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切削から板金曲げへの置換判断マトリクスで工法最適化

切削から板金曲げへの置換判断マトリクスで工法最適化
はじめに
製造業における生産コストや納期短縮の重要性は年々高まっています。
その中でも部品加工の工法選定は、調達購買部門・生産管理部門・設計開発部門の協働に直結する極めて戦略的な論点です。
「切削で作っている部品を板金曲げに置き換えるべきか?」この問いは現場経験豊富なベテランにも、またこれからバイヤーを目指す若手にも頻繁に突き付けられるテーマです。
この記事では、現場視点・経営的視点・サプライヤーの心理まで踏まえ、切削から板金曲げへの置換可否を判断する実践的マトリクスを紹介します。
さらに、昭和から根付く“言われた通りに作る”現場文化から一歩踏み出し、付加価値提案力を磨くヒントをお届けします。
切削加工と板金曲げ、それぞれの特徴整理
まずは両工法の長所・短所を明確に定義しましょう。
切削加工は、材料から不要な部分を削り、最終形状を作る工法です。
高い寸法精度・複雑な三次元形状に対応可能であり、試作や少量生産にも柔軟に対応できます。
一方で、加工スピードや材料ロス・コスト面でのデメリットが目立ちます。
板金曲げ加工は、薄い金属板を定められた寸法に曲げて目的形状を得る工法です。
材料歩留まりの良さ、大量生産への適応力、軽量化メリットが特徴的です。
ただし、曲げR(半径)や抜き形状、厚み・強度面での制約は依然残ります。
このような特徴の違いを前提に、双方の工法が現場でどのように選択されるべきかを掘り下げます。
現場ではなぜ“思考停止”で切削が採用されてしまうのか
日本のものづくり現場には、「前例踏襲」文化、「最悪リスク回避」思考が根強く残っています。
設計段階で「とりあえず切削で作れるよう設計しておく」「納期に間に合わないと困るから、短納期で確実に納品できる切削に振る」という現場判断が繰り返されてきました。
サプライヤーからの提案も、「余計なことを言って設計部との関係が崩れたら困る」と尻込みしがちです。
この“昭和的思考停止”の壁を打破するためにも、工法最適化のマトリクスを明確にし、バイヤーや現場SE、そしてサプライヤーが共通言語で議論できるフレーム(型)が必要です。
切削から板金曲げへの置換判断マトリクスの全体像
どのような観点で判断すれば、冷静に公平に工法置換を決断できるのか?
実際の工場長、調達バイヤーの経験からみちびき出したマトリクス項目を整理します。
1.部品形状(単純性・三次元立体形状)
2.要求精度・公差
3.材料(厚み・材質)
4.数量(ロット頻度・変動幅)
5.重量・軽量化要求
6.実装・組付け方(溶接・カシメ等の副次工法)
7.設計変更の可否
8.加工納期・リードタイム
9.材料コスト・加工費
10.現場工程へのインパクト(標準化・安定供給・リスク)
それぞれの項目で切削・板金双方に明確な優劣や制約があります。
マトリクス化してチェックを進めましょう。
マトリクスの各項目における判断ポイント
部品形状
三次元の起伏やアンダーカット、複雑な肉抜きが多い場合は切削に軍配が上がります。
反対に、L字・U字・箱型など、二次元的な折り曲げで済むなら板金が圧倒的に有利です。
要求精度・公差
精度公差±0.1mm以内を常に要求される場合、切削の信頼性が高いです。
一方で、±0.5mm程度まで許容できて、かつ機能上問題なければ板金へ。適切な後加工や治具の導入で精度リスクも十分抑制可能です。
材料(厚み・材質)
板金は通常、0.3mm~3mm程度の厚みに強みを持ちます。4mmを超えると加工が困難になりやすいです。
また、切削はアルミ・鉄・ステンレス・黄銅・樹脂など多種多様な材料に対応できます。
板金は一般的にSUS、SPCC等に制限されます。
数量
多品種少量(年間100個以下)では切削の機動力が勝り、量産(年間1000個以上)・将来増産を見込む場合はプレス化・板金化によるコストメリットが際立ちます。
重量・軽量化要求
設計の段階で「とにかく軽くしたい」が優先の場合、板金を使ってリブや肉抜きを活用するアイディアが有効です。
実装・組付け方
板金部品では溶接・カシメ・ネジ止めなどの付加加工が必須になるため、その工数や工数管理も忘れてはいけません。
切削部品は一体成形できる特長ゆえ、追加工数を減らせる場合があります。
設計変更の可否
製品設計段階で頻繁に形状修正が出る場合、外注板金加工は立ち上げまでの型製作など時間がかかることも。
納期重視であればまず切削で仮形状を確認、その後TA(妥当化)で板金化を視野に入れるなど、2段階に切り分ける柔軟性も大切です。
納期・リードタイム
短納期対応力は切削加工側にアドバンテージがあります。
板金は設計→金型・治具製作→立上げ…と段階ごとの“谷間”が発生しがちです。
現場の生産キャパやリードタイム情報を見える化することでリスク低減に努めましょう。
コスト
材料歩留まりの良さから板金は量産時のコスト低減に強みを発揮します。
一方、初期費用(型代・治具費)・設計工数も考慮し、トータルで比較しましょう。
現場工程へのインパクト
新たな工法投入で現場作業手順が増える・熟練技能が要求されるなどの影響を見逃しがちです。
全体最適を前提に社内連携も強化しましょう。
マトリクスの活用方法と導入事例—具体的な運用シナリオ
ここでは実際の製造現場で切削から板金へ移行した成功事例・失敗事例を基に、マトリクスの運用方法と付加価値提案の本質を解説します。
事例1:車載機器のブラケット部品
設計段階から切削での試作を重ねていた部品に対し、サプライヤーから「板金化による軽量化と3割のコストダウン」提案を受諾し、年間2万個規模で置換。
板金導入による組立ラインの作業効率アップ、副資材コスト低減(ネジの省略)にも寄与し、サプライヤーのQCD(品質・コスト・納期)評価向上にもつながりました。
事例2:小型医療機器向け筐体
板金化で一括プレス展開を検討したが部品形状の複雑さ・組立精度が課題となり、形状変更に多大なコスト・納期がかかることが判明。
結局試作段階は切削による対応に切り戻し、生産段階で部分的板金化とハイブリッド化の道を選択しました。
このように、マトリクスに準じて工法置換の“儀式”を設けることで、技術・調達・製造・サプライヤーが納得感を持ち、かつイノベーションを拒まない“現場力”が育まれます。
サプライヤー提案型バイヤーの着眼点
ここまでは工法比較の技術論でしたが、調達・バイヤー職として現場に一歩踏み込み、「工法変更提案」ができる視点が重要です。
– 部品表(BOM)の日常点検時に「この部品、本当に切削でしかできないのか?」と疑うクセ
– 社内設計者・サプライヤー起点の“逆提案”に耳を貸し、評価基準(コストインパクト・工数・納期など)を標準化しフィードバックを回収
– 工法変更時のQCD変化(特に量産立上げでのリスクシミュレーション)を見える化
– 技術部門・工場現場の“やってみる文化”を後押しするファシリテーターに徹する
こうすることで個人任せの属人的“思考停止発注”から、技術・調達・製造・設計が連携したダイナミックな付加価値創出が実現します。
昭和型アナログ文化から工法最適化“新常識”へのシフト
ここまで述べてきた内容には、単なるコスト削減を超えた“設計思想の転換”があります。
設計→調達→生産→納入の全プロセスが最適化のサイクルに乗ることで、業界全体が昭和的アナログ文化から抜け出すきっかけとなります。
デジタル図面や3Dデータ管理化、1サプライヤーへの丸投げ脱却、多能工育成、海外生産拠点との連携深化など、新たな挑戦は無限に広がっています。
まとめ
切削と板金曲げの工法選定は、現場目線のマトリクスで“見える化”する時代です。
属人的な判断や前例主義を脱し、設計者・バイヤー・サプライヤーの三位一体で工法最適化を目指しましょう。
読者の皆さまが、日々の現場でこの記事のマトリクスや思考法を活用し、工法提案やQCD改善活動で次なる製造業の地平線を切り開く一助となれば幸いです。
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