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オープンブックで工数と材料と副資材を可視化する交渉フレーム

目次
はじめに:なぜ今、「オープンブック交渉」が注目されるのか
製造業の現場では、伝統的に「価格交渉は根競べ」「製造原価はブラックボックス」という考え方が根強く残っています。
しかし、グローバルなコスト競争激化や、サプライチェーンの多様化、SDGs対応など、さまざまな外部要因により、今「オープンブック」での原価構造の可視化が、調達・購買活動の現場に求められる時代となっています。
この記事では、昭和アナログ時代の“カンと経験”を脱却し、工数・材料・副資材といった原価要素をサプライヤーと共有し、建設的な交渉やパートナーシップを実現する「オープンブック交渉フレーム」を、私の現場経験も交えて解説します。
「なぜ見える化するのか」「なぜ見せるのか」「見せたその先にどんな価値が生まれるのか」を、メーカー、バイヤー、サプライヤーそれぞれの立場から考えていきます。
オープンブック交渉の基本とその必要性
オープンブックとは何か
オープンブックとは、サプライヤーが積算根拠(工数、材料、副資材、間接経費、利益率など)をバイヤーへ開示し、価格交渉を“透明なもの”にする手法です。
従来の価格交渉では「希望単価提示→値下げ要請→妥協」というプロセスが一般的でした。
一方、オープンブック交渉では
– 工数
– 材料費
– 副資材費
– 間接コスト
– 利益率 など
これらの情報を双方がテーブルに出し合い、合理的な根拠で価格設定します。
なぜ今これが求められるのか
現場でよく聞く「値下げ要請がきつい」「原料高が転嫁できない」といった悩みは、情報の非対称性やコミュニケーション不足が根本の原因であることが多いです。
オープンブック交渉により、お互いの制約条件や努力も見えるため「なぜこの価格なのか」「どこを改善すればいいのか」が具体的に議論できます。
また、リーマンショックやコロナ禍で浮き彫りになったサプライチェーンの脆弱性──これを打開するのは、不透明な関係性ではなく“共通の可視化された問題意識”をベースにした協業姿勢です。
オープンブック交渉で可視化すべき「3つのコスト」
工数:作業の中身の見える化
工数は、その部品や製品を加工するために掛かる「手間=時間」を意味します。
昭和世代には「みんな同じ工数?」という思い込みも根強いですが、実際には工程設計や設備自動化、省力化レベルで大きく変わります。
まず、
– 工程ごとの作業時間
– 作業人数
– 設備の稼働率
– ロットサイズ
– 不良率
こうした現場データを数値で洗い出すことが、“納得できる原価”の出発点となります。
自動化が進んでいる現場では、段取り替えやメンテナンス工数を含めた「トータル工数」の視点が重要です。
材料費:調達力&分散調達の可視化
材料費はもはやグローバル調達が当たり前です。
調達元の多様化、需給変動、輸送コスト、調達リスク──こうした要素も含めて、材料費を今一度見直すことがオープンブック交渉では欠かせません。
特に、為替相場やサプライヤーの調達スケール(ロット規模)など、数字の裏にあるロジックまで突っ込んで話し合うことが、今の時代には必要です。
副資材:見過ごされがちな“隠れコスト”
副資材は見落としがちな“隠れコスト”です。
– 梱包資材
– 工場ラインで使う潤滑油・洗浄剤・治具
– 検査治具や測定器の減価償却費
これらもコスト構造の一部です。
サプライヤーとの共通理解の下で、限界まで副資材を標準化したり、サーキュラーエコノミー的な再利用策を導入することで、トータル原価低減に繋げられます。
実践的オープンブック交渉フレームのステップ
1. コスト構造の棚卸しを行う
まず自社とサプライヤー双方で、扱う製品や部品について「どんなコスト要素があるか」を徹底的に洗い出します。
Excelなどのひな形は既に出回っていますが、自社独自の着目点(例:間接工数や変動費化できるポイント)も盛り込みます。
ポイントは、“全体最適”で考えることです。
例えば、生産リードタイムを短縮すれば手待ち工数や無駄な副資材も減り、結果として仕入原価も下がります。
2. 数字の裏付けを用意する
棚卸しした各項目ごとに、実際の現場データや見積もり、過去取引データなど「根拠」を提示できるように整理します。
ここでありがちな失敗は「想像の数字(例えば作業15分)」と「実績数字(実際は18分)」のズレを見逃すことです。
IoTや現場のタクトタイムデータを活用し、できる限り“見える化の精度”を上げましょう。
3. 共有とヒアリングを重ねる
コスト構造がまとまったら、サプライヤーと共にテーブルを囲みます。
大切なのは、一方的に「高い!」ではなく
– どこの要素が高くなっているか
– なぜその工数/材料費なのか
– 変動要因は何か
を率直に“質問しあう”ことです。
相手の事情を知ることで、「設備の稼働率を上げられれば工数を削減できる」「材料一括発注でコスト低減できる」など、具体的な改善策を議論できます。
4. 改善やリスク分担のシナリオを一緒に描く
可視化した各要素の中で「現状改善できそうなポイント」「市場リスクで上がりやすいポイント」を整理し、どちらがどんなアクションを取るかを明確にします。
例えば、材料費高騰リスクは「定期的な自動調整」「継続的な見積り競争」などルール化も可能です。
また、「生産工程をマップ見える化」してコア技術を共有し、現場改善の共同プロジェクトへ昇華するのも現代的なアプローチです。
昭和アナログ業界の「頭打ち」から抜け出す新たな交渉文化
現場経験者として声を大にして伝えたいのは、「ギブ&テイクでなければ交渉にならない」という真理です。
昭和アナログ時代は「俺が価格指定」「サプライヤーが努力」とパワーバランスで押し切る構造でしたが、今やそれではサプライチェーン崩壊リスクも高まり、人財も離れてしまう時代です。
オープンブック交渉なら、お互いが現場データや課題を共有し、より創造的で持続可能なものづくり文化を築けます。
生産管理、品質管理、自動化の観点でも、可視化された現場データを中心に協働することで「単なる値下げ要請」を卒業し、新しい価値共創の道を開けます。
バイヤー・サプライヤーの立場別メリット
バイヤー側のメリット
– 原価改善の“打ち手”が具体化し、単なる値下げ要請から脱却できる
– 不透明な原価積み上げによる“高止まり”を回避
– パートナーとの共創によるサプライチェーンの強靭化
サプライヤー側のメリット
– バイヤーの要求や課題が具体的になることで「理不尽な値下げ」に悩まされにくくなる
– 現場改善や新技術導入の投資回収がしやすくなる(正当に評価されやすい)
– 持続的な取引関係の構築により、安定した経営基盤が築ける
オープンブック交渉推進のための現場Tips
– データ収集や工数見直しは「現場担当者の納得感」が鍵
– 標準化されていない工程や、属人化したノウハウには特に注力
– IoTやデジタル化を現場視点で活用し、“嘘のないデータ化”を進める
– コミュニケーションは「現場⇔間接部門⇔経営層」三位一体が理想
まとめ:オープンブック交渉で製造業は強くなる
工数・材料・副資材をしっかり可視化し、双方でオープンブック交渉を行なうことで、値下げプレッシャーに頼らず、現場からの本質的なコスト改善と信頼関係を醸成できます。
このフレームは、サプライヤーに対して「コストを削れ!」と突きつける道具ではなく、「どうやって現場を変え、長く強く生き延びるか」をともに探す創造のツールです。
昭和のやり方を脱却し、今こそ現場発の“見える化交渉フレーム”を導入し、製造業の新しい交渉文化を育てていきましょう。
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