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二社購買の最適配分で価格競争と供給安定を両立する運用

目次
はじめに
製造業において購買戦略は、コスト競争力の維持や供給リスクの最小化に直結する極めて重要なテーマです。
特に「二社購買(デュアルソーシング)」は、価格交渉力を高めつつ、サプライチェーンの安定性を担保できるアプローチとして、長年多くの現場で活用されてきました。
しかし、日本の製造業の現場では、昭和の時代からの「なあなあ契約」や「一見さんお断り」の風土が色濃く残っているため、理論通りに最適配分を運用する難しさを感じている方も多いのではないでしょうか。
本記事では、長年工場の現場で購買、生産、品質の全領域を経験した視点から、「二社購買の最適配分」とその具体的運用について、実践的に掘り下げて解説します。
今日の製造業に求められるラテラルシンキング(水平思考)も取り入れ、二社購買を生きた戦略とするための知見を、バイヤー・サプライヤー双方の立場から共有します。
二社購買とは?業界で根強い理由
二社購買の基本と期待されるメリット
二社購買とは、同一調達品について複数社(主に2社)と継続的な取引を行う購入方式です。
主なメリットは以下の通りです。
・価格競争力の維持:二社間で安定した競争を生み出し、コストダウンがしやすい
・供給安定性:一社のトラブル時でも代替供給が可能になる
・技術進歩:各サプライヤーが差別化へ技術向上に努める刺激となる
・過度な依存の回避:一社専属によるしがらみや変化対応の遅れを防ぐ
多くの現場経験者が「うまく運用できれば最強」と口を揃えるのも納得の仕組みです。
なぜ二社購買が今なお支持されるのか
特に日本の製造業では取引継続や信頼関係が重んじられます。
バイヤーは長期取引により情報の非対称性を減らし、一方サプライヤーも安定的な需要予測ができるからです。
一社購買だと価格競争力が失われやすくなり、三社以上に分散しすぎると価格の管理や品質の標準化が難しくなります。
この二社体制は、安定と競争バランスを両立できる「現場がたどり着いた実務的解」として、いまだ国内外問わず多くの工場で支持され続けています。
最適な配分比率とは?50:50は本当に理想か
業界慣習の50:50配分はリスクも潜む
二社購買と聞いてまず思い浮かぶのが「50:50 の均等配分」という方も少なくありません。
しかし実務上、単なる半分ずつの割り当てで全てが丸く収まるケースはむしろ稀です。
均等分けは表面的な公平に見えて、実は以下のようなリスクもはらんでいます。
・両社とも「半分しかもらえないから設備投資を渋る」現象
・量産初期や設計変更時、品質管理・納期で責任が曖昧化
・サプライヤーの体力・生産能力・技術熟度に偏りが出やすい
現場の目線で見ると、業界が半世紀前から好む「50:50均等配分」は保守的で消極的な答えであり、常に最適とは限りません。
実践的な配分例とその判断軸
二社購買の最適配分は、以下の要素を総合的に評価・決定していく必要があります。
・各サプライヤーの生産能力や納期遵守力
・技術力や品質の成熟度
・コスト構造・見積もり精度
・過去トラブルや供給実績
・バイヤーの将来的なサプライヤー育成意図・投資計画
実務では、たとえば「A社に70%、B社に30%」といったアンバランス配分で始め、技術・品質の追従度合いや競争状況を見て柔軟に変更する例が多いです。
こうすることでA社にはメインサプライヤーとしてのインセンティブを与えつつ、B社にも確実なシェアを保証しつつ、技術向上や価格競争のモチベーションを持たせることができます。
また、重要部品では「メインとバックアップ」の役割を明示し、イレギュラー時の緊急切り替え基準も明文化しておくのが理想です。
業務改善としての二社購買配分の見直し
二社購買体制で本来目指すべきは、「長期視点でのサプライチェーン全体最適化」です。
たとえば、バイヤーが共通部材の標準仕様化や図面精度の向上を進めれば、2社の品質・コスト差異を低減でき、よりフラットな競争構造を築けます。
逆に、技術進化や供給リスクの中身に応じて配分比率を毎年(あるいは都度)見直すダイナミズムも重要です。
つまり、伝統的な50:50固定配分や「空気を読んだ決着」から一歩抜け出し、現場ごとのファクトに基づく配分設計へ進化が求められているのです。
価格競争力と供給安定性はどう両立するか
価格交渉の本質:情報ギャップをどう埋めるか
二社購買の一番の効用は、複数社間で自動的に「価格競争状態」が生まれる点です。
一方で、相見積もりや入札に依存しすぎると、本質的なコストダウン(VE/VA活動や工程改善)が進まぬまま、単なる値引き合戦に堕してしまいます。
現場の購買担当者が本当に意識すべきなのは、両サプライヤーの原価構造や現場の生産実態を徹底的に理解し、比較・評価・交渉時にその情報ギャップを埋める力です。
たとえば、部材コストや工程時間・不良率など「見える化」に努めたり、定期的に現地現物での査察を行ったりすることで、安易な値引きをさせず、実態に即したWin-Winの価格設定が可能となります。
供給安定のための「バックアップ機能」の本質
供給安定性の担保は、もはや自然災害、感染症、半導体危機など「想定外」が続発する現代において必須です。
多くの現場で見落とされがちなのが、「二番手サプライヤーの育成投資を怠る」問題です。
メインで取れる生産量が少なくなってB社の技術力や検査体制が劣化してしまったり、新規部品の図面展開・現品管理が「A社頼み」でブラックボックス化したりという事例が数多く見受けられます。
これを防ぐには、定期的な二社間のバックアップ切り替え訓練・品質指導、図面や仕様の共通化、異常発生時の連絡/搬送訓練など、「運用面でのレジリエンス向上活動」が不可欠です。
価格競争力を追い求めるだけでなく、同時に供給危機時の事業継続性(BCP)を視野に入れた運用ルールを整備しましょう。
バイヤー視点・サプライヤー視点のリアルな心理
バイヤーが感じている「ジレンマ」
長年現場で調達を担当していると、次のような板挟みを感じることが多くなります。
・本音では「一社集中で技術/品質窓口を一本化したい」
・しかし、万一のリスクや本社経営層の指示で「どうしても二社体制が必要」
・公平感を保ちつつ、どこまで差をつけて配分して良いか悩ましい
このジレンマを解決するためには、サプライヤーとのコミュニケーションを徹底し、それぞれの強み弱みや今後の育成方針を共有できる信頼関係が鍵となります。
サプライヤーから見える「不安」と「希望」
サプライヤー側にはこうした心理が渦巻きます。
・うちがメインかサブか、将来の立ち位置が読めず不安
・投資しても配分がある日いきなり変わるかもというリスク
・ただし、二社購買ならではの市場参入ハードルの低さ・透明性
この状況でサプライヤーのやる気を引き出すには、バイヤー側が「将来像に根ざした配分根拠」や「投資評価の正当性」をきちんと説明する文化をつくる必要があります。
安易なその場しのぎの配分ではなく、5年後・10年後を見据えたパートナーシップをどう築くかが成否を分けるのです。
二社購買を強く育てる!先進・現場事例とフレームワーク
日系大手メーカーの「配分型運用」の進化
実際の現場では、単純な数量シェアや金額ベースだけでなく、下記のような多次元的な指標により二社購買を運用する先進事例が少しずつ増えています。
・不良率や納期遵守率などのKPIをシェア配分と連動
・「年度ごとの成果報酬」として追加配分・次年度の見直し権を付与
・DX活用による品質データや原価指標のリアルタイム共有
またBCP観点で、「1社→2社配分」だけでなく「2社両方に対して定期切り替え試験」や「クロス生産対応」など、レジリエンス向上に重点を置いた独自施策も注目されています。
現場推進に役立つフレームワーク
現場で二社購買を強く育てるためのおすすめステップをフレームワーク化すると以下のような流れになります。
1.「必要性診断」:調達品ごとの重要度・価格インパクト・リスクを評価し、二社購買の適否や優先度を明確化
2.「配分シナリオ策定」:現行サプライヤーの実力・投資意欲をヒアリングし、配分比率を動的設定
3.「成果指標設定」:価格競争力(原価率・VE/VA)、供給安定(納期・BCP成果)、品質KPIなどを配分条件に連動
4.「コミュニケーション設計」:バイヤー・サプライヤー相互の情報開示・意図伝達・将来像の共有を仕組み化
5.「定期見直し」:年次・半期ごとの配分/成果評価・課題分析をPDCAで回し続ける
このようなフレームワークを導入することで、形骸的な50:50分けの悪弊から脱却し、組織全体にとって意味ある二社購買体制を追求できます。
まとめ ~昭和の枠を超えて、二社購買を戦略資産へ
「二社購買」は日本製造業の伝統とも言える手法ですが、その運用は現場次第で天と地ほどの差が出ます。
惰性的な50:50分けや、表面的な価格交渉だけではもはや通用しません。
時代は大きく変わろうとしています。
バイヤーにはサプライヤーの真価を見抜き、積極的な育成と情報連携にこだわる姿勢が求められます。
サプライヤーにも変化に応じた技術力・現場力の強化が不可欠です。
現場で実務を担う皆さんにこそ、「本質的な配分設計」や「戦略的パートナーシップ構築」の視点を持ち、現代の製造業の荒波を共に乗り越えていく気概を持ってほしい。
二社購買の真の価値を引き出し、コスト競争力と供給安定性の両方を勝ち取る運用を、ぜひ皆様の現場で実践してみてください。
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