投稿日:2025年8月14日

ショットとバレルの使い分けで表面処理の過剰工程を削る最適化

はじめに:製造業の現場から見た表面処理工程の現状

製造業の工場現場――とりわけ金属や樹脂部品の量産を担う生産現場では、「表面処理工程」が製品品質を左右する極めて重要な工程です。

多くの現場でショット処理やバレル研磨といった表面処理が採用されていますが、昭和の時代から抜け出せない「慣習的な工程」や「安全マージン過剰な作業」が根強く残っているのも事実です。

しかし、現代のグローバル競争、市場の多様化、そして調達コストの高騰という逆風の中、工程の最適化は避けて通れません。

本記事では、20年以上にわたり製造現場で培ってきた知見をもとに、ショットとバレル――2種類の表面処理の使い分けによる最適化の視点と、その過剰工程を省く手法について実践的に解説します。

製造現場で働く方、その現場を支えるサプライヤー、そして製造業バイヤーを目指す方にとって有益な内容となることを目指します。

ショットとバレル表面処理の基礎知識と誤解

ショットブラストとは:具体的な役割と現場での現実

ショットブラストは、金属表面にショット(鋼球、グリッド、ガラスビーズなど)を高速で打ち付けることにより、錆落とし、バリ取り、表面粗化、応力除去などを目的とします。

重工業や自動車部品で広く採用されており、短時間で均一な処理が可能です。
しかし一方で、「必ずやらなければならない」という誤解や、過剰な安全マージンによる無計画な“重ね掛け”が見受けられる点も多いものです。

バレル研磨とは:多様なニーズに対応する万能性

バレル研磨とは、部品をバレル(容器)と呼ばれる槽内にメディア(研磨石など)と一緒に投入し、回転または振動により部品同士やメディアとの摩擦でバリ取りや、表面の光沢付与、角取りなどを行う工程です。

多品種少量生産でも柔軟性が高く、投下型コストも比較的低いことから、工場の自動化ニーズや多品種対応が要求される現場でも活用されています。
ただし「とりあえずバレルを数時間掛けておけば間違いない」といった発想から、非効率な運用が散見されます。

なぜ過剰工程が発生するのか:昭和的現場文化とその弊害

現場で観察される“念のため”の反復

製造現場では、「念のため」「安心のため」といった理由から、必要以上にショット処理とバレル研磨を重複させるケースが後を絶ちません。

新製品の立上げ時やクレーム再発防止の対応策として「二度掛け」「追加バレル処理」が定常化してしまい、そのまま標準工程に組み入れられてしまう状況が典型的です。

工程設計者・現場管理者・品質部門の分断

設計段階での「品質保証幅」と、現場での「作業安全弁」と、品質部門による「内部保証」の三者が、それぞれ独立した基準でものごとを判断すると、必要のない工程が温存されやすくなります。

また、現場では「急いでいるからまとめてやってしまう」「バッチ処理だから追加の数時間は影響が少ない」といった意識から、本当は不要な処理をスルーして実施してしまうことが多いのです。

コスト構造に見えない“工程の膨れあがり”

バレルもショットも外注や内作ラインとして独立している場合、処理工程単価は小さいため「大局的なコスト圧縮」の視野に入りにくい傾向があります。

しかし、月単位・年単位で見ると莫大な工数・エネルギー・管理負荷となり、購買バイヤーからも悪しきコスト体質と見なされるリスクがあります。

両者の使い分けで工程最適化を進める現場手法

バレルとショット処理の特性を正しく把握する

まず重要なのは、両者が担う品質要件とリスクを数値および実験ベースで「見える化」することです。

– ショットは主に表面粗化や有害な表面応力の除去、重量物の大面積処理に向いています。
– バレルはバリ取り、光沢付与、柔らかなエッジの演出、微細部品の均一面処理などが得意です。

例えば、部品エッジの鋭さを抑えるためにショットを使っている現場があったとしますが、実際はバレルの方が満足度の高い品質が得られることも多いです。
反対に、ピーニング(表面強化)が目的なのにバレルのみで対応している場合は、期待した効果が得られていないことも珍しくありません。

製品ごとの必要品質を定量的に評価する

図面や仕様書に表面粗さ、バリ形状、光沢度、応力要求値などが設定されている場合、
ショットとバレルそれぞれの工程での「どの段階でどこまで処理すれば充分か」を現場で試験評価し、
その結果を社内標準や作業指示書に反映させます。

これを怠ると「念のため両方かけてしまう」という悪循環が生まれます。
工程データや加工履歴のデジタル化が進んでいれば、
統計的手法で冗長工程の見直しができます。
アナログな現場でも、現物ベースでの比較サンプルを用意し、関係部署で現場確認を行うことで、納得感を伴って工程省略ができる場合が多いのです。

重要部品と一般部品での工程差別化

クレーム歴のある製品や高強度が必要なクリティカルパーツについてはショット工程を残し、一般量産品やエッジが集中しない部品についてはバレルだけ、あるいは逆にバレルをショットに一時的に切り替えるなど、細分化とカスタマイズが有効です。

一律化、横並び、過去の踏襲こそが過剰工程の最大の原因なのです。

現場での実践:具体的な省工程化ステップ

1. 現行工程の棚卸しと効果検証

まず、全製品・全工程を漏れなく洗い出し、
それぞれに設定されたショットおよびバレルの目的を明確にします。

そして、実際にショット→バレル→検査と順を追うごとに、各工程が具体的に品質にどう寄与しているか、工程ごとにサンプルカットを行い、目視、測定機器、現場ノウハウで丁寧に「不要な工程が無いか」を探ります。

ここでバッチ処理品やライン処理品、それぞれでの最適ルートを再設計できるケースが多発します。

2. 工程フロー見直しとトライアル運用

次に、複数ユニットに跨る製品群ごとに、ショットとバレルの工程を一時的に削減した状態で生産・検査を行い、従来現象との相違点を整理します。

例えば、「バリ高さを±0.02以内であればバレルで7割減る。ショットは2割のみ」というケースなら、バレルのみで仕上げとし、「強度を担保するショットは本当に必要?」と現場・設計・品質が三位一体で再考するきっかけになります。

3. 社内外にまたがるコストインパクトの共有

単なる現場作業の簡略化に留まらず、購買部門、コスト管理部門、そして場合によってはサプライヤーにも、工程削減の経済効果・品質効果を示し、巻き込むことが重要です。

工程数を1つ減らすだけで、電気代・人件費・作業時間を大幅削減できる事例もあります。外注依頼品であれば見積工数や納期見直しに直結し、取引コストの圧縮にも寄与します。

昭和のアナログ文化からの脱却:一歩先の効率化へ

若手人材による工程改善の突破口

現場のベテランは長年の経験から現状維持思考に傾きやすい傾向にありますが、デジタル世代・若手スタッフの斬新な視点で「そもそも本当にこの工程は要るのか?」と率直な問いかけをすることで、新風が吹きます。

現場会議や改善提案制度、現物レビュー会など、“改善の余地”が日常的に共有される文化づくりが重要です。

サプライヤーとバイヤーの双方向コミュニケーション

製造業購買担当(バイヤー)が「なぜこの処理が必要なのか」を納得感あるかたちで伝え、サプライヤーが現場レベルで実験・提案をする双方向の関係があれば、形骸化した工程もスムーズに断捨離できます。

「バイヤーはサプライヤーの工程の内実を知らない」「サプライヤーは顧客要求を黙って飲むしかない」という従来型パワーバランスから脱却し、協働による最適化推進がこれからの時代には求められます。

新規設備導入と工程最適化の相乗効果

自動化設備、IoT、インライン検査装置など最新技術との相性をも考え、不要なショット・バレル工程を無くし、重要な部分のみ集中・強化する――そんな「大胆な工程細分化・一極集中」こそ、進化する製造現場で勝ち残っていく道です。

まとめ:使い分けによる省工程化は“考える工場”への第一歩

ショットとバレル――類似した表面処理工程に思えますが、実際の現場では特性も得意分野も異なります。

全工程を「念のため」で冗長化する昭和的発想から脱却し、製品ごと・要求ごとに厳密な使い分け、見直し、削減を進めていくことが、製造業現場の最大の生産性向上策、コスト競争力強化の王道です。

今日から自社の工程、サプライヤーの工程を「そもそも本当に必要なのか?」の視点で見直してみること。
現場・管理者・サプライヤー・購買担当、すべての立場の人が、せっかく培ってきたノウハウをもとに“見える成果”をつくり上げていきましょう。

この“工程最適化”へのアクションこそが、日本の製造業が「昭和の過剰品質」から「令和のスマートファクトリー」へと進化する、最重要の一歩なのです。

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