投稿日:2025年9月29日

古い安全衛生の仕組みが労働災害を増やすリスク

はじめに:いまだ根強い「昭和的安全衛生」が労災リスクを高める理由

製造業の現場では「安全第一」というスローガンが長年掲げられてきました。

一方で、その裏側には昭和時代から引き継がれた安全衛生の習慣、制度、考え方が依然として残っています。

現場経験が長い方ほど、「昔からこうだ」「現場に合っている方法は変わらない」といった空気を感じていることでしょう。

しかし近年、こうした古い安全衛生の仕組みが、むしろ労働災害のリスクを高めかねないという大きな問題が顕在化しています。

この記事では、なぜ時代遅れの安全衛生管理が危険なのか、どのようにして新しい安全文化へとシフトチェンジしていくべきか、製造現場の実情も交えながら具体的に解説します。

バイヤーを目指す方やサプライヤー視点でバイヤーの考えを知りたい方にも、実務の参考となる内容を心がけます。

古い安全衛生の特徴とは何か

「三現主義」の形骸化

製造業の現場では、「現場」「現物」「現実」を重視する三現主義の重要性がよく説かれます。

しかし現実には、三現主義が形骸化し「現場での危険は現場任せ」となっている光景が多くあります。

例えば朝礼での注意喚起や、巡回点検時の口頭指示だけで具体的なリスクの洗い出しや改善アクションにつながっていません。

これが「見て見ぬふり」や「慣れ」による災害の温床となります。

紙中心の記録と報告、属人的運用

多くの現場では、点検や作業報告、安全衛生に関する記録が今なお紙媒体で行われています。

記録内容は形式的に「〇」「×」を記入するだけ、内容もチェック項目をなぞるだけというケースが多く、実態に即したリスクの顕在化や知見の集約が進みません。

また、危険源の把握や周知がベテランや担当者個人の経験・勘に頼り切っている場合も多く、世代交代や担当変更のたびにリスク認識が途切れがちです。

「事故を起こしたら指導強化」という後手の発想

事故が発生した際は検証・再発防止が重要ですが、「事故を起こしたら該当作業者への指導や教育を強化する」という後手の発想が主流となっています。

組織的・本質的な対応ではなく、ミスした個人の責任に帰着させることで「隠ぺい」や「口頭注意だけ」の対応に終始しやすいのが実態です。

これでは根本的な危険源の除去や仕組みの見直しにはつながりません。

さらに悪化するリスク:現代の工場環境と人材構成の変化

設備機器の高度化と複雑化

現代の製造工場では自動化やIoT、ロボティクスなどの導入が急速に進み、設備機器はますます高度かつ複雑になっています。

それにもかかわらず、昭和のままの「目視点検中心」「過去の経験がすべて」といった安全管理では、外見や感覚では気付けない新たなリスクや故障・誤作動を見逃すケースが増えます。

多様化する現場作業者:技能実習生や派遣スタッフの増加

近年、製造業現場では外国人技能実習生や派遣スタッフの活用が拡大しています。

しかし安全教育も手順書も日本語中心、しかも現場のベテランが「見て覚えろ」「分からなければ聞け」といった口頭コミュニケーションに頼ることで、言語や文化の壁による誤解や認識違いから事故が発生しがちです。

熟練作業者の高齢化と新規採用の未経験者増加

昭和時代は「10年一人前」という職人気質が支えていた現場ですが、今は高齢化と未経験者の増加で、その伝承方法自体が見直しを迫られています。

「昔は当たり前だった」「長年やればわかる」という発想では、若手や新規スタッフが安全衛生ルールを正確に理解・実践できるはずがありません。

なぜ古い安全衛生のままだと労働災害が増えるのか

「ヒヤリ・ハット」の潜在化と情報共有の不全

アナログな管理では、現場で発見された「ヒヤリ・ハット」や細かい異常が、組織全体で共有・分析・改善までつながりません。

「言わなくても分かるだろう」「自分の作業が終わればよい」となり、せっかくの気付きが活用されないまま同じ事故の再発リスクを放置してしまいます。

リスクアセスメント不在による“見落とし”

最新の労働安全衛生法では“リスクアセスメント”が求められていますが、旧来のやり方のままでは、設備や作業工程の本質的な危険性の洗い出しが不十分です。

特に複数要因が絡み合う現代の職場では直感や経験だけでは把握しきれず、思わぬところで事故が発生する要因となります。

コンプライアンス意識の低さが企業評価を毀損

事故が多発する企業は、ESGなどの観点からも社会的信頼を失い、取引先バイヤーからの取引解除リスクも高まっています。

古い安全衛生体制では、事故隠しや過少報告など悪習が温存されやすく、企業ブランドが毀損されれば経営の根幹が揺るぎかねません。

バイヤーやサプライヤーにとっての“現実的な”リスクと機会

サプライヤーの安全水準が取引決定の材料になる時代

今や大手バイヤーは、納入先や外注先の労働安全衛生管理レベルも重視しており、安全事故の多発や労働環境問題があればサプライヤー選定から外されるリスクが現実のものとなっています。

古い体質のままで「価格で勝負」と考えていると、持続的な取引の機会を失いかねません。

ISO認証、グローバル基準への適合意識が不可欠

国内外の大手メーカーではISO45001(労働安全衛生マネジメントシステム)などの認証取得が標準化しつつあり、取引先にも同等レベルのマネジメント体制整備を求める動きが強まっています。

「ウチは昔からこれでうまくやってきた」といった考えではグローバルビジネスの波に乗り遅れてしまうのです。

本当に必要な“現代的安全衛生”のアプローチとは

デジタル活用で安全情報の見える化・ナレッジ化

現場で収集される危険情報、ヒヤリハット、点検記録などをデジタル化し、リアルタイムで集約・共有することが重要です。

タブレットやスマートフォンの活用によって、誰でも簡単に現場の状況を記録し、それが自動分析・警告機能と連動できれば、未然防止につながります。

また紙ベースから段階的にでもクラウド管理へ移行することで、情報の属人化・消失リスクを減らせます。

リスクアセスメントとKYT(危険予知訓練)の“型”化と仕組み化

リスクアセスメントは特定の担当者やベテランの直感に頼らず、全員参加型で標準化された手法を使うことが望ましいです。

たとえば月1回は多職種合同KYT(危険予知訓練)を実施し、現場写真や動画を題材にして皆で「どんな危険があるか」を出し合い、対応策を合意して仕組みとして現場に落とし込む仕掛けづくりが重要になります。

多様な現場作業者に適した安全教育・OJTの再設計

日本語の分からない現場スタッフ、未経験者、外国人等にも分かるように、「やって見せる」「伝える」だけでなく、「動画マニュアル」「ピクトグラム・イラスト解説」「多言語表示」など、徹底した分かりやすさへの配慮が必要です。

OJT(On the Job Training)も、現場作業の見守り・振り返りによる“気づき共有”を重ねながら、現実的な安全意識を育てるプログラムへと再設計すると効果的です。

経営層によるトップマネジメントの“見える化”

経営層が「現場に任せる」「資料でチェックする」だけでなく、定期的な現場視察、現場スタッフとの対話、安全専門家との意見交換を通じて自らリスク感度を高めることが重要です。

また、SNSや社内広報・安全報告会を活用し、安全文化を全社的に浸透させる仕掛けも効果的です。

まとめ:昭和からの脱却が未来への成長戦略

古い安全衛生の仕組みに頼ってきた時代は終わりを迎えました。

現代の工場では、人材構成も設備もグローバル化・高度化が進むなか、データ活用や分析、現場主導の改善など、新しい知恵と工夫を取り入れた安全文化の醸成が避けて通れません。

それは「法令順守」や「事故ゼロ」のためだけでなく、取引先から選ばれ続ける競争力の源となり、働く従業員のモチベーションと会社のブランド価値向上にも直結します。

もし今「ウチはまだ古いやり方だけど大丈夫だろう」と思っているなら、今日から一歩踏み出すことをおすすめします。

その行動が、あなたの会社と現場、そして製造業界全体の持続的発展につながるはずです。

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