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吸水性不良を改善する糊抜き・精練条件の最適化手法

目次
はじめに:吸水性の重要性と現場の課題
製造業、とくに繊維業界や不織布、フィルム工程などで生産される製品において、吸水性はその品質や用途に直結する非常に重要な特性です。
タオルやガーゼ、不織布マスク、おしぼりなど、数多くの製品がその吸水性を前提に設計されています。
しかしながら、現場でしばしば耳にするのが「吸水性不良」によるクレームや、不良品の発生です。
糊抜きや精練の工程での処理条件のわずかな違いが、大きなトラブルへ発展することは少なくありません。
昭和の時代から続く“職人の勘”や“属人化されたノウハウ”が根強く残る現場では、なかなか標準化・制御も進みにくいのが実情です。
そこで今回は、吸水性不良を根本から改善するための糊抜き・精練工程の最適化について、私自身の現場経験と業界動向も交えながら、実践的な手法を解説します。
吸水性不良の現象とメカニズムを正しく理解する
なぜ吸水性不良が発生するのか
吸水性不良は多くの場合、繊維表面に不要な物質が残留していることによって生じます。
代表的な原因には、以下のようなものがあります。
・繊維を束ねるために使われる糊剤(PVA、CMC、澱粉など)の残留
・油剤(紡績油、編立油、スピンフィニッシュなど)の残留
・精練工程で除去しきれない天然不純物(蝋質、ペクチン、タンニンなど)
これらが繊維表面を覆い、“水が弾かれてしまう”現象が発生します。
なぜ現場で問題が多発するのか
多くの現場で、検査は「滴下法」や「バイレック法」など比較的簡単な方法で吸水性を測っていることが多いです。
しかし検査結果が「合格」であっても、ユーザーが実際に手で触れたときに「水を吸わない、使えない!」と感じることもあります。
また、旧態依然とした工程設計や現場作業の属人化、糊抜きや精練液の管理不足など、アナログな部分でも品質ばらつきの温床となっています。
糊抜き工程の最適化:現場目線の実践手法
糊抜きの基本プロセスと重要ポイント
糊抜き工程は、繊維製品の表面から糊剤を効率良く除去するプロセスです。
バッチ式・連続式ともに、下記の因子が密接に関係し合います。
・温度
・アルカリ濃度(pH)
・時間
・機械的作用
・液流の乱れ
昭和の時代は“高温・高アルカリ・長時間”が常識でしたが、環境対応や省力化が求められる今日では、「適正な条件で最小限の薬剤・エネルギーで最大の除去」を目指す必要があります。
糊剤に応じたアプローチの違い
合成系糊剤(PVA)はアルカリに弱く、比較的低温でも容易に分解・溶解されます。
しかし、天然系糊剤(澱粉)は分解に酵素などの添加が必要な場合もありますし、油剤併用があると除去効率が落ちます。
同じ条件で全てを流すのではなく、原材料ロットや糊剤配合の違いを事前に情報共有し、工程ごとのフィードバックを活用することが、吸水性改善への第一歩です。
バイヤー・サプライヤーが共有すべき最適化の視点
バイヤーであれば、原料メーカーや糊剤メーカーの最新情報を把握し、「現場で何が問題なのか」を正確に伝えることが重要です。
サプライヤーの立場であれば、実際にバイヤー側で発生している吸水性不良のフィードバックを分析し、糊剤の最適処方や分解性向上の提案を行うことで、工程全体の歩留まり向上・コストダウンに直結します。
精練工程の最適化:品質安定化の実践ポイント
精練の本来の目的を再確認する
精練とは、繊維に付着する蝋質、タンニン、蛋白質などの天然不純物を除去し、繊維表面を親水化する工程です。
従来は「アルカリ(苛性ソーダなど)+界面活性剤+過酸化水素」処方が一般的でした。
しかし、ややもすると「とりあえず苛性・洗剤を入れて、温度を上げておけばいい」となりがちです。
それでは薬剤の無駄遣いや環境負荷、安定品質の実現からは遠ざかってしまいます。
吸水性を最大化する精練条件の設計例
・アルカリ濃度:原材料タイプ・繊度・糊剤種類に合わせて最適設定(0.5~2.0wt%目安)
・過酸化水素の量と投入タイミング:酸化分解の進行管理が重要
・液流の制御:隅々まで満遍なく精練液が接触するような機械・治具の選定
・pH・残留薬剤の自動監視:古い工場こそIoT水準計やオンラインpHセンサー導入することで属人化を打破
このように、単純な「高温・高濃度」の繰り返しではなく、「ロットの情報収集」と「データに基づく条件設定」が安定品質へとつながります。
精練後の中和・洗浄:後処理の落とし穴
精練液をしっかり除去できていないと、冷間での析出や残留アルカリによる繊維強度低下が発生しやすくなります。
中和・洗浄工程の水質や水温、洗浄槽の汚染状況の監視も、吸水性確保に欠かせません。
現場の課題を克服するための新アプローチ
アナログな現場へのテクノロジー導入のすすめ
IoTを活用した監視システムや、自動記録式の液剤投入装置、pH自動制御などの導入が、ようやく中小規模の現場にも拡大しつつあります。
データを蓄積し、「どのロットで吸水性不良が発生したか」「どの条件が最善か」を一元管理することで、属人性を排除できます。
初期投資に二の足を踏む経営層も多いですが、不良品コストやクレーム発生時の顧客損失を考えれば、十分に回収可能な投資です。
工程内検査・フィードバックを日常ルーチンに
品質管理部門・生産管理部門・製造現場が三位一体となり、「吸水性の工程内検査」を定期ルーチン化しましょう。
たとえば、
・各工程でのスポット検査
・トラブル発生時の異常記録
・継続的改善活動(QCサークルなど)の組織化
これにより、未然に不良発生率を引き下げることが可能になります。
工程で働く一人ひとりが「何のために吸水性管理が必要なのか」を意識する仕掛けづくりが重要です。
バイヤーとサプライヤーの架け橋になるには
現場データを武器にしたパートナーシップ構築
バイヤーの方であれば、単なる“価格競争”のためだけでなく、「いかに安定した品質を実現できるか」という視点で、サプライヤーとの協働を促すべきです。
一方、サプライヤー側は、現場で得られたデータや顧客トラブルの事例を武器にし、自社技術の強みをアピールする提案営業が求められます。
双方が「吸水性トラブルゼロ」を共通KPIに掲げ、一体感のあるプロジェクト推進や情報交換ができれば、単なる“コストダウン”とは一線を画す競争優位性を創出できます。
昭和的な発想を超えて、新世代サプライチェーンへ
属人的なノウハウや“現場の職人技”に頼り切るのではなく、データ、標準化、情報共有による「次世代型生産体制」への転換が、製造業全体の底上げにつながります。
バイヤー・サプライヤーが対立し合う時代から、価値共創のためのパートナーシップ時代へ──。
この潮流にいかに早く乗れるかが、今後の勝敗を分けるのです。
まとめ:吸水性不良改善は競争力強化への第一歩
繊維や不織布、紙・フィルムなどの産業において、吸水性不良は“目に見えないコスト”を生み出します。
糊抜き・精練工程の最適化は、一見すると地味でありながら、全体品質を大きく押し上げる重要な施策です。
現場のアナログ課題と最新技術のメリット、両方の視点から見つめ直すことで、安定品質・コスト削減・商品付加価値向上へつながります。
バイヤー志望の方も、サプライヤーとして最先端を走りたい方も、ぜひ現場データとコミュニケーションを武器とし、製造業の新たな地平線を共に切り拓きましょう。
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