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工程内検査が“作業者の気分”で変動する属人化問題

目次
はじめに:工程内検査の役割と現場の現実
製造業の現場において「工程内検査」は、量産品質を守るための要となる業務です。
本来であれば、定められた基準と手順に則り、一定の精度で検査が実施されることが理想です。
しかし、昭和的なアナログ文化が色濃く残る現場では、残念ながら「作業者の気分」で検査基準や厳しさが変動してしまう、いわゆる属人化が起こりがちです。
この問題は、どの工場でも一度は体験し、悩みとして浮かび上がるものです。
なぜ属人化が解消されないのか、その要因と現場のリアル、そして今後求められる改善策について、20年以上現場で培った経験をもとに深く考察し、現実的な解決アプローチを提示します。
工程内検査の“属人化”とは何か
なぜ検査が作業者依存になるのか
工程内検査の属人化とは、同じ工程・同じ検査内容であっても、「誰がやるか」によって合否判断や指摘の厳しさ、頻度、見逃しの傾向がバラバラになる現象を指します。
経験値や熟練度が高いベテランが検査を行えば品質が安定する一方、今日入ったばかりの新人や、気分が乗らない従業員だと品質のばらつきが大きくなる。
「今日はAさんだから厳しいよ」「Bさんは甘いから助かる」といった会話が聞こえてきたら要注意です。
属人化の原因を探る
属人化の原因には、現場に根付いた3つの構造的背景が見られます。
1. 検査基準の曖昧さと現場任せ
検査基準が「おおまか」になっていたり、「長年やってきた目視方式」を暗黙の了解で使い続けている現場では、属人化が避けられません。
基準書があったとしても、実際には現場リーダーやベテランの“阿吽の呼吸”に頼った運用になっているケースが多数です。
2. ベテランへの過度な依存体質
「○○さんじゃなきゃできない」「あの人がいないと止まる」という言葉が当たり前になっている現場は要注意です。
技術伝承やノウハウの形式知化が進まず、ベテランが現場の判断を“私物化”してしまうリスクが高まります。
3. 標準化・自動化の遅れ
自動検査装置や画像処理機器などの導入が遅れ、人手に頼ったアナログ検査が主流の工場では、どうしても人によるばらつきが発生します。
デジタル化を進める投資判断も「そこまで必要か?」と昭和的価値観で止まってしまう現状も少なくありません。
“作業者の気分”が工程内検査を揺らす実態
日替わり検査基準の危うさ
私の現場経験でも、以下のような“気分次第検査”の事例が度々ありました。
・ 検査員が休日明けでやる気が出ない日は、合格基準が甘くなり不良流出率がアップ
・ 珍しい来客や監査の日は、普段以上に厳しくチェックし、良品すら「要再検査」と判断
・ 検査員同士の空気感で「今日は厳しくやっとく?」など暗黙の談合が行われる
このような属人化状態では、同じ製品を生産していても日によって品質がバラつき、お客様から「先月納めたロットと別物じゃないか」とクレームになることもあり得ます。
サプライヤー側から見たバイヤーの本音
サプライヤー(納入企業)の現場目線でも、工程内検査の属人化は大きなリスクです。
取引先(バイヤー)は、一定の品質を毎回安定供給することを強く求めています。
実際、「いつもと違う」「バラつきが多い」とバイヤーからクレームや是正要求を受ける多くの原因が、この検査の属人化に直結しているのです。
特に「重要保安部品」「安全上重要な部品」といった精度の高い要求がくる分野では、一度の不適合流出が信用失墜につながり、最悪の場合大規模なリコールや取引停止のリスクまで抱えることになります。
属人化解消のための現実的アプローチ
1. 検査標準書の再整備と“誰でもできる手順”への徹底
第一歩は、「誰がやっても同じ成果になる」作業手順と、合否判断基準の徹底的な明文化です。
現場でよくある『ノウハウがベテランの頭の中だけ』という状態から脱却するには、写真やイラスト、動画を使い、見た瞬間に正解がわかる資料を作り込むことが重要です。
また、検査サンプルの「合格例」「不合格例」を多数そろえて保管しておくことも、現場教育で非常に有効です。
2. 標準作業監査の定常化
作業手順がマニュアルに落とし込めても、それを毎日守っているかどうかは別問題です。
事務系職場だとピンと来ないかもしれませんが、“日によってやり方が微妙に違う”のが現場の常です。
そこで必要なのが、工程リーダーや品質管理者による「標準作業監査」です。
定期的に検査工程を立会いチェックし、「基準から逸脱していないか」「検査員ごとにブレがないか」を確認し続ける体制づくりが欠かせません。
3. IT・自動化技術の導入による“感情に左右されない”検査へ
全ての検査を人手から自動へ、というのは理想論ですが、今や画像処理技術やIoTセンサーを活用した「AI検査」の導入ハードルは大きく下がっています。
例えば、目視検査で流出しやすかった微細な傷、色ムラなどをカメラとAI判定で自動検出できれば、「今日は気分が乗らないから不良を見逃した」という状況自体を排除できます。
もちろん初期投資は必要ですが、「検査者ごとのばらつきをゼロに近づける」という意味で、属人化解消へ大きな効果をもたらします。
バイヤー・サプライヤー双方に求められる“脱属人化”意識
サプライヤー現場:自社品質は自社で守る
サプライヤーとして最も恐ろしいのは、「取引先の指摘がなければ変わらない」という他責体質です。
本来、属人化・現場任せ体質を自ら見つけ、標準化や自動化の道を探るべきなのはサプライヤー企業自身です。
「検査がベテラン任せ」「今日の気分で厳しさが違う」状態は、取引先に見透かされればすぐに信頼を失いかねません。
むしろ「いつ、誰がやっても同じレベルの検査体制を確立しています」と胸を張って言えることが、これからの選ばれる企業の条件です。
バイヤー:現場見学・ヒアリングで“本当の管理レベル”を見抜く
バイヤー(購買担当者)としても、サプライヤーを選定・評価する際には、「標準化・脱属人化」の観点を持つ必要があります。
品質保証だけでなく、リスクアセスメントとして「現場で誰が検査しても同じか、日によってバラつかないか」まで踏み込んでヒアリングし、本当の競争力・安定供給力を見抜くことが重要です。
現場見学の際、検査マニュアル通りに作業されているか、現場でライブ監査をすることも有効です。“ベテランがいない日は品質が落ちる”など属人性の兆候には特に注意しましょう。
まとめ:属人化の“壁”を越えるために必要なこと
工程内検査の属人化は、製造現場に深く根付いた伝統的課題です。
「人に頼らざるを得ない」「ベテランが現場を支配している」状態から抜け出し、標準化・IT活用で“誰がやっても同じ結果が得られる仕組み”を実現することが、長い目で見て競争力強化・サプライチェーンの安定につながります。
脱属人化への取り組みは、単なる業務改善にとどまりません。
企業の信頼・ブランド価値を守り、人材育成や多様な働き方の実現にも直結するものです。
製造業に携わる皆さま、これからバイヤーを目指す皆さま、そしてサプライヤー現場の皆さま。
日々の「現場感」を大切にしつつ、ラテラルシンキングで新たな改善の地平を切り拓いていきましょう。
属人化の壁をともに乗り越え、持続可能で誇りあるものづくり文化を次世代へと引き継いでいきたいと切に願います。
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