投稿日:2025年10月13日

紙おしぼりの破れを防ぐ水圧抄紙工程と湿潤強度剤の最適化

はじめに:紙おしぼりの品質に求められるもの

紙おしぼりは、日本のさまざまな飲食店やサービス業に欠かせない存在です。

一見、単純に見える消耗品ですが、実は品質に大きな違いがあります。

特に「破れにくさ」は、お客様満足はもちろん、店舗オペレーションの効率化、衛生面のイメージにも直結します。

その重要な品質を支えるのが、水圧抄紙工程と湿潤強度剤の使い方です。

この記事では、現場経験豊富な筆者が、自らの体験と業界の最新動向を踏まえて、紙おしぼりの破れを防ぐための技術最適化について深掘りします。

日本の紙おしぼり生産工程の基本

抄紙工程とは?

紙製品は「抄紙工程」と呼ばれる独特の製法で作られます。

原料パルプと水を混ぜ合わせたパルプスラリーをワイヤー上に流し、脱水・成形しながら連続的にシート状にします。

水の供給量や圧力、ワイヤーやフェルトの管理が紙の密度・厚さ・表面性・伸縮性などの品質を大きく左右します。

紙おしぼりの原紙は、この抄紙工程で強度と柔らかさという相反する機能を実現しなければなりません。

水圧抄紙工程の特徴

近年、従来の「タンブラー抄紙」や「フラット抄紙」と並び「水圧抄紙(ウォータージェット抄紙)」が拡大しています。

ウォータージェット抄紙では、高圧の水流でパルプ繊維同士を複雑に絡ませるため、接着剤を使わずとも高い強度が得られます。

また、繊維が乱流でランダムに配列されることで、横方向・縦方向ともに強度のバランスが良い紙になります。

これは、湿っても破れにくいという点で、紙おしぼりに理想的な特徴です。

湿潤強度剤の役割

紙の通常強度は乾燥状態で測られますが、紙おしぼりは「濡れたまま使う」ため、圧倒的に湿潤強度が重要となります。

パルプ繊維本来の水素結合だけでは、濡れると接着力が弱まり、破れやすくなります。

そこで「湿潤強度剤」を添加することで、繊維同士の結びつきを化学的に強化し、湿っても簡単には破れない紙を得ます。

なぜ紙おしぼりは破れるのか?現場あるあると課題の本質

紙おしぼりが破れやすい状況

製造現場やお客様からよく挙がる声で、「片手でおしぼりを袋から取った瞬間に破けた」、「力を入れたら紙が引き裂けた」などがあります。

現場目線で言えば、以下3つの要因が主です。

1. 紙厚が薄すぎる
2. 湿潤強度が足りない
3. 製造工程での機械的ダメージ

髪の製法の最適化に加えて、保管・運搬中の乾燥劣化、袋詰め機のロール圧など、課題は多岐にわたります。

希薄な“昭和型”業界の壁

日本の紙産業は、原材料費の高騰やエネルギーコスト増加、少子高齢化による人材不足など、数十年にわたり大きな外的環境変化に直面しています。

「昔からのやり方」「コスト重視で強度より枚数」「設備投資は最低限で済ます」など、昭和の感覚を引きずった現場も多いのが現実です。

こうしたなか、紙おしぼりを“消耗品”として扱いがちですが、品質トラブルがクレームやロスへ直結するため、現場改善・最適化は待ったなしの状況です。

水圧抄紙工程で破れを防ぐための現場視点最適化

繊維選択と配合の工夫

まず重要なのがパルプ繊維の種類と配合比です。

柔らかさを出すために針葉樹パルプを多く使うと、コシが足りず破れやすくなります。

一方で、強度・コシ重視で広葉樹パルプを増やすと、肌触りが硬くなります。

現場での最適化は、使用用途や仕様、ターゲット業種(高級レストラン向けか大衆食堂向けか)を営業と連携してフィードバックし、レシピを微調整することが結果に直結します。

水流条件と乾燥管理

水圧抄紙の要は高圧水流ですが、圧力が高すぎると繊維が細かく分断され逆に強度低下を招くリスクも。

逆に圧力が低いと繊維絡み合いが不十分でシートがばらけやすくなります。

現場では、ラインスピードや水流圧・噴射角度・ノズル詰まりなどを繊細にモニタリングし、品質ロットごとに記録を残しましょう。

また、抄紙後の乾燥工程で極端な急加熱やオーバードライを避けることで、繊維束の結着ポイントが維持され「表面はパリッと、中はしっとり」の理想的な質感を実現できます。

紙厚コントロールと異物混入防止

紙厚(g/m²)の均一性は、強度だけでなく、見た目や包材機への投入性にも大きく影響します。

製紙機のワイヤーマーク、フェルトパターンの磨耗・劣化チェックは日常点検の肝です。

また、製造現場では毛髪やチリ・異物の混入も意外と多く、最終製品のクレームとなりがちです。

静電気防止や作業衣の徹底管理、異物除去ローラーの活用なども生産工程全体の信頼性向上につながります。

湿潤強度剤最適化がもたらす品質革新

主な湿潤強度剤の種類と特性

湿潤強度剤には大きく分けて2種類あります。

一つはポリアミン系やポリアミドエピクロロヒドリン(PAE)系など、有機高分子タイプ。

もう一つはエポキシ樹脂やメラミン系の反応性樹脂タイプです。

それぞれコストや安全性、強化力、紙への染み込み度合いや残存率、最終分解性などの特性があります。

昨今は、SDGsや食品衛生法対応を意識し、安全基準はどんどん厳しくなっています。

特に直に人が触れる紙おしぼりにおいては、安全無害かつ低アレルゲンの添加剤選定が必須です。

湿潤強度剤の添加量設計と現場目線の落とし穴

一般に“強く”したいがために添加量を多くすれば、機能は上がります。

しかし、過剰投与はコスト増・紙質悪化・機器詰まり・環境負荷増・分解リスクなど様々なデメリットをもたらします。

現場経験則では、「基準+α」の安全率で設定しがちですが、本来は保存条件や流通期間まで見据え“必要最低限で最大効果が出る範囲”を綿密に探る必要があります。

ここには分析機器による品質チェック(引張試験・剛性試験など)はもちろん、日常オペレーターによる実拭き・実使用モニタリングが不可欠です。

また、近年は環境配慮から紙や湿潤強度剤の一部をバイオマスや機能性素材に切替える動きも出てきており、歩留まり・安定生産の壁をどう乗り越えるかが現場の勝負ポイントです。

アナログからデジタルへ:製紙工場の現場変革

IoT活用による工程データの見える化

従来は“職人技” “勘と経験” “見た目や手触り”が強くモノを言った日本の紙加工業界。

ですが、製紙原価の上昇や働き手の高齢化により、“だれでも品質を安定させる仕組みづくり”が急務となっています。

最新の現場では、IoT(センサー・ネットワークカメラ・クラウド記録)導入で、ラインスピード/水流圧/紙厚/湿度などをトレーサブルに管理。

過去のトラブル履歴と照合することで、機械の微調整や人員シフトも最適化され、紙おしぼりの破損率低減・捨て紙削減を実現しています。

AIによる品質異常の予兆検知とトラブル未然防止

さらに進化した工場では、AI解析による異常データ早期検知が標準となりつつあります。

たとえば、「紙厚が基準範囲を外れる可能性」「乾燥温度がトレンド変化している」などの兆候を察知し、トラブル→クレーム前に自動でアラートを出す仕組みです。

これにより、従来であれば“気合い” “全員で徹夜の人海戦術”となった状況が、標準手順化され、属人性が大幅に低減されています。

このデジタル変革こそ、激変する環境下でも競争優位性を維持できるキーソリューションと言えるでしょう。

バイヤーとサプライヤー:理想的なパートナーシップ構築へ

バイヤーが求めていること

紙おしぼりバイヤーは、「最低限使えるコスト重視品」ではなく、「クレームレスでロスが減り、安心して使える最適品」を本音では求めています。

業界ではしばしば価格競争に流れがちですが、実際の現場負担やエンドユーザーの印象まで踏まえ「品質バランス×サステナビリティ」で総合的に判断する時代です。

サプライヤーの立場で何を見るか

サプライヤー側の改善ポイントは、
・ヒヤリハット事例をバイヤーにもオープンフィードバックする
・ユーザー現場の声を原材料選定や生産工程に反映する
・コストと品質の両立(たとえば、工程自動化・紙厚のマイクロ単位コントロールなど)
・「紙おしぼりを通じて御社のブランド向上に貢献する」視点での一歩踏み込んだ提案
これらを徹底することで、単なる受発注の関係を超えた真のパートナーシップにつながります。

まとめ:紙おしぼりの破れ対策と現場力の未来

紙おしぼりの破れを防ぐためには、水圧抄紙工程と湿潤強度剤の最適化が不可欠です。

“当たり前の品質”を常に提供し続けるには、アナログ現場力とデジタル技術の融合、バイヤー/サプライヤー間の率直な連携が欠かせません。

地味ながらも活躍する現場の知恵と最新技術の掛け合わせが、業界全体の次なる進化への鍵となります。

この記事が、紙おしぼりメーカーのみならず、調達・品質管理・生産技術の方、バイヤー志望の皆さん、より良い現場づくりを目指す全ての方のお役に立てば幸いです。

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