投稿日:2025年9月3日

設計BOMから調達BOMへ余計な変換をなくす構成最適化

はじめに:製造業の現場で悩ましいBOM問題

製造業において「BOM(部品表)」は、ものづくりの根幹を支える命綱とも呼べる存在です。

近年、設計BOM(E-BOM)から調達BOM(P-BOM)へと情報を受け渡す際の変換作業や、変換ミスによるトラブルが多発している現場を目の当たりにしてきました。

これは昭和から続くアナログ志向の産業構造がいまだ根強く残る一方で、DXや自動化の波が不十分なまま取り入れられていることに一因があります。

設計BOMから調達BOMへの変換は、単なる「形式変更」ではなく、いかに余計な作業や情報のロスを防ぎ、効率的に運用できるかという構成最適化の問題です。

この記事では、現場目線で「なぜ変換が発生するのか」「何が無駄なのか」「どうすれば最適なBOM運用ができるのか」を深掘りし、時代を切り拓く新たな地平線を示していきます。

BOMの基本と現場が直面する変換の現実

BOMとは何か?設計BOMと調達BOMの違い

BOM(Bill of Materials:部品表)は製品を構成する部品や材料すべてを階層的にリストアップしたものです。

一般的に設計BOM(E-BOM)は設計者が設計意図を反映して構築する部品リストで、CADやPLMシステムで管理されることが多いです。

一方、調達BOM(P-BOM)は資材や調達担当が資材手配や在庫管理に使う部品リストで、生産管理システムやERP上で管理されます。

両者の違いは、設計BOMが「設計意図・機能構造」を主軸とし、調達BOMが「実際の手配・調達・製造」で使う「管理・運用しやすさ」を重視している点です。

BOM変換がなぜ発生するのか

この二つのBOMは、同じ製品を表していても構成や部品粒度、まとめ方や管理単位が異なり、情報の擦り合わせや変換が必要になります。

例えば、設計段階では共通部品をそれぞれのユニットに分離して記載していたものが、調達段階ではまとめて1ロットで発注するなど、運用ニーズに応じて構成の微調整や項目追加・削除が頻発するのが現場の実情です。

ここに余計な手作業、属人的なExcelマクロ、変換ミスなどが生じ、調達現場は正確な情報入手や納期遵守が困難になるという課題を抱えています。

なぜ余計な変換が温床となるのか?製造業の宿痾と業界動向

アナログ志向の壁:なぜ構成最適化が進まないか

昭和から続く日本の製造業では「設計は設計、調達は調達」という部門間の壁が分厚く、各部門独自のナレッジやExcelフォーマット、ルールが根強く存在します。

設計部門と調達部門がそれぞれ最適化を図るあまり、BOMも「現場最適の島」(いわゆるサイロ化)になりがちで、トータルでのBOM最適にはなかなか至れません。

加えて、BOM管理システムが高コストだったり、既存業務の流れを変えることに現場が躊躇する文化、過去の成功体験から脱却できない体質も余計な変換の温床となっています。

業界動向:デジタル化とBOM再編の最新事情

世界的に見ると、設計BOM・調達BOM・生産BOMが統合された「MBOM(Manufacturing BOM)」や、「One BOM」と呼ばれるシングルソース管理、SaaS型のBOM連携ソリューションなどが台頭しつつあります。

日系企業でも徐々にIT投資や、生産システム刷新プロジェクト、PLMとERPの連携強化が進行していますが、その多くがシステム主導かつ上流からの押し付けで、現場に寄り添った最適化となっていない例も少なくありません。

本当の意味での構成最適化には、現場視点の課題抽出と合意形成が不可欠です。

BOM変換の弊害と事例:現場で起きていること

変換ミスによる調達トラブル

一例として、設計BOMではユニットごとに分解されている部品構成が、調達BOM変換時に一部まとめられて部品の発注数が合わず、現場で部品不足が発生。
納期遅延や生産ラインの停滞、顧客への納期約束違反に発展することが現実に起きています。

また、設計変更が生じた際に設計BOM側だけが最新版に更新され、調達BOMにリフレクトされないケースも多く、旧型番の部品が誤って手配されるといったミスも顕著です。

属人化によるノウハウのブラックボックス化

多くの現場で、BOM変換を担当するベテラン社員が独自のマクロや作業手順で「手作業変換」を行い、そのノウハウが組織で共有されず、ブラックボックス化が進んでいます。

この属人化が担当者退職時のリスクとなり、企業競争力を弱めています。

BOM構成最適化に向けた現実的アプローチ

1.設計と調達の壁を溶かす”現場主導ダイアログ”

最適なBOM構成運用の第一歩は、設計・調達・生産管理・品質管理それぞれの担当者が一堂に会し、

「どのような情報が現場で本当に必要か」「BOMの粒度・まとめ方・階層は最適か」
「どの工程で何が変わるとどこまで部品情報に影響が波及するか」
という現場目線のダイアログを定期的に行うことです。

BOMの分割単位や属性情報、項目名称などをあらかじめ合意し、運用の変更・設計変更にも柔軟に対応できる「標準設計指示書」を整備することが重要です。

2.ITの力で“自動連携・一元管理”を進める

設計BOMと調達BOMの間で極力変換作業を廃し、自動変換ルールを設けてBOMデータを一元管理すれば、情報ロスやヒューマンエラー、属人化を防げます。

PLM、PDM、ERP…様々なシステムがありますが、API連携できる仕組みを持ち、BOM情報をJSONやXMLなどの“機械可読データ”で受け渡す環境を戦略的に導入することで、変換工数削減や最適化が可能となります。

また、プロジェクトの初期段階から現場も参加してユーザ仕様を決めるのが成功の鍵です。

3.業界標準BOMフォーマットと教育の徹底

業界ごとに異なるBOM記述ルールや標準フォーマットが誤解・変換ミスの原因になっています。

自社の独自ルールになりがちなBOMを、ISOやJEITAなどで策定されている業界標準フォーマットへ寄せていく取り組みも重要です。

併せて、各部門のエンジニア、資材担当者、バイヤー候補に対し「BOMの持つ意味」「自社BOMの体系」を体系的に教育し、“BOMに対する共通理解”を醸成することが業務プロセス全体の最適化に繋がります。

4.設計段階から“調達目線”をインストールする

構成最適化の究極は“設計時点で調達・生産性も視野に入れられるか”にかかっています。

設計側が「この構成だと調達現場でどんな苦労が生じるか」「まとめ/分割は適切か」「段取り替えや手配ロットに無理はないか」などを逆算しながらBOMを設計できれば、変換そのものが不要な“トータル最適BOM”に近づきます。

現場出身エンジニアの声や、バイヤー・サプライヤーのリアルな意見を開発初期から設計部門にフィードバックする仕組みづくりが効果的です。

今すぐ改善できる!BOM変換レス運用の小さな一歩

すべてのシステム連携や標準化が一気に進まないのが製造業の現実です。

しかし、属人マクロを「だれでも操作できる手順書」に再整理する、BOMの役割分担を見直して“ぶれない命名ルール”に統一する、設計変更連絡をワークフローで自動通知する……といった現実的な“小さな最適化”を積み上げていくことでも劇的な効果を得られることが多いです。

また、社内ポータルや社内SNSでBOMに関するFAQを共有しあい微細な気付きや改善案を集める取り組みも推奨します。

まとめ:「脱・余計な変換」がものづくり現場を強くする

BOM変換問題の本質は、「各部門ごとの慣習・最適化」と「製品全体としての最適化」とのギャップ、そして現場に根付く属人化・ブラックボックス化体質です。

現場主体の合意形成、地味な標準化と教育、ITによる自動連携、そして設計段階からの“全体最適志向”という複眼的アプローチが構成最適化のカギになります。

今こそ余計なBOM変換からの脱却を本気で考え、製造業全体の生産性と競争力向上に貢献していきましょう。

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