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現場調整で何とかする文化が品質を不安定にする

目次
はじめに~「現場調整」への過度な依存が抱える問題
日本の製造業は、緻密なものづくりと現場の器用さによって長年成長してきました。
特に中堅製造業や下請け企業では「現場調整」「現場力」で何とかしようとする文化が根強く、昭和から令和に至るまでその精神がバトンのように受け継がれてきました。
一方で、この「なんとかする」現場至上主義が“いつまで経っても抜け出せない品質の不安定さ”を生み出していることに、多くの方が気づきはじめています。
本記事では、実際の現場や調達・購買、生産管理、品質管理、そして工場自動化の経験をもとに、現場調整文化がなぜ品質リスクの温床となるのか、その本質と背景、そして「どうしたら脱却できるのか」を深掘りしていきます。
「いつまで現場に丸投げし続けるのか」
働く全ての方にとって無視できないテーマとなっています。
現場調整とは何か~その美徳と限界
本来の意味と現場で起きていること
現場調整とは、“図面や計画、標準書には明確に記載されていないこと”や“予期しない不具合・仕様変更”に対し、現場担当者が機転や工夫、経験知を活かして適宜調整・解決することを指します。
これは日本の製造現場の強みの一つでした。
現場で工夫が重ねられることで、柔軟かつスピード感のある対応が可能になり、多品種少量生産や、急な設計変更などにも対応してきた歴史があります。
また、「現場で何とかする」という姿勢は、困難を乗り越える粘り強さや、仕事への誇りとして語られてきました。
しかし、その一方で
– 標準化・ルール化が進まず、ノウハウが属人化する
– 思い付きや記憶頼りで改善・維持されるため、品質が安定しない
– ミスの再発防止が「教育」や「気を付けます」に終始しやすい
– 調整の記録・伝達が曖昧になり、納入後トラブルや顧客クレームに発展する
といった“負の側面”が常に指摘されています。
なぜ今まで許容されてきたのか
「現場調整で回る」ことが長らく許容され、推奨すらされた理由は、主に
– 急速な経済成長と納期短縮競争でスピードが最優先だったこと
– 職人的な熟練労働者が多く、技術継承が“口伝”“現場体得”で成立していたこと
– サプライチェーン網が日本国内や特定地域に集中し、何かトラブルがあっても顔の見える関係で乗り切れたこと
にあります。
ですが、グローバル化や少子高齢化による人手不足、多拠点生産とアウトソーシングの進展、顧客からの厳格な品質要求・トレース性強化要請が高まったことで、“現場任せ”のリスクが不安定さとして可視化されるようになりました。
現場調整文化が品質を不安定にするメカニズム
問題が「個人」に閉じてしまう組織構造
現場での臨機応変な対応は、見方を変えれば“属人的な対応”です。
例えば同じ部品加工の工程でも、担当する人が変われば調整手段や仕上がりが微妙に違い、「ベテランの〇〇さんじゃないとこの作業はできない」「今日は新人だから不安だ」といった不安が現場に蔓延しやすくなります。
更に、不良や問題品が発生しても、「現場でなんとかしろ」「とりあえず応急措置で回せ」といった指示が繰り返されれば、問題の本質的な解決は先送り・曖昧にされ、その都度異なる調整が行われることで品質が安定しません。
「現場でなんとかなる」は“再現性”を担保できない
品質保証で本当に求められているのは、誰が操作しても、どのロットでも、同じ品質が再現できることです。
現場調整が常態化すると、不測の事態があった際でも「前回はこうやった」「多分これで大丈夫」と場当たり的対応に頼りがちになり、その記録や根拠が残らないまま出荷されるケースが増えます。
結果として「なぜ不良が発生したのか」を後から追跡するのが困難となり、クレーム時にはいつも“原因不明”や“現場でやってました”となる悪循環に陥ってしまいます。
標準化・マニュアル化から逃げ続ける現場心理
現場に根付いた職人気質や、“やり方を説明するのが面倒”“自分の居場所を守りたい”といった心理から、工場自動化や工程の標準化を拒む空気も存在します。
このため、せっかく改善活動や新しい設備導入を進めようとしても、「今はこれで回ってるから大丈夫」「標準化しても現場の直感がなくなる」といった抵抗に合い、会社全体の品質安定化・生産性向上が遅れてしまうのです。
現場調整文化からの脱却に必要な視点
バイヤー/サプライヤーの関係性変化と品質安定の重要性
サプライヤー(供給者・製造側)とバイヤー(調達・購買側)の関係性は今、大きく揺れ動いています。
以前のような「現場で何とかしてくれるから安心」という関係性は減り、グローバル調達や部品共通化が進む中で『安定供給』『安定品質』『トレーサビリティ』が強く求められています。
バイヤー視点で見ると、
– 「現場丸投げ」「今までこうしてきた」という不透明なリスクは最も避けたい要素
– 異常や不良の発生理由、対応方法の即時説明・是正ができないと信頼を失う
– 力業での問題解決はサプライヤー側の管理不足・指導不足と見なされる
といった厳しい現実があります。
サプライヤーとして選ばれ続けるためには、「現場で調整した内容・理由を正確に残し、再現可能・見える化している」ことをバイヤーに示す必要があります。
伝統を肯定しつつ「再現性」と「標準化」へ
現場調整自体を全否定するわけではありません。
むしろ、数十年に渡り培われてきた現場ノウハウや熟練工の知識にこそ「未来へのヒント」「標準化のネタ」が眠っています。
重要なのは
– 調整・工夫した内容を“個人技”として閉じず、「なぜ・どうやった」を記録・可視化する
– 他の人、次の工程も同じようにできる「再現性」を仕組みとして組み込む
– そのプロセスを見直し、標準化・マニュアル化し続ける
ことです。
工場の自動化やIoTも、単なる設備更新ではなく「現場調整で何とかしていた曖昧な部分」を明確化し、標準プロセスに落とし込む活動と組み合わせて成果を発揮します。
製造業の未来に向けた具体的アクション
ノウハウの形式知化と現場教育
– 熟練作業者のやっている暗黙知(経験則・コツ)を、工程ごとのチェックリストや工程フローチャート、操作マニュアルなどに落とし込むこと
– 「なぜこうしているのか?」「ここで押さえるポイントは?」を現場ヒアリングし、全員で合意した標準作業を作り上げる
– 教育やOJT、動画マニュアルなどを併用し、若手・未経験者でも“同じ品質”が作れる仕組みにする
現場の声を経営に直結させる仕組み化
経営層や管理者は、現場からの調整要望や不具合情報を単なる「問題報告」ではなく“改善のための宝”と捉え、現場-管理部門-経営層間での情報共有フローを整備しましょう。
例えば、
– 調整やイレギュラーがあった際の記録・報告ルールを整備
– 是正措置・標準変更につなげる仕組み
– 調整対応の頻度分析・減少目標設定
など、現場の知恵を全社的な改善活動として水平展開することが重要となります。
現場に根差したデジタル化・自動化
「ノウハウの形式知化」や「記録の徹底」は、デジタル技術とあわせて行うことで圧倒的な効果を発揮します。
– IoTセンサーや自動計測機器による作業状況の可視化
– 生産管理システム(MES)で調整履歴や異常の記録を見える化
– デジタルデータを活用した工程分析や異常予兆検知
など、現場に根差したデジタル活用こそが“現場力の進化”につながります。
また、自動化を導入する際は「現場がどう工夫していたか」を十分ヒアリングし、“人の調整=良品”だった領域をマシンが正確に再現できるよう開発・導入を進めることが重要です。
まとめ~「なんとかする現場」から「安定品質の現場」へ
現場調整で何とかする文化は、日本のものづくりを支えてきた大きな強みでした。
ですが、グローバルな競争・顧客要求の高度化・人材の多様化の中で“現場任せの曖昧さ”は大きなリスクとなり、品質不安定やサプライヤー淘汰の原因になりかねません。
これからは、現場の工夫や知恵を「記録し、見える化し、再現性ある仕組み」に落とし込み、「誰でも・いつでも同じ品質」が保証できる現場づくりが必要です。
現場で働く方は、自らのノウハウ・工夫を「標準化」し、後進や他工程でも使える財産にしていきましょう。
サプライヤー・バイヤー・経営層の全てが「現場調整の美徳と限界」を共通言語にし、安定品質と改善文化で新時代を切り拓くことこそ、日本の製造業に残された最大の成長への鍵です。