投稿日:2025年8月28日

直取引と商社経由を使い分けて手数料を抑える最適商流設計

製造業現場で重要視される最適な商流設計とは

製造業における調達業務は、単に安い価格で商品や部材を調達することだけが求められているわけではありません。

信頼できるルートで安定供給を実現し、品質トラブルを未然に防ぎ、将来的な生産計画にも柔軟に対応できることが理想です。

この中核となるのが「商流設計」です。

特に、「直取引」と「商社経由」という2つの主要な取引ルートを状況に応じて使い分ける手法は、コスト抑制のみならず調達リスクの適切なコントロールにも直結しています。

本記事では、20年以上の製造現場経験からくるリアルな視点で、それぞれのメリット・デメリット、使い分けのコツ、そして昭和から受け継がれるアナログ商流の根強い現状も踏まえ、最適な商流設計について解説します。

直取引と商社経由、それぞれの特徴

直取引のメリットとデメリット

直取引とは、メーカーがサプライヤーや部品メーカーと、間に商社や代理店などを通さずに直接取引を行うことを指します。

【メリット】
– 手数料やマージンが発生しない分、価格交渉がしやすくコストを下げやすい。
– 情報のフィルターがなく、サプライヤーとの意思疎通がスムーズで現場レベルの改善提案もしやすい。
– 技術的な課題や品質不具合に迅速対応できる。

【デメリット】
– 新規サプライヤー開拓や契約、各種交渉、トラブル対応まで自社で直接担う必要があるため、リソース負担が大きい。
– 信用調査や海外与信など、自社のみで対応しきれないリスク管理が発生する。
– 前例がない部材や少量調達など、サプライヤー側の体制・条件によっては受け入れてもらえないケースも。

商社経由のメリットとデメリット

商社や代理店を介した調達は、製造業において古くから用いられてきた実績のある手段です。

【メリット】
– サプライヤー選定や品質・価格交渉、納期や在庫調整といった煩雑な業務を一括して任せられる。
– 多数の部品や素材、複数メーカーにまたがる調達を一本化し、管理負担を減らせる。
– 緊急対応や多品種少量、海外取引時など、自社だけではリスクが高い場面でバッファ機能として活用できる。

【デメリット】
– 商社マージン(手数料)が上乗せされ、直取引と比べてコストが高くなる場合が多い。
– 情報伝達に中継地点がある分、現場へのレスポンスが遅くなることも。
– 商社側の方針転換や撤退リスクにも留意が必要。

現場観点から考える、典型パターンと最適な使い分け方

直取引と商社経由は、どちらか一方に決め打ちすべきものではありません。

調達品の種類・重要度・量・難易度、さらには組織体制や業界風土まで加味し、「ベストミックス」を追求するのが商流設計の要となります。

1. 重要部品やコア技術部材は直取引が基本

製品性能や品質を左右するようなコア技術や主要部品については、情報フローの透明性・トレーサビリティ確保のためにも、できるだけサプライヤーと直接つながるのがセオリーです。

設計・技術部門が直接仕様変更や品質改善のプレゼン、共同開発のディスカッションを行える体制は、国内外問わず競争力維持に欠かせません。

サプライヤーの経営・生産状況も目の届く範囲に置くことで、BCP(事業継続計画)対策にも強くなります。

2. 多品種少量やサブパーツ・副資材は商社経由が効果大

一方、ラインナップが多いサブパーツ・カタログ部品や、定期的に小ロットのみ必要となる副資材・消耗品などは、商社経由で「まとめ買い・まとめ納入」を活用する方が工数的にもコスト的にも合理的です。

商社は在庫調整や需給バランス調整を担う「調達のハブ」として、現場の安定生産に寄与します。

納期厳守が絶対な現場ほど、バックアップの意味合いで商社ルートを残しておくケースも多いのが実情です。

3. 海外調達では商社のネットワークが不可欠な場合も

国内よりもリスクや文化的障壁が格段に大きくなる海外サプライヤー開拓においては、必ずしも直取引だけが正解ではありません。

特に為替・契約リスク、納期遅延や品質トラブル発生時の対応など、「いざ」という時の身代わり機能を果たす商社の存在は、製造業の現場にとって非常に頼もしいパートナーです。

また、海外サプライヤーとの長期取引が軌道に乗るまでは、商社経由で様子を見てから、ある程度ノウハウやリスク対応力がついた時点で直取引に移行する、という段階的な移行戦略も有効です。

昭和から続く“なかなか変わらない”アナログ慣習とは

最新IT技術やサプライチェーンマネジメントが進展していても、製造業の中核現場ではいまだ「三現主義(現場・現物・現実)」が強く、伝票やFAX、電話、口頭指示といったアナログな運用も根強く残っています。

また、所属商社や長年の“義理人情”に基づくしがらみや、旧態依然とした「御三家商社ルート」の温存が、最適商流設計の障壁になっている現場も多々存在します。

デジタル化を進めながらも、既存の業界慣行や現場特有の商習慣、お得意様との信頼関係をどのように調和させていくか――この“昭和的課題”を乗り越えることこそが、いまの製造業現場に求められています。

バイヤー目線で押さえておきたい「理想と現実」

理想的な商流設計のポイント

– コア部材やリスク部材は直取引化、自社内でのノウハウ蓄積・密接なパートナーシップ構築
– 周辺部材や間接資材は商社一本化で管理コスト削減・安定調達
– 海外調達は段階的移行も視野に、商社の知見・ネットワーク活用を積極的に
– 既存“義理人情商流”の見直しも定期的に実施し、ベストなコストバランス追求
– BCPなどリスク管理観点も必ず盛り込む

現実的な課題と折衷案

– 組織横断で調達戦略を議論できる“連携会議体”の設置
– 現場担当から経営層まで現行商流の課題や見直し案を「定量的・定性的」に共有
– ITツールやプラットフォームの導入時も、現場の声を吸い上げた“無理のない移行計画”を策定する
– 昭和アナログ運用の“良い部分”は共存・活用しながら、デジタル導入で現実的な効率化を図る

サプライヤーが今すぐ実行できる、バイヤー対策とは

サプライヤー側がバイヤーの商流設計志向を理解することは、新たなビジネスチャンスや安定的な受注につながります。

– 提供できる「直取引」の強み(価格力・技術対応・納期短縮等)を具体的にアピールする
– 商社・代理店経由ルートの利便性、追加付加価値(物流・在庫・緊急対応等)を積極的に提示する
– バイヤーの調達方針(コスト優先・品質優先・納期優先など)を事前リサーチし、提案内容に反映させる
– アナログ取引をデジタル化できる”小さな一歩”から共創し、信頼関係を深める

まとめ:最適商流設計こそ、製造業バイヤーの真価

製造業の調達・購買プロセスにおいて、「直取引」と「商社経由」には、それぞれ歴史的・現実的な強みと課題があります。

どちらが正解と決めつけず、自社の製品や生産体制、リスク管理方針、そして業界ならではの“暗黙知(ナレッジ)”を総合判断し、「使い分ける視点」をもつことが、最も手数料を抑え、本質的コストダウンと調達安定の両立を実現します。

また、サプライヤー側もこの商流設計の本質を理解し、バイヤーの思考を先回りした提案や行動をとることで、互いに強い信頼関係を築くことができます。

結果として、「調達に強い現場」・「選ばれるサプライヤー」こそが、これからの製造業の土台を力強く支えるのです。

商流設計=企業進化のエンジン。

競争が激化する現代、今こそ製造業のバイヤーや現場担当者一人ひとりが、“最適商流”という羅針盤を手に持ち、新たな時代の地平線を切り拓く時です。

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