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物流モード混在の最適配分で在庫資金と遅延リスクを最小化

目次
はじめに:物流モード混在の最適配分が求められる時代
近年、製造業においてサプライチェーン最適化の重要性がかつてないほど高まっています。
コロナ禍を経て、グローバルな物流網の寸断や急激な需要変動、原材料価格の高騰など、不確実性に満ちた環境で企業は最適な在庫・輸送管理を求められる状況にあります。
このような時代背景の中で、単一の物流モード—すなわちトラック、鉄道、船、航空など—に頼るのではなく、複数のモードを適切に組み合わせる「物流モード混在」が業界全体で推進されています。
本記事では、実務経験から得た知見をもとに、物流モード混在による在庫資金と遅延リスクの最小化について、現場目線で徹底解説します。
物流モード混在とは何か
モーダルシフトの進化形
従来、日本の製造業は主にトラック輸送に依存した物流体制を採ってきました。
しかし、労働人口減少やドライバーの働き方改革、省エネ・脱炭素の流れを受け、鉄道や船舶、航空との組み合わせが注目されています。
これがいわゆる「モーダルシフト」ですが、さらに進化した概念が「物流モード混在」です。
具体的には、製造拠点—倉庫—最終顧客までの流れで、品種や納期、量によって、トラック・鉄道・船舶・航空を適切に組み合わせて使い分けるアプローチを指します。
在庫・資金の観点からの重要性
物流モード混在を適切に設計することで、在庫を必要最小限に抑えつつ、納期遅延リスクも圧縮できます。
在庫が減れば当然、資金繰りにも余裕が生まれます。
この両立が現在の調達購買やサプライチェーンマネジャーに求められる最大のミッションです。
現場で起こる「昭和型」物流の問題
トラック一辺倒から脱却できない理由
多くの現場では、長年トラック一辺倒の物流体制から抜け出せずにいます。
理由はシンプルです。
「長年の慣行」「運送会社とのしがらみ」「B2B取引における過剰なリードタイムの安全弁」などが絡み合っているためです。
一方で、現在ではドライバー不足や新しい2024年問題(物流に関わる残業規制強化)などで、従来のやり方が限界に達しています。
見えないコスト・過剰なバッファの弊害
「納期遅延を嫌うが故に大量在庫」「とりあえず全部トラックの即納手配」といった現場対応は、一見リスクヘッジのように見えますが、その実体は過剰コストの溜まり場です。
倉庫スペース、在庫資金、物流費が膨張し続け、収益を圧迫します。
これでは経営改革など到底進みません。
物流モード混在の最適配分とは
品目ごとの物流特性の可視化
まず大前提として、すべての品目に同一の物流モードを適用するのは非効率です。
例えば、「量は多いが納期要求はゆるい定番品」「単価は高いが緊急性が高い部品」「輸送中に品質変化の懸念がある衛生品」など、アイテムごとに物流ニーズはまったく異なります。
それぞれに対し、どのモード(トラック・鉄道・船・航空)をどう組み合わせれば最もコスト効率がよく、リスクを抑えられるかを分析し、可視化します。
物流モードの選択基準
・コスト…kgあたり、件数あたりの輸送コスト
・時間…輸送リードタイム
・リスク…遅延発生確率、破損リスク
・環境適合性…CO2排出量、SDGs観点
・制約事項…積載可能量、頻度、混載可否
これら複数の基準を、品目ごとの特性や月次需要見込み、想定遅延コストとマッピングすることが重要です。
実践! モード混在配分設計のプロセス
1. 現状分析(As-Is分析)
まず自社物流の現状把握を行います。
誰が、何を、いつ、どこまで運んでいるか。
品目別、エリア別、納期別に細分化してデータを集めます。
同時に物流費、在庫保持コストも並列で収集します。
現場の「なんとなく安心できるから」といった慣習にメスを入れることが重要です。
2. 物流モードごとのベンチマーク収集
鉄道、船舶、航空、3PL活用などモードごとのベンチマークを「スピード」「コスト」「制約事項」それぞれで調査します。
ここでは、モード間の乗り継ぎ拠点(インターモーダル拠点)や、近年拡充の進む24時間港湾などの現場事情も調べましょう。
3. 品目ごとのベストミックス設計
需要予測のABC分析と結び付け、「緊急性:高×ボリューム:低」→航空のスポット利用、「納期:余裕あり×ボリューム:大」→鉄道・船舶のケース単位輸送、といった分類を実施します。
ここで重要なのは、1つの品目でも「通常時は鉄道、緊急時は航空」というように、状況に応じてフレキシブルに切り替えられる運用設計です。
4. ITによるシミュレーションとPDCA
最新のSCMシステムや、可視化ツールを活用し、物流モード組み合わせごとに在庫回転率・資金拘束額・納期遵守率などのKPIを算出します。
計画通りに進んでいるか、現場で運用に無理は出ていないかを随時振り返り、PDCAを回しましょう。
具体例:某電機メーカーA社の事例
従来、A社はすべての部品を関東~九州までトラック便で日々輸送していました。
しかし、大雪や災害による遅延、ドライバーコスト高騰で非効率が目立っていました。
そこで以下のような運用に切り替えました。
・定期供給品については、月火水は鉄道コンテナ、木金は船舶、土日祝納入分のみトラックに集約
・突発案件は航空でリカバー
・在庫の管理は週単位から日単位の見える化に移行
これにより、年間の物流コストを15%、在庫資金を20%、納期遅延リスクを30%削減しました。
また災害時のBCP(事業継続計画)としても強靭な物流網を確立しました。
バイヤー・サプライヤーの立場で考える物流戦略
購買バイヤーの視点
調達購買のバイヤーとしては、物流コストの低減だけでなく、「安定供給」「納期厳守」を仕入れ先に強く求める傾向があります。
サプライヤーが物流モード混在の提案を能動的にできれば、「コスト的にも安定的にも優位なパートナー」として信頼を得やすくなります。
また発注者側も、単価だけでなく「トータル物流コスト(TLC)」の目線を持つべきです。
サプライヤーの立場でのアピールポイント
サプライヤーとしては、「いかに自社が多様な物流ネットワークを整えているか」を納入先にアピールできます。
「うちはトラックのみです」ではなく、「コスト優先の場合は鉄道・船、緊急時は航空、災害時の代替ルートも整備済」と一言添えることで、一歩抜きん出た信頼を得られます。
物流DXと自動化の潮流
物流業界もデジタル化が進み、マルチモーダル輸送のマッチングプラットフォーム、リアルタイム予測、AIアロケーションなど新たなサービスが勃興しています。
工場内のAGV(無人搬送車)と倉庫の自動ピッキングが物流モード切り替えと連動する事例も増えています。
この動向は今後も加速するでしょう。
まとめ:ラテラルシンキングで物流の新たな地平を切り拓く
物流モード混在の最適配分は、決して一朝一夕で出来上がるものではありません。
現場の慣行や、サプライヤー・仕入れ先との長年の取引関係、突発のイレギュラー対応と、さまざまな課題が山積しています。
しかし今、製造業が昭和型の「安心のための過剰コスト」から脱却し、攻めの物流改革を実現する好機です。
固定観念にとらわれず、IT、データ、現場力を組み合わせたラテラルシンキングで、自社に最適な物流ミックスを設計しましょう。
バイヤーを目指す方、現場の購買・調達担当、そしてサプライヤーの皆さまにとって、本記事が新たな発想のヒントとなれば幸いです。
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