投稿日:2025年10月13日

Tシャツの通気性を高める編み密度と生地厚の最適化

Tシャツの通気性を高める編み密度と生地厚の最適化

Tシャツは日常着として広く愛用されており、快適な着心地や汗をかいた際のドライ感が重要な選択基準となっています。
特に近年は、アウトドアやスポーツ、企業ユニフォームとしても高機能なTシャツの需要が高まっています。
その中で「通気性」は製品開発や調達の現場で常に注目される重要なキーワードです。
この記事では、Tシャツの通気性に影響を与える「編み密度」と「生地厚」の最適化について、現場経験に基づきながら分かりやすく解説し、昭和的なアナログ志向の業界が抱える課題や最新動向も交えてご紹介します。

なぜTシャツに通気性が求められるのか

Tシャツの通気性は、着ている人が熱を逃がせるかどうか、汗を素早く蒸発させてドライな状態を保てるかどうかに直結します。
気温や湿度の高い日本の夏に着用する場合、通気性が悪いと肌に張り付いて不快になったり、汗疹や肌トラブルを引き起こしたりする恐れがあります。
また、熱中症対策や仕事中の集中力維持の観点からも、快適なTシャツの通気性は重要です。

近年ではサステナビリティや省エネが製造業のテーマとなる中、エアコンへの依存度を減らす観点からも、通気性の良いウェアが積極的に取り入れられています。
こうした背景から、「編み密度」と「生地厚」の最適化設計は極めて重要となっています。

通気性に影響を与える生地の基本構造

Tシャツ生地は、一般的に「天竺編み」「フライス編み」「鹿の子編み」などの編み組織が使われます。
生地の通気性を大きく左右するのが、「糸同士の隙間の大きさ」と「生地の厚み」です。

編み密度(ゲージ)とは何か

編み密度とは、「編み目の粗さや密度」を指します。
編み密度が高い(細かい)ほど隙間が少なく、密度が粗いほど隙間が大きくなります。
一般的に、編み密度が低い(編み目が大きい)と空気が通りやすくなりますが、その分生地自体の強度や形崩れへの耐性が弱まるため、耐久性や見た目上の高級感のバランスを考える必要があります。

生地厚(オンス、グラム数)とは何か

Tシャツ生地の厚さは、「オンス(oz)」や「g/m²(平方メートルあたりのグラム数)」で表現されます。
厚手になればなるほど繊維が重なり合い、空気や汗の通り道が狭くなり、通気性が落ちます。
逆に、極端に薄くすると強度不足やインナーの透け感が問題となるため、適切な厚みの選定が大切です。

現場で語られる通気性の最適化設計

昭和の時代から現在まで、Tシャツ生地の設計思想には大きな変化があります。
かつては「丈夫さ」や「洗濯への強さ」が第一条件とされ、厚手で組織の詰まった生地が好まれました。
しかし、近年は「快適性」と「機能性」が重視され、より軽量で通気性の高い設計・調達がトレンドになっています。

ここで、現場で実践されている最適化の考え方とポイントをご紹介します。

用途による生地設計の優先順位

・肌着やインナー用途の場合
通気性と吸汗速乾性を最重視し、目付(生地重量)が約120g/m²程度で、編み密度がやや粗めの天竺やメッシュ構造を採用するケースが多いです。

・カジュアルTシャツの場合
通気性だけでなく、見た目のしっかり感や型崩れしにくさも考慮します。
目付は140~160g/m²が標準的で、編み密度や糸の太さともバランスを取ります。

・スポーツ、ユニフォーム用途の場合
吸汗速乾性・通気性の両立が求められます。
特殊なメッシュ編みやダブルフェイス(2重織り)構造を活用する工場も多く、ポリエステル系化学繊維の組み合わせも主流です。

現場目線での生地設計の工夫

1. 指定された「編み密度」に対してサンプル生地を複数種作成し、実際の着用テストを繰り返す
2. 必ず「JIS規格」や「社内基準」に沿った通気度(cm³/cm²・sec)測定を実施する
3. 洗濯耐久試験・ピリングテスト等もセットで評価し、「通気性の維持」という実用性を重視
4. OEM・ODMの場合、バイヤーにも仕上げ見本や物性データを提供し、現物検証に参加してもらう体制づくり

こうしたアナログ的な現場検証と、最新のシミュレーション技術を組み合わせることが、生地設計のミスを未然に防ぎ、最終消費者の満足度を高める秘訣です。

サプライヤーとバイヤー、両者の視点を理解する

通気性を追求するTシャツの商品開発においては、素材メーカー~生地工場~OEM~商社・ブランド~小売と、様々なプレイヤーが絡みます。
それぞれの立場で何を重視しているのか理解し合うことが、最適なものづくりの実現に不可欠です。

バイヤー(調達担当)は何を考えているか

・品質だけでなくコスト/納期のバランスを常に意識
・エンドユーザーや販売チャネルからの声を汲み取り、仕様に反映させる
・類似他社品との差別化要素(通気性・快適性など)を重視
・環境配慮(エコ素材、リサイクル原料など)の要求の高まり

サプライヤー(供給側)の最適化努力

・顧客ごとの要望に沿った細かな仕様設計と小ロット多品種対応
・糸・編み立て・加工(バイオ加工、防縮・吸水加工など)へのノウハウ蓄積
・抜き取り検査だけでなく工程内全数管理=ヒューマンエラーの削減
・付加価値提案型の商談(製品コンセプトに合う新素材や特殊編みを提案)

このように、アナログ的な信頼関係の構築と、最新データの共有が両立することが、現代のものづくりの現場では重視されています。

生地開発の最前線:業界動向とデジタル活用

昭和的アナログ指向が根強い製造業界ですが、数々のデジタル化も進行しています。
生地開発の現場でも、AIシミュレーションやCAE(コンピュータ支援設計)の活用が増えてきました。

CAE・AIを用いた生地設計のメリット

・サンプル作成前に、仮想空間で「通気性シミュレーション」が可能に
・様々な組織パターンや糸構成の最適解を短時間で絞り込める
・物性データの蓄積によるナレッジ継承とブラックボックス化の防止
・過去データ解析による、クレーム削減や品質安定へのフィードバック

ただし、ファッション性やユーザーの“肌感覚”といった定性的指標は、現場のアナログ知見が不可欠です。
つまり「現場の手触り・経験値」と「最新のデジタル技術」の橋渡しが今後の重要テーマです。

まとめ:最適なTシャツの通気性を実現するには

Tシャツの通気性向上には、「編み密度」と「生地厚」の絶妙な最適化が不可欠です。
どちらか一方だけを追求すると品質バランスが崩れるため、用途・目的・ターゲット層に応じて現場で検証・試作を重ねることが何より重要です。
また、昭和から受け継がれる感覚的な職人技と、現代のデータ・デジタル技術の融合を進めることが、競争力あるものづくりへの近道です。

サプライヤーの方はバイヤーの視点を理解し、新技術や提案力を高める努力を。
バイヤーを目指す方、現場改善担当の方は、設計意図や通気性評価の指標を正しく理解し、現場と密にコミュニケーションをとる姿勢を忘れないでください。

ものづくり現場で培われた知見を生かしつつ、新たな発想や技術を柔軟に取り入れることで、Tシャツだけでなくすべての製造業がさらなる進化を遂げられます。
未来のものづくりを担うみなさまが、この記事を通じて小さなヒントを掴んでいただければ幸いです。

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