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エコカップの変形を防ぐPLA樹脂温度と金型圧力の最適バランス

目次
はじめに:エコカップ製造の現場で直面する課題
現代の製造業において、環境配慮型の素材を使った製品への需要が急速に高まっています。
特にエコカップは、その代表格といえるアイテムで、プラスチックごみ削減を目指す多くの企業や自治体が積極的に導入しています。
その中でもPLA(ポリ乳酸)樹脂は、バイオマス由来かつ生分解性という特性から、エコカップの主材料として注目されています。
しかし現場では、PLA樹脂を使った成形において「カップの変形」が大きな技術課題となることが少なくありません。
エコカップが実際の流通や消費現場で変形してしまうと、企業ブランドの信頼を損なう原因となり、クレームや追加コストにも直結します。
この課題の本質は、射出成形における「PLA樹脂の温度」と「金型への圧力」バランスにあります。
本記事では、20年以上製造現場を支えてきた経験をもとに、PLAエコカップが変形する原因を深掘りし、温度と圧力の最適バランスを探る実践的アプローチをお伝えします。
PLA樹脂の扱いが難しい理由と市場動向
なぜPLA樹脂は「昭和的現場」にはなじみにくいのか
射出成形のベテラン技術者のなかには、「たかが樹脂、いろいろ成形してきたから問題ない」と経験値の高さを自負される方も多いです。
しかしPLAは従来の石油系樹脂と性質が大きく異なります。
たとえば融点は150~170℃程度と低めで、熱安定性や結晶化速度も独特です。
昭和から続くアナログ現場では、経験や勘を重視した「職人技」に頼る傾向が根強く残っています。
ですが、PLAにこの感覚的な成形ノウハウをそのまま当てはめると、「流動性が急に落ちる」「パーツがそりやすい」「離型性が悪い」といったトラブルに直面します。
市場が求める変形しないPLAエコカップ
環境意識の高まりとともに、エコカップ市場は年々拡大しています。
大手カフェチェーンやイベント会場、病院の院内カフェなどで「地球に優しい資材」に対する需要は右肩上がりです。
一方でユーザーは「使っていて不便を感じない」ことも強く要求します。
薄肉のコップが変形したり、積み重ね時に歪むと、たとえエコであっても導入は進みません。
そのためサプライヤー側は、成形技術の高度化と安定した品質供給を今まで以上に求められています。
エコカップ変形のメカニズム:現場で起きていること
PLA樹脂の温度管理が甘いとどうなるか
PLA樹脂の成形温度は、他の一般的なプラスチックよりもシビアです。
適正な温度帯で樹脂を可塑化しないと、流動性不足やガスの発生、そりや歪みの主な原因となります。
例えば、駆け出しのオペレーターが「ポリプロピレンと同じ温度領域に設定」したままPLA成形に着手してしまうと、型どり不足や表面粗さが目立ちやすくなります。
また温度が高くなりすぎると、PLAの熱分解が始まり、黒点不良や臭気トラブルが発生します。
金型圧力もエコカップの形状安定性を大きく左右する
成形の現場では、材料の温度ばかりに気を取られがちですが「金型への圧力」も非常に重要な要素です。
樹脂温度が不足していても、圧力で無理やり成形品を充填した場合には、応力歪みが内部に蓄積されます。
その後、脱型時や冷却過程でこの応力が解放され、カップのリム(口元)が反り上がったり、底部が曲がる「変形トラブル」となります。
現場で使えるPLAエコカップ成形の最適化戦略
ポイント1:温度プロファイルの徹底管理
PLA樹脂の特性上、温度管理は成功のカギを握ります。
以下の3段階温度管理を実践することが大切です。
1.予熱工程
事前に材料自体を十分に乾燥させ(一般的には70℃前後、2~4時間)、水分を極力抜くことでガス発生や成形ムラを防ぎます。
2.可塑化シリンダーの温度分布
前方170℃、中間160~165℃、後方150℃程度を目安に、各ゾーンごとの温度管理を細かく行います。
3.金型温度管理
加工品の脱型性や変形抑制のために、冷却水やオイルによる一貫した温度制御(25~40℃範囲推奨)が効果的です。
ポイント2:圧力制御と保持時間の最適化
金型充填初期には適度な圧力(60~90MPa程度)が必要ですが、過度な圧力をかけ続けると成形品内部に残留応力が発生しやすくなります。
成形サイクル中盤以降は圧力を適宜落とし、「圧力ステップダウン」制御を導入すると安定した外観と精密な寸法が確保しやすくなります。
実際の現場では、「保持圧力」「保持時間」の微調整がとても重要です。
例えば、
「保持圧力は成形品の肉厚や高さに応じて徐々に下げる」
「圧力をかけた直後は十分に冷却時間を確保する」
など、製品ごとに個別最適化が不可欠です。
ポイント3:昭和的アナログ手法のメリットを活かす
昨今はIoTやAIによる自動化の波が押し寄せていますが、ことPLAのような新素材では「昔ながらの感覚」も貴重なデータ源となります。
具体的には、
「成形直後のカップを手で触ったときのしなり」や
「現場の誰もが知っている“脱型のクセ”」
など、五感を活かしたフィードバックがカギとなります。
人の勘とデジタルデータ、両方を現場内で意見交換し、PDCAを高速に回すことが、アナログ業界から次の時代へ進化するための新たな地平線となるでしょう。
サプライヤー&バイヤーの立場で知っておくべきポイント
バイヤー視点:本当に価値あるエコカップとは
PLA樹脂製エコカップの導入を検討する場合、
「単にPLAというスペックだけで比較」するのではなく、
「どれだけ成形条件を最適化し続けているか」
「現場の工程管理の実態や現物チェックができているか」
といった、サプライチェーン全体のマネジメント力を見極める必要があります。
安価な製品を求めるあまり、品質管理の甘いサプライヤーに依存すれば、最終的には自社のブランドイメージ失墜にもつながります。
サプライヤー視点:現場の「声」をバイヤーに伝えよう
サプライヤーにとっては、顧客からの要求水準が日に日に高くなるなか、現場の課題や限界点を「きちんと説明し、共有する力」も必要です。
たとえば
「新しいPLAロットの性状の違い」
「季節や温度変化による成形品のクセ」
など、工場現場の一次情報をバイヤーに公開し、ねばり強く連携していく姿勢が結果的に信頼構築につながります。
まとめ:エコカップの未来を切り拓くものづくり
PLA樹脂を使ったエコカップの変形防止には、材料温度と金型圧力の最適バランスが絶対条件となります。
しかも、この二つのパラメータはお互いに密接に関連しているため、一方を解決したつもりが他方で新たなトラブルを生み出すこともあり得ます。
だからこそ、「現場の声」と「データ分析」を融合させ、現場改善を地道に積み重ねていく努力が不可欠です。
昭和の職人技も、最新のスマートファクトリー化も、価値があるのは「顧客に寄り添い、使い勝手の良い製品」を生み出すという共通目標があるからです。
製造業を支える皆さん—バイヤー、サプライヤー、現場オペレーター—が連携し、PLAカップの新しい地平を開拓していきましょう。
地球と未来のために、今日からもう一歩、実践的改革を始めてみませんか。
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