投稿日:2025年10月9日

糸の滑りムラを防ぐオイリングパッド材質と圧力設定の最適化

はじめに:オイリングパッドの重要性と現場課題

製造現場、特に繊維製造や精密部品生産などにおいて、「糸の滑りムラ」は品質安定化の最大の敵の一つです。

思わぬムラが生産ライン全体のボトルネックとなり、歩留まりや納期、クレームリスクの増大につながります。

その根本解決に欠かせないのが、オイリングパッドの材質選定と圧力設定の最適化です。

長年、大手メーカーで調達・生産・品質の各部門を渡り歩き、現場視点で「本質的な改善」を追い続けてきた私の知見を生かし、この記事では現場に即した実践的ノウハウを共有します。

あなたの製造現場の「困った!」も、この一つの要素の見直しで大きく変わる可能性があります。

なぜ糸の滑りムラが発生するのか?

滑りムラのメカニズムと現場影響

糸の滑りムラは、多くの場合オイラー部(オイリングパッド)の「摩擦コントロール不良」、つまり面圧バランスやパッドの材質・経年変化に起因します。

ここを放置すると、
– 糸切れの増加
– 巻取り不良
– 加工性低下
– 製品の均一性欠落

といった不良が発生し、生産性だけでなく、最終製品の評価やブランド力にも直結します。

  1. オイリングパッド材質の擦れ・ヘタリによる圧力ムラ
  2. パッド溝や表面の汚れ・詰まり
  3. 不適切な設置・強すぎる/弱すぎる圧力設定

こうした要素の組み合わせが、「経験知」に支配されがちな現場でムラ再発を繰り返しています。

オイリングパッド材質の選び方~現場のリアルに即して

一般的な材質と特徴

オイリングパッドの材料選定は、“技術データ”だけで決めると危険です。

主な材質と、それぞれの特徴を紹介します。

  • フェルト(ウール・合成繊維):
    吸油性と一定の保持圧力。柔軟で滑らかな仕上がり。毛羽立ちやすい。
  • ウレタンフォーム:
    安定した弾力性、経年劣化で硬化しやすい一方、コストパフォーマンスが高い。
  • ニトリルゴム・シリコンゴム:
    摩擦が一定で耐久性・薬品耐性も高いが、コスト増。硬度・厚みによる調整多。
  • 不織布(ポリエステル等):
    低コストで一定品質。糸との相性が重要。
  • 新素材ハイブリッドパッド(カーボン・セラミック含有等):
    超寿命だが導入コストと物理特性の調整がネック。

こんな現場ならこの材質がオススメ!

1.高速回転・細糸:吸油性+均一摩擦のフェルト系
2.耐久消耗品コスト重視:不織布+簡易交換式
3.耐薬品・高温環境:ニトリルゴムまたはシリコンゴム
4.超長期メンテレス化:セラミックコートやカーボンハイブリッド

大事なのは、「現場のマシンや糸条件との相性確認」と「現場の声」です。

実際のところ、昭和から同じ材質を使い続けている工場も少なくありません。

ですが、糸・オイル・速度が変われば摩擦ムラの出方も一新します。

小ロットでテストしてから本格導入することが、“失敗しない材質選定”の最短ルートです。

材質選定で失敗しない調達購買のコツ

調達部門の場合、

– 現場ユーザーの感覚だけを鵜呑みにしない
– 同一規格・同等品でもメーカー差が出やすい部分をPIC(物性・寸法管理)でチェックする
– パッド材質に関わる標準作業(交換頻度やクリーニング)が現場で実行できる前提を確認する

ことがポイントです。

調達サイドと現場が「どうせ一緒」と思い込むことが、見えない品質リスクの温床です。

糸の滑りムラをなくす圧力設定の最適化

圧力設定は「理論値」+「現場チューニング」

パッドの押さえつけ圧力が強すぎると、糸切れや摩耗が進みます。

弱すぎればオイルが均一に乗らず、逆に滑りムラが増えます。

理論的には、「糸径」「マシンの設計」「材質の弾性係数」「オイル粘度」「運転速度」などすべてのパラメータで最適解が決まります。

ですが現場では、「経験知」や「勘」が主でマニュアル化しきれていません。

現場流!効率的な圧力設定チューニング法

1.初期値設定(メーカー推奨圧/容認値でスタート)
2.1日運転後の「巻取り状態」と「糸の外観」を現物確認
3.増圧・減圧テスト(±0.01MPaなど小刻みに)
4.糸切れ・静電気など異常検出の有無をリスト化
5.標準化された記録方法でデータ集約
6.現場担当の「作業しやすさ」も感覚値でヒアリング
7.最終的に、管理値として手順書に組み込む

この一連のPDCAサイクルを現場・技術・調達・品質部門のクロスファンクショナルで実践することで、属人化を防ぎます。

自動化・センシング技術の活用動向

IoT技術の進展により、パッド圧力や摩擦の状態をリアルタイムでフィードバック、自動調整するシステムも登場し始めました。

この分野では、

– 小型ロードセルセンサー内蔵オイラー
– 圧力や摩擦の見える化システム
– オイル量・粘度自動給油調整

など「アナログ工程のデジタル化」が、滑りムラ低減に寄与しつつあります。

導入にはコストと現場オペレーションの再構築が必要ですが、投資対効果は大きく、バイヤー視点でも今後のトレンドとして押さえておくべき領域です。

調達・バイヤーの視点 VS サプライヤー戦略

バイヤーは「個別最適」から「全体最適」へ

かつてはパッド材質や補修品の追加発注は単なる「コストダウン競争」の対象でした。

しかし現代では、「いかにライン停止時間を最小化できるか納入リードタイムをどう短縮できるか」という、全体プロセス最適化の観点から、バイヤー業務も進化しています。

バイヤーとして抑えておくべきは:

– サプライヤーによる現場ヒアリングやテストサポートの有無
– 新材質・新設計提案への柔軟な対応力
– 交換サイクル最適化によるトータルコスト削減(TCO)のシナリオ提案

これらを積極的にサプライヤーに求めることで、単なる物品購買から、現場価値貢献型のバイヤーへと進化できます。

サプライヤーから見たバイヤーの“本音”~差別化のヒント

サプライヤーとして重要なのは、「安い・早い」だけで競合に勝つのではなく、

– 現場に入り込む提案型営業
– 事例ベースでの粘度推奨や材質転換コンサル
– お試しサンプル・少量多品種・短納期試作

といった「現場の変化」に即応できる体制磨きです。

また、“測定器貸し出しサービス”や“摩耗状態の画像診断”といったデジタル×現場のハイブリッドサービスは、差別化として非常に有効です。

バイヤー・調達担当からは「ウチの現場は古いから…」という声も多いですが、丁寧なヒアリングにより「まだまだ改善できる」ポイントが現場には隠れているものです。

糸の滑りムラ防止 今後の展望・まとめ

オイリングパッド1つとっても、材質・摩擦・圧力設定のわずかな違いが、ものづくり全体の競争力に直結します。

従来の「昭和スタイル」を抜け出し、

– エンジニアリングチェーン(設計~生産~品質保証)
– サプライチェーン(調達~在庫~納入サポート)

の全体視点で“真の最適解”を探るラテラルシンキングが不可欠です。

現場の「わかっているつもり」を捨て、数値根拠・現物主義と現場の肌感覚、この両輪のPDCAを回すことで、製造現場の品質も、調達活動の価値も大きく飛躍します。

これからはアナログとデジタル、経験則と理論値を組み合わせる時代です。

糸の滑りムラ防止――ここにも「小さな現場改善」から「大きな組織進化」へのヒントがあるのです。

貴社の現場・バイヤー活動・サプライヤー提案の高度化の一助となれば幸いです。

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