スナック菓子のサクサク感を保つ油温と脱水時間の最適制御

スナック菓子のサクサク感を保つ品質管理の重要性

スナック菓子は、日本の製造業の中でも成熟した分野でありながら、革新的な変化が絶えない世界です。

消費者の嗜好の多様化、健康志向、コスト削減要求が三位一体となる中でも、「サクサク感」を守り抜くことは競争力の源泉であり各現場・担当者のプライドでもあります。

サクサク感とは、単なる触感として表現されがちですが、製造現場から見れば、レシピ・油温・脱水・工程管理が誤差なく積み重なった、高度なオペレーションの結晶です。

今回は、スナック菓子におけるサクサク感の要である「油温」と「脱水時間」について、昭和時代からの知恵と最新制御技術を交えながら、生産・購買・品質・サプライヤー各々の目線で深く掘り下げていきます。

スナック菓子の『サクサク感』を左右する要因とは

サクサク感の原理を理解する

スナック菓子のサクサク感は、小麦粉やじゃがいもなどの原料に含まれる水分が、加熱（揚げ・ベーキング）工程で急激に蒸発（脱水）することにより、内部が多孔質化＝空気の層ができる現象から生まれます。

この現象が適切に進行せず、水分が多すぎれば「ベチャッ」とし、逆に飛びすぎれば「パサパサ」「固い」食感に陥ります。

適度な「サクッ&フワッ」の間に絶妙に着地させるのが、揚げ油の温度制御と脱水時間の最適化なのです。

温度と時間―わずかなズレが製品品質を大きく左右

油温が低すぎると、水分が十分に素早く飛ばず、油を含みやすくなり「重たく」なります。

逆に高すぎると、表面だけが急速に焦げ、内部の水分が閉じ込められ、「カチカチ」「異常な膨れ・割れ」といったトラブルが起こります。

また、脱水時間も重要です。

短すぎれば水分が残り、長すぎると過剰に乾燥してしまい、どちらも本来の「サクサク」には至りません。

ここに原料ごとの個体差や日々変動する工場の環境（湿度、気温など）も絡み、一筋縄では管理しきれません。

昭和時代は「勘と経験」に頼り切りでしたが、データドリブンな工程管理へ移行することで、安定した品質がようやく実現しつつあります。

製造現場で油温と脱水時間をどう管理するか

最新設備による自動化とその課題

近年、温度・脱水制御の自動化は進化著しい分野です。

油の投入量、流速、ヒーター温度、製品のサイズや形状にも対応できるよう、PLC（プログラマブルロジックコントローラー）とサーモセンサー、湿度センサーを組み合わせた自動制御設備も多く導入されています。

しかし、最新設備を導入したからといって全てが解決されるわけではありません。

原材料の個体差、生産ラインの微妙な傾き、あるいは人による原材料投入のタイミングの誤差がサクサク感に影響を及ぼすため、「現場ごと」の最適設定を地道に積み重ねるPDCAが不可欠です。

アナログ作業の価値を再認識する―現場の手触りとバイヤーの要求

どれだけオートメーションが進んでも、現場の手作業によるサンプルチェックの価値は揺らぎません。

例えば、「揚げ終わった直後の感触・音」「割ったときの裂け方」など、実際に試食しながら判定する工程が、品質保全の最後の砦です。

バイヤーは「型通りのマニュアル品質」だけでなく、「今期の小麦は例年より水分が高い」「このラインは温度ムラが出やすい」といった現場共有を重視する視点も忘れてはいけません。

このアナログ情報が購買や開発にもフィードバックされ、設備投資や購買計画の意思決定に活かされることも増えています。

サプライヤーとバイヤー、双方の視点で見る最適制御の要点

バイヤーが重視する“安定供給”の意味とは

バイヤー、すなわち原材料の購買担当者がスナック菓子の現場で何を求めているか。

最たるものは「安定供給」と「標準品質の維持」です。

これは単に材料が届けばよいのではなく、「この小麦・この芋なら、この温度・この時間で揚げれば、毎回同じサクサク感にできる」という再現性こそがビジネスの生命線となっています。

原材料サプライヤーが、日々の成分分析や収穫時期による変動を説明し、現場と一体となって工程条件を最適化するコミュニケーションが、製造現場の安定化に直結します。

サプライヤーが意識すべき、バイヤーの“現場目線”

サプライヤー側としては「どこまで現場の細かい品質要望に対応すべきか」悩む場面も多いものです。

しかし、たった1％の水分含有率、単位当たりの澱粉質やタンパク質の違いが、10万枚単位で生産される現場では重大な影響をもたらします。

「もう少し標準化できないか」「特殊ロット分けはコスト高にならないか」といった開発や生産管理目線も理解し、バイヤーやエンドユーザーと積極的に情報共有することが今や当たり前の時代です。

昭和の「黙ってモノを納める」時代から、「バリューチェーン一体化時代」へ。

情報開示が双方の信頼を生み、Win-Winの関係を築くカギとなります。

AI・IoT時代の最適制御―昭和の技術遺産と現代のシナジー

IoTセンシングと可視化、「匠の勘」からの脱却

今では温度管理、油質モニタリング、表面水分量測定など、IoTを使ったリアルタイム監視が広がっています。

油温の細かな推移だけではなく、揚げラインに流すスナックの重さや湿度も徹底的にデータ化。

昭和の頃には「ベテランのカンと経験」でしか分からなかった温度帯の微調整や、1℃単位の癖も、今やセンサーによって定量管理が可能になりつつあります。

また、異常検知AIを活用することで、油の劣化やライン異常を早期発見でき、不良品発生の未然防止にも役立っています。

技術継承のための“データとナレッジの融合”

いくら自動化が進んでも、油温や脱水時間の「黄金比」は、必ず個々の現場事情やロットごとに異なります。

そこで重要になるのが、各工程の数値データと「なぜその数値になったか」の“ナレッジ”（業務知見）の可視化です。

ベテランの手順・感想・現場対応ノウハウをデータとして蓄積し、若手にロジックごと伝えることで現場レベルの属人化を脱し、真の品質安定が実現されます。

データと人の直感力が融合すれば、現場は大きく変わっていきます。

まとめ：サクサク感は現場・開発・購買・サプライチェーン全体の“協奏曲”

スナック菓子のサクサク感は、一つの数値や担当者の力だけで実現できるものではありません。

油温や脱水時間という工程管理は、現場の技術・データ・設備の進化と、それを支える材料サプライヤー・購買担当者・管理職の継続的なコミュニケーションによって初めて確かなものとなります。

アナログ時代の知見とデジタル技術がシームレスに生かされ、現場力とナレッジが組織の真の財産となる――そんな未来こそ、日本のスナック菓子が再び世界を驚かせる原動力になるでしょう。

バイヤーを志す方、サプライヤーとして付加価値を提供したい方、現場の仲間同士でより高みを目指すすべての人に、今こそ“現場目線のプロ意識”が問われています。

こうした積み重ねの先に、消費者を笑顔にする本物のサクサク感が生み出されるのです。