投稿日:2025年10月15日

糸表面の粉化を防ぐオイル蒸発抑制と低温搬送設計の工夫

はじめに:糸表面の粉化とは何か、なぜ問題か

製造業の現場、とりわけ繊維やフィルム業界において「糸表面の粉化」は生産性や品質を左右する大きな課題です。

糸表面の粉化とは、糸やフィラメントが工程中に摩擦や劣化によって、その表皮の一部が微細な粉状となり剥離する現象です。

この現象は、糸本来の強度や美観を損ねるだけでなく、搬送装置や作業環境におけるトラブル、歩留まりの低下、品質クレームの原因となりやすいです。

昭和時代から長年続くアナログな管理体制でも、糸粉の堆積による機械のトラブルや作業者の負担増などを多く見てきました。

本記事では、この問題に対して「オイル蒸発抑制」と「低温搬送設計」という2つの観点から深く掘り下げ、実践的かつ現場目線の対応策を提案していきます。

サプライヤー目線でも、顧客であるバイヤーが実際に何を求めているのかが理解できる内容です。

糸表面の粉化の主原因

1. オイルの蒸発による保護膜の喪失

糸やフィラメントの製造工程では、多くの場合、糸の表面にスピンオイルや潤滑油を塗布しています。

これには、摩擦の低減や静電気の防止、表面保護といった目的があります。

しかし搬送や加熱工程でオイルが蒸発、あるいは劣化してしまうと、表面の保護膜が失われ、糸同士の摩擦や周辺機械との接触で表皮が傷み、粉化しやすくなります。

特に古いラインやメンテナンスが行き届いていない工程では、想定以上にオイルの揮発が進行しがちです。

2. 搬送中の高温化と急激な温度変化

糸搬送中の工程温度が高くなると、オイルの蒸発が促進されることはもちろん、糸自体が熱ストレスを受けやすくなります。

また、急激な温度変化(熱衝撃)は素材内部の応力緩和を妨げ、微細なクラックや剥離が発生、粉化の誘因となります。

昭和型の現場では「工程全体が冷暖房や断熱設備で最適な温度に管理されている」ことは少なく、環境変動の影響を強く受けやすいです。

3. 機械設計・搬送設計の未最適化

搬送ローラーやガイドの材質・表面粗度が糸種に合致していない、テンション制御が不適切、あるいは搬送速度変動が激しい場合も、糸表面の摩耗や粉化リスクが高まります。

メンテナンス不良や、古い規格機器の継続使用がボトルネックになっているケースも非常に多いです。

現場で見てきた問題と工夫

課題の“見える化”が第一歩

筆者がこれまで多数の工場を見てきた中で、粉化問題が慢性化している現場にはいくつかの共通点がありました。

たとえば、糸粉がライン周辺や搬送用のダクトに日常的に堆積して掃除が追いつかない。

品質不良解析時、「なぜ糸粉が出続けるのか」の原因特定に着手せず、ごまかし的な掃除や油増し対応でしのいでいる。

こうした現場では、まず「どの工程で粉化が起こりやすいのか」「その発生タイミング・環境条件は何か」を見える化する習慣が不可欠です。

現代的なIoTセンサー活用が理想ですが、最低限“工程分岐ごとの現物観察”が基本です。

オイル管理は“適切量・適切タイミング”が鍵

粉化抑制のために、単にオイル量を増やす、では解決しません。

過剰なオイルは逆に積層や汚染トラブルを引き起こすこともあり、またコスト的にも非効率です。

適切な塗布量の維持には、オイル塗布ユニット自体のメンテナンスや定期校正、あるいは流量センサーの導入が有効です。

一歩進んだ対応としては、糸や仕掛品ごとの表面エネルギーを計測し、より揮発しにくい新規オイルを選定するなど、ケミカルメーカーやサプライヤーと共同で進める事例も増えてきました。

搬送工程の温度管理を徹底する方法

作業場全体を空調制御するのが困難な場合でも、「高温工程直後の局所冷却」や「搬送ガイド部分の断熱・冷却化」は、比較的小規模な投資で効果を出しやすいポイントです。

たとえばホットエアー直後に糸を冷却プレートやファンで20~30秒程度冷ましてから後工程に送るだけでも、オイル蒸発・素材劣化をかなり抑制できます。

ライン設計が古い場合も、後付けで追加ユニットを導入した現場では明らかな歩留まり向上が見られました。

また、“搬送ルートの単純化(曲がり・上下移動・衝撃を避ける)”は昭和型レイアウトでも現場で実践可能なノウハウです。

バイヤーやサプライヤーが考える“改善ポイント”

バイヤー視点:納入品質の安定が最優先

バイヤーにとって最も重要なのは、「ロットごとの品質ムラや、不良品混入のリスク低減」です。

糸粉が発生しやすい製法や工程のメーカーには「安定調達が難しい」との評価になります。

改善事例やトラブル時の対応力(工程見直し履歴や、日常点検の有無)を取引前に確認されることも多く、ここで現場の工夫―たとえば蒸発抑制策や温度管理プロセスの情報開示―が競争力につながるポイントです。

サプライヤー視点:コスト競争と技術提案力

サプライヤーにとっては、「古い設備でも粉化リスクを抑える工夫」「新規オイルや温度制御機器の導入を安コストで実現した事例」「QCサークルなど現場主導の改善小集団活動」が付加価値となります。

バイヤーが潜在的に懸念している品質リスク(=粉化等)に対して、一歩踏み込んだ“見せる改善活動”は信用獲得に直結します。

オイル蒸発抑制のための具体的な炉・搬送設計

蒸発抑制型のスピンオイル選定と塗布機構

近年はより高耐熱性・低揮発性のスピンオイル(耐熱添加剤配合やケミカル改良型)が各メーカーから提案されています。

既存ラインを刷新せず、“スピンオイルのみを切り替える”だけで劇的な改善事例も出ています。

塗布に際しては、「糸に均一塗布できるノズル選定」「ミスト型や点滴型の比較検討」、定量ポンプの分解・整備サイクルの標準化が地味ながら重要なカイゼンポイントです。

搬送機構における低温ポイントの設置ノウハウ

高温工程直後の糸をゆっくり冷ますことでオイル蒸発を防ぐためには、「空冷ファン」「冷却ローラー」「水冷プレート」など各種ソリューションがあります。

特に「冷却導線を必要最短で」「搬送姿勢を安定化」「過度な急冷を避けてクラックを抑える」のバランス感覚は現場ならではの技術です。

投資コストを抑えるなら廃材利用の遮熱カバーやアルミフィン、簡易ファンなども現場発案で効果を出しています。

デジタル化・IoT導入による見える化と改善

昨今はIoTセンサーを使い、「搬送工程ごとの温度」「糸表面の湿度」や「オイル塗布量・摩擦データ」をリアルタイムで把握する取り組みも増えています。

例えば「温度異常値を検知した瞬間に自動アラーム通知」「糸粉化量が閾値を超えたら清掃指示や工程停止がかかる」ような仕組みです。

また、こうした取り組みはバイヤーへの説明材料・信用獲得策にもなりやすいです。

アナログな工場であっても、「まずは一部ライン・要所からの小規模センサー設置」→「成功事例を他工程に展開」→「全社標準化・バイヤーへの品質報告」と段階展開するのがセオリーです。

まとめ:現場から生まれる競争力の源泉

糸表面の粉化問題は、長年のアナログ運用や技術継承のみでは簡単に解決しないテーマです。

だからこそ、オイル蒸発抑制策と低温搬送、設計・運用の最適化こそが、現代の製造現場における差別化ポイントとなっています。

現場目線での小さな気付きと地道な工夫は、やがて品質・生産性向上、クレーム削減という大きな成果へと発展します。

最先端のIoTや設備投資だけでなく、「現状分析→仮説立案→小改善検証→全体展開」のサイクルを回し続けること。

サプライヤーが“バイヤーの本音=安定品質要求”を読み解き、具体的な改善事例を言葉とデータで提示すること。

その積み重ねが、昭和型の製造業から真に進化した新世代メーカーとして信頼される近道です。

粉化抑制の現場知恵を一歩ずつ、現代型の“見える化”と“データ活用”でアップデートし、より持続的な成長・顧客満足に結び付けていきましょう。

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