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AIの判定基準が不透明で顧客クレーム対応が難航する課題

目次
はじめに:AI判定と製造業の現場が直面する新たな課題
近年、製造業においてAI(人工知能)を活用した検査・判定システムの導入が急速に進んでいます。
従来、熟練作業者が「目視」や「手触り」「音」など五感を駆使して行ってきた品質管理や外観検査は、少子高齢化・人材不足などの社会的な要請と相まって、大きく姿を変えつつあります。
しかし、AI導入の現場からは「AIがなぜそのような判定をしたかわからない」「AIでOKになった品物なのに顧客からクレームがきた」「AIの判定内容を顧客に説明できず、クレーム対応が難航する」といった、これまでになかった新しい課題が多く報告されています。
本記事では、20年以上の製造業現場経験と管理職視点から、AI判定基準が不透明なことによるクレーム対応の困難さ、その背景、そして解決に向けて現場がとるべき具体的アプローチを、現場目線かつ実践的に解説していきます。
AI判定システムが製造現場にもたらす変化
従来の品質判定とその透明性
これまでの製造現場では、品質判定や外観検査は多くの場合、作業者の熟練度や暗黙知に支えられて行われてきました。
判定基準は仕様書や検査基準書として形式知化されているものの、細かな最終判断には「ベテランの目」が大きく影響していました。
そのため、何か問題が起きても「どの工程で、どんな基準で、誰が判定したか」を追跡しやすく、「なぜこの判定になったのか」を説明できる体制が整っていました。
アナログながら透明性やトレーサビリティは意外と確保されてきた側面があります。
AI判定システムの導入背景
ところが、近年の人手不足や品質要求の高度化、そして大量生産・多品種少量生産への対応として、目視検査や外観検査の自動化が進められ、カメラとAIを組み合わせた自動判定が登場しました。
AIによる判定は、人間が気づかない微細なキズやパターンも捉えてくれる一方で、導入後に新たな「ブラックボックス化」の課題を生んでいます。
つまり、AIが「この部品はNG/OK」と判定した根拠が、現場・調達購買・品質管理の担当者だけでなく、工場長や場合によっては技術開発部門ですら説明できないケースが生まれているのです。
AI判定基準の「不透明さ」が現場にもたらす混乱
クレーム対応時の説明責任が重くのしかかる
取引先や最終顧客から「納品された部品の一部に不良があった」「目視ではわかりにくいけど用途上NGだ」といったクレームが発生した際、従来なら「○月○日・○○工程・○○さん(検査員)が、検査基準書A-12に基づき目視検査を実施、OKとしました」と説明できたものです。
ところがAI検査になると、「カメラ画像とAI判定ロジックでOK」としか言いようがない。
「なぜOKになったのか」、「同じような表面状態のものはNG判定されていないか」「閾値はどうなっているのか」など、顧客バイヤーからの鋭い問いに対して現場は回答に窮します。
特に自動車・電機・精密機器などBtoB取引の厳しい業界では、客先監査やサプライヤーアセスメントも日常茶飯事です。
「AIではじき落とせなかった理由を出せ」と要求された際、現場が論理的に説明できないのは非常にリスクになります。
昭和的な現場力とAI導入のギャップ
昭和から続く日本の製造業流儀では、「現場に強い」「現場を知るリーダーが説明責任を果たす」文化が根付いています。
顧客からクレームが入れば、現場責任者や工場長自ら乗り込み、現物や工程を前に説明し、信頼を維持してきました。
しかしAI導入後は、「どうしても説明がつかない」「AIが“学習して”判断した、としか言いようがない」となると、現場リーダーが矢面に立ちにくくなります。
顧客対応が標準化・形式化され、昔ながらの現場力が発揮できず、信頼関係の維持に影響が出やすくなっているのが現状です。
クレーム解決工数の増加による負のスパイラル
AI判定の透明性不足により、クレーム対応の調査・報告・再発防止策の検討に要する工数が劇的に増加します。
AIの検査履歴やロジック全体を追跡したり、過去画像をすべて再度評価し直すなど、従来よりもはるかに煩雑で非効率な作業工程も増加します。
このため、生産現場の本来の改善活動や新たなイノベーションへの投資が削られる“負のスパイラル”が発生しかねません。
業界各社が取り組むAI判定「透明化」の最新動向
判定アルゴリズムの「可視化」アプローチ
こうした課題を解消しようと、最近では「Explainable AI(説明可能なAI)」の導入が各社進んでいます。
たとえばディープラーニング系のAIの場合でも、入力(カメラ画像)から「どの特徴量」に着目して「なぜNG判定/OK判定したか」をヒートマップや説明テキストとして出力する仕組みを開発しているAIベンダーが増えています。
また検査ラインの工程ごとに「何パターンの画像・データが学習されているのか」「どのような閾値で線引きされているのか」を管理ツールとして一覧化し、現場や品質管理担当者がいつでも確認・メンテナンスできる体制づくりも進んでいます。
顧客とも共有できる「AI判定レポート」
大手サプライヤーでは、AI判定の根拠や検査フローを「AI判定レポート」としてまとめ、顧客への報告・監査時に提出できる仕組みを構築しています。
たとえば「本品はAIモデルVer2.1で判定。以下の特徴量(例:ライン傷長さ0.3mm以上等)に該当しなかったためOKと判定しました」と、過去判定履歴とともに証憑付きで説明できる体制づくりが進みつつあります。
これは調達購買・品質保証部門の日常業務負荷を大幅に下げ、信頼関係構築に寄与します。
現場・サプライヤー・バイヤーが今すぐできる実践対策
AIモデル学習時に「現場の声」を反映させる
AI導入時、「現場で実際に起こっている課題や悩み」をデータセットにしっかりと反映させることが肝心です。
具体的には、現場検査員や工場長、品質保証スタッフが過去に経験した“迷う判定パターン”をなるべく多くAIに学習させるようにします。
「OK・NGのグレーゾーン」「顧客固有の要求事項」「用途限定NG」など、人間目線の“判定観点”を開発段階でAIシステムベンダーと一緒に討議することが不可欠です。
社内に「AI判定説明人財」を育てる
AI導入後は、現場リーダーや品質管理担当者が、AI判定の仕組みや判定根拠を自信を持って説明できるよう、社内に“AI判定説明人財”を育成します。
AIシステムベンダーからの直接研修や、判定ロジック・履歴データの解析ノウハウの習得など、現場目線で「本当に現場で役立つAI知識」を身につけましょう。
「この品物は、こういう理由でAIがOK/NGと判定した」と自信を持って答えられる人材こそが、アナログ時代から受け継ぐべき現場力の新形態です。
顧客バイヤーへの「透明性」PRが重要
AI判定システムの透明性や検査履歴の追跡性を、積極的に顧客側のバイヤーや品質保証部門にアピールしましょう。
現物サンプルや検査履歴を使った“見える化ツール”をプレゼン時に活用したり、顧客向け定期説明会の開催、クレーム発生時にはAI判定データ付きで速やかにレポート提出を行うことで、信頼性の向上とリスクヘッジを両立できます。
また「AI判定レポート」や「AI説明書」を英語・多言語化対応することで、グローバルバイヤーとの商談にも有利に働きます。
ラテラルシンキングで考える、AI判定透明化の未来
現状のAI判定透明化は「仕組みや経緯を説明する」ことにとどまっていますが、これをラテラルシンキングでさらに深く掘り下げてみましょう。
「AIが人間の代わりに判定する」ことを“完全な置き換え”とせず、現場の“第六感”や“歴史的ノウハウ”をAI判定と併記するハイブリッドモデル開発も一つです。
つまり、AI判定だけに丸投げせず、「AI判定+ベテラン作業員の意見+品質管理の多角的検証」を標準プロセス化し、必ず“なぜ”を説明できる体制にする、といった工夫ができます。
また、“判定ミスが招く損失コスト”をAIが自動解析し、どの部分の精度を高めると一番クレームリスクを低減できるのか、経営的視点を加味したAIモデル最適化も今後は重要になります。
さらに、サプライヤー/バイヤーの壁を越え、「業界横断型AI判定データベース」を作り、どの企業もデータ検証・改善に参加できる共創エコシステムを構築できれば、業界全体の品質向上という新たな地平線が拓かれることでしょう。
まとめ:昭和の現場力とAI技術の融合で顧客クレームゼロへ
AI判定基準の不透明さがもたらす顧客クレーム対応の難航は、デジタル化・自動化の時代に入った製造業が乗り越えるべき大きな壁です。
一方で、現場の暗黙知や現場力を新時代の形で活かし、AIの透明化と説明責任を両立させることが、顧客との信頼構築・差別化のカギとなります。
現場担当者・サプライヤー・バイヤーすべてが、「AIで判定されたから説明できません」ではなく、「AIも人も納得できる品質判定・透明なものづくり」を実践できる業界へ、共に進化していきましょう。
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