投稿日:2025年10月2日

古い品質保証体制がグローバル顧客の信頼を失う理由

はじめに:品質保証体制の現状とグローバル顧客ニーズ

日本の製造業は、長い間、高品質・高信頼の代名詞として世界市場で地位を築いてきました。
しかし、近年はグローバル化の加速と顧客の要求変化により、「かつての常識」が通用しなくなってきています。
中でも古い品質保証体制のまま変化に対応できないことが、グローバル顧客からの信頼失墜につながっています。

本記事では、昭和から続くアナログな仕組みに依存することによる弊害を明らかにし、製造現場で経験してきた実例や業界の動向も踏まえながら、なぜ今こそ変革が求められるのかを深掘りします。
バイヤー志望者やサプライヤー視点からも参考となるよう、実務に即した考察を展開します。

古い品質保証体制とは何か

紙ベースの記録と属人的な運用

日本の多くの工場では、品質管理や保証の記録が未だに紙ベースで行われています。
不良発生時の記録や報告書の作成も「誰が」「どのように」記入するかが明確でなく、担当者の裁量に頼る属人的な運用になりがちです。
残念ながら、記録の改ざんや情報伝達ミスが起こりやすく、トレーサビリティの担保にも不安が生じます。

Excelマスターの“神Excel”運用

紙よりはデジタルだ、ということでExcelやAccessといった個人PCのファイル管理に頼る現場も少なくありません。
いわゆる「神Excel」が乱立し、担当者が異動・退職すると業務がブラックボックス化することもよく見受けられます。
現場に詳しい人材に強く依存しすぎる体制は、グローバル顧客からみて「透明性・再現性・堅牢性」に欠けると認識されます。

現場と品質部門・経営層の分断

品質問題が発生しても、現場と品質保証部門、あるいは経営層の間で素早く情報共有・意思決定ができない企業が多いです。
決裁フローが長く、“お伺い文化”が根付いてしまい、タイムリーな対応が取れません。
この遅れが、致命的なリコールやクレームの増加、顧客への説明責任未達につながります。

グローバル顧客が本当に求めているもの

データに基づくエビデンスの確認

現代のグローバルバイヤーは、「実績と数値で裏付けされた品質保証」を最重要視します。
たとえば米国や欧州の自動車メーカー、IT機器企業は、仕様や工程異常に対するリアルタイムなデータ追跡が標準要件です。
紙やExcel PDFの提出だけでは、信頼性・真正性・改ざん防止の観点で厳しく見られ、市場参入や契約維持に大きなハードルが生じます。

サプライヤー間の“情報流通速度”

グローバルサプライチェーンでは、ひとたび不具合が発生するとサプライヤー全体の情報共有と原因究明、対策のスピードが求められます。
旧態依然の縦割り体制や個人依存の仕組みでは、要求されるスピードについていけなくなります。
この遅れが「次の調達ロジック」から外される直接的な理由になります。

品質文化を重視する目利き

また、海外顧客は“構造化された品質文化”そのものを見極める力が強くなっています。
QCサークルの名ばかり活動、見せかけの5S、「報告・連絡・相談」に止まる品質会議など、形骸化した取り組みは見抜かれます。
サプライヤーに求めるのは、プロセス標準化と、それを現場が本気で運用し続けられる“仕組みとしての品質保証体制”です。

失敗事例:国内メーカーの信頼失墜・現場からの証言

ISO認証の形式主義で顧客クレーム

実際に筆者が経験した事例で、海外顧客向け部品を製造する某工場の品質保証体制が問題となったケースを紹介します。
ISO認証は取得していたものの、手順や判断は現場担当者の経験と勘に強く依存しており、異常時の記録も紙ベースのままでした。
海外顧客からの監査でデータ不足や異常対応の遅れが露見し、大口受注契約の見直しを余儀なくされました。

トレーサビリティ不全の重大リコール

もう一例、複数工場を横断する部品ロットで不良品クレームが発生。
部品製作~出荷までの工程記録が各工場・担当者のファイル毎に管理されており、原因工程の特定に数週間かかりました。
グローバル顧客からは「なぜ数日で明確に説明できないのか」と不評を買い、その後の注文数が激減しました。

昭和型体制が変わらない背後要因

“成功体験の呪縛”と「変わること」への消極性

多くの工場やメーカーでは、かつての高度経済成長・バブル期の「成功体験」が今も経営層・ベテラン従業員に根付いています。
「今まで上手くいってきたのだから大丈夫」、「昔からこのやり方でやっているから安心」という意識が、変革を阻みます。
現場主義や長年の職人技を否定することなく、“本当に変えるべきもの”を見極める視点が求められます。

「人がやれば良い」という過信

人手不足や慢性的な残業問題が叫ばれる中でも、「困ったら人ががんばればよい」という文化が消えません。
工場現場の情報インフラ整備やIoT・AI活用の後回し、IT投資への消極的な姿勢が、外部からの“評価基準”を見失わせているのです。

変革に向けた第一歩:今できること

工程データ・記録のデジタル化

まずは全ての「工程情報記録」をデジタル化し、リアルタイムで共有・分析できる仕組み作りが必須です。
安価なIoTセンサーやクラウド、既存のERPシステムでも十分スタートできます。
記入ミスや改ざんリスクを抑え、顧客の要望に即座に応えられる体制構築の第一歩です。

全員参加型の品質文化改革

現場だけでなく、間接部門、管理職も巻き込んだ品質意識の確立が重要です。
PDCAやFMEAなどの手法も“知識伝達”で終わらせず、現場課題ごとに柔軟な実践事例を展開します。
小さく始めて定着させる仕組みをボトムアップで作ることが、グローバル顧客からも高く評価されます。

顧客とのオープンなコミュニケーション

品質問題が起きた際は、悪い情報ほど隠さずにタイムリーに説明・対応する姿勢が信頼回復の前提となります。
現場品質保証員が直接オンラインで顧客と対話するなど、透明性の高い情報交換体制をつくることで競合との差別化につながります。

サプライヤー・バイヤー双方の未来戦略

「選ばれるサプライヤー」=「変化対応力」

バイヤーを目指す方は、単にコストや納期だけを見るのではなく、調達先の「品質情報の可視化力」「異常時対応スピード」「全社横断力」などを見極める目を養うべきです。
一方、サプライヤーにとっては、社内の昭和型文化に安住せず、“デジタル時代の品質保証”を自社の宝に変えていくことが必要条件です。

共創型品質マネジメントの時代へ

これからはサプライヤー・バイヤー・顧客が一体となり、品質保証データのオープン化や技術交流を通じて「共創型の品質マネジメント」を実践する時代です。
DXやサーキュラーエコノミー(循環型経済)、ESG経営といったテーマも視野に入れ、未来志向の品質保証体制を構築していきましょう。

まとめ:品質保証体制の進化が製造業の信頼を守る

古い品質保証体制に固執することで、グローバル顧客からの信頼を失うリスクはますます大きくなっています。
紙やExcel、属人的な運用、分断的なコミュニケーションはもう通用しません。
製造現場の声と技術革新を融合させ、顧客・調達先双方の信頼と競争力を実現するために、今こそ変革に踏み出しましょう。
読者の皆さんがそれぞれの現場で「新しい品質保証のあり方」を実践し、日本の製造業が再び世界の信頼を勝ち取る一助となることを願っています。

You cannot copy content of this page