生み出す最終顧客価値を起点に価格を設計する手法です。

例として、納期短縮や歩留まり改善、工程自動化などで顧客サイドに大きなコスト削減・操作コスト低減などの成果をもたらしていれば、「コスト積み上げ」よりも高い付加価値価格を設定できます。

ロングテール戦略とニッチ領域での差別化

大量生産・大量消費の時代は終わり、近年はロングテール戦略や、特定業界・工程に特化した“尖ったOEM技術”が強みを発揮する傾向が強まっています。

例えば、食品機械のプレミアムパーツや、自動車部品の可変仕様対応など、“特注市場”では価格競争から一歩抜けた高収益構造が実現しやすいです。

現場目線で見れば、「標準化できる工程は徹底的に共用部品化」「多品種変量生産ゾーンはスピード勝負で価格プレミアムを意識」など、セグメント分けした価格設定こそがOEMの利益最大化につながります。

アナログ業界の構造と“価格の常識”から抜け出すために

暗黙の “見積もり文化” へのメス

いまだに多くのメーカーでは、「まずは見積もりありき」「見積もり提出が遅い、安く出しすぎると取られるだけ」といった価値観が根強いままです。

この背景には、「過去取引」や「先輩からの慣習」だけで価格決定根拠が曖昧なこと、納得感よりも“値切り合戦”が取引文化に染みついている点があります。

結果として、持っている独自技術や在庫リスク低減力といった真の強みを値付けに正しく反映できていません。

これを打破するために、「提案型見積もり」「TCO視点でのバリュープロポジション提示」といった現場主導のチャレンジが必要不可欠です。

“見せ方”を磨くこと、それが価格戦略の前提に

価格戦略の前提は、最終的に「高いなり・安いなりの理由を誰にでも納得してもらうこと」です。

工場現場のリアルとして、大半のエンジニアや生産管理担当は、自社の技術や現場オペレーションの「違い・強み」をうまく数値化し、顧客目線で伝えることが苦手です。

しかし、バイヤーは「なぜ御社はこの価格なのか」「なぜそこまでリードタイムが短いのか?」「なぜこの品質が担保できるのか?」に納得できれば値切り圧力を弱めてくれます。

そのためには、「なぜ自社がそのOEM分野で唯一無二なのか」「どんな工程・現場改善を積み重ねてきたのか」を、数値や実績、他社対比表などで分かりやすく伝える技法を磨くことが大切です。

デジタル時代のOEM価格戦略 ― DXで変わる現場とポジショニング

自動化・IoT導入は価格決定の“資産”になる

工場自動化やIoT化は、単なる生産性向上だけでなく、価格戦略に直結する要素です。

自動検査やスマートファクトリー化によって、歩留まり向上・トレーサビリティ強化・ロス率低減など具体的な費用対効果を提示できます。

これにより、「当社のOEM商品は自動化ソリューション付きでトータルコスト半減」「IoT活用により短納期・高品質が保証できる」といったバリューをバイヤーや最終顧客に訴求できます。

データを使った価格戦略と交渉テクニック

データドリブンな価格設定は、今後ますます必須になっていきます。

受注〜生産〜納品までのリードタイム履歴、過去トラブル件数、納品不具合率など、すべての値付けにエビデンスとなるデータを根拠に設定することで、バイヤーとの交渉でも説得力が桁違いに増します。

また、市場価格の適正レンジを示す客観データや海外・他業界の価格事例を準備しておくだけで、意思決定の場で有利な展開ができるでしょう。

OEM価格戦略の現場実践ポイント

現場管理職から始める価格意識改革

製造現場の第一線に立つ工場長や生産管理責任者こそ、「価格の作り方」に関与すべき時代です。

生産や品質改善の数字が、どれだけ営業価格・値決めに貢献しているかを経営・営業と共通言語で“現場→本社”に発信することが収益力強化の第一歩となります。

サプライヤー視点でバイヤー心理を読む方法

サプライヤーとしてOEMビジネスに臨む場合、バイヤーの調達部門が何を重視しているかを現場目線で想像しましょう。

コスト削減=単なる値引き、という単純な構図ではなく、生産柔軟性、サプライチェーンのレジリエンス、製品の市場化スピード、リコール時の保証力――こうした多面的なバリューで自社を相対的に高く評価してくれる“相性の良いバイヤー”を見極めることが、適切な価格で長期取引を実現する秘訣です。

まとめ ― 「差別化」と「伝わる価値」で勝ち残る OEM価格戦略

OEM商品の価格戦略と市場でのポジショニングは、単なるコスト積み上げや値引き合戦から脱却し、現場で育てた技術力や柔軟な生産体制を“伝わる価値”として顧客に訴求することに本質があります。

昭和から続くアナログな慣習を時に見直しつつ、積極的にDXやデータ活用、提案型営業といった新しい地平を開拓していくことが、これからの製造業サプライヤーの競争力を高めていきます。

単発の値決めだけでなく、顧客の期待を超える“価値の提供”と、それを根拠にした正当な価格設定――これが持続的なOEMビジネス成長の基軸となるのです。

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