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購買部門による発注ロット最適化と在庫削減の両立方法

目次
はじめに:製造業の永遠の課題「最適発注ロット」と「在庫削減」
製造業の現場において、「発注ロットの最適化」と「在庫削減」をいかに両立するかは、常に頭を悩ませるテーマです。
購買部門には「調達コスト削減」と「生産現場を止めない調達精度」の二兎を追う大きなプレッシャーがかかっています。
一方で、現場では余分な在庫が叱責の対象となり、会計部門や経営層からは在庫圧縮の命令が下されます。
しかし現実には、「一括大量発注でコストメリット」と「できるだけミニマムな在庫を維持」の両方を同時に叶えるのは容易ではありません。
本記事では、長年の現場経験をベースに、アナログな文化がまだ残る製造業でも実践しやすい発注ロット最適化と在庫削減の両立ノウハウを、具体例も交えて解説します。
そしてSNSや書籍ではなかなか触れられない、「昭和から続く業界ならではの不文律」や「調達購買の心理」も交えながら、購買担当者・バイヤー志望者・サプライヤーの立場からも学びになる内容を心がけます。
発注ロット最適化とは何か?在庫削減との相反関係
発注ロット最適化の基本:EOQ理論とその限界
発注ロットとは、一度にまとめて仕入れる数量のことです。
発注ロット最適化といえば、古典的な「EOQ(Economic Order Quantity:経済的発注量)理論」が有名です。
EOQは
「発注コスト」と「在庫保持コスト」を最小化する発注量を数理的に計算して最適ロットを決定する
という手法です。
しかし現実にはこうした理論だけでは解消できない課題が多くあります。
たとえば…
– サプライヤーによって発注単位やMOQ(最小発注数量)が固定されている
– 生産ラインや現場作業の工程都合で、理論通りに小分けの受入ができない
– 発注コストや人手がかかり、現場も購買担当も頻繁な受発注を敬遠しがち
– 運送費の高騰や物流ムラで小口が不利になりやすい
など、EOQモデルの前提条件が当てはまらないケースがとても多いのです。
つまり、「理論値」ではなく、”実践的な最適化バランス”を見極める現場感覚こそ重要なのです。
在庫削減の圧力:「在庫悪者論」へのカウンター
会計・経営的観点では「在庫」はキャッシュフローを圧迫するリスクとして見られます。
そのため往々にして、
「月次でこの数値まで在庫を減らす」
「棚卸資産回転率を上げろ」
というトップダウンの指示が下ることが定番です。
しかし、製造現場では
– 急な需要変動やトラブルへの備え
– サプライヤーのリードタイム長期化リスク
– 工程異常や歩留まり悪化による追加オーダー発生
など、余裕在庫が”命綱”となる場面が日常茶飯です。
在庫削減を単なる会計目線だけで推進しすぎると、現場・現実との乖離が起きて、意図せぬ生産停止やコスト膨張につながるリスクも高まります。
アナログ業界でなぜ最適化が進みにくいのか?
昭和型の慣習が今も根強く残る背景
「長年このやり方でやってきたから」
「不測の事態を考えると、やっぱり余裕在庫は必要」
「ロット割れ発注はサプライヤーとの関係が悪くなる」
こうした “変化を嫌う空気感” は製造業では根強く残っています。
特に元請メーカーとパートナー型サプライヤーが長年の取引慣行に基づき、「一括まとめ買い」や「付き合い発注」重視を続けているケースが多々あります。
購買部門も現場の「人情」や「慣例」から、極端なロット分割や急な発注方式変更を現実的に踏み込めない場面も多く目にします。
デジタル化・システム連携の壁
発注・在庫管理システム(ERP/MRP)の導入が進みつつあるものの、現場での細かなカスタマイズや正しいデータ入力習慣が定着していないと、
「理論値では在庫ゼロになるが、実際には物理在庫で多めに抱える」
「システム上の自動発注は現場感覚とズレる」
という”部分デジタル・部分アナログ”なグレーゾーンが生まれます。
これが最適ロット&在庫削減の推進を難しくしている背景でもあります。
実践的アプローチ:発注ロット最適化と在庫削減を両立する5つの方策
1.製販調達の「横串連携」をルーティン化する
発注ロット最適化・在庫削減は購買部門だけで完結できません。
営業予測・生産計画・調達状況の三位一体で、需給ギャップをタイムリーに察知・共有する仕組みが肝心です。
毎週または毎月のサイクルで
– 営業:販売予測の上方/下方修正
– 生産管理:直近数ヶ月の必要ロット予測
– 調達:サプライヤーのリードタイム最新動向
など、関係部署で対話と情報擦り合わせを定例化することが、現場ズレを埋める第一歩となります。
2.サプライヤーとの「ロット柔軟化交渉」訓練
従来の「まとめて発注」から、「分割発注」や「納期分散調達」へシフトする際、必ずぶつかるのがサプライヤー側の生産効率や物流負荷です。
しかし、以下のような交渉スタンスで臨むとサプライヤーとの協力体制も生まれやすくなります。
– 年間発注見通しの開示による生産計画協力
– ロット分割の代わりに着荷日オプションを提案
– サプライヤー側の在庫ヘッド(預託在庫・VMI)サービス活用
これにより「発注量の山谷緩和」「在庫持ち分の分担」にも繋がります。
ただし、サプライヤーを一方的にコスト増に追い込むのではなく、「発注頻度UP分の手数料調整」などWin-Winの話し合いも大切です。
3.ABC分析や”片手落ち在庫”の徹底可視化
全品番一律でロットや在庫を最適化しようとすると現場混乱が起きます。
まずは【売れ筋・重要度・調達難易度】などでABC分析を行い、
– A品目(必需品・需給変動大):ロット細分化+在庫最小限
– B品目(準主力品):伝統的ロット維持+安全在庫部分的圧縮
– C品目(消耗度低・代替可):発注頻度低減+在庫ゼロ目指す
と階層別の発注・在庫管理ルールを設定しましょう。
また、現場で偏在化しがちな「死蔵在庫」「見えない在庫」(工事進捗分・移動中分など)もオープン化すると、より納得感ある最適ロットが決められます。
4.「定量発注」だけでなく「定期発注」や「ジャストインタイム」応用
昔ながらの
– 一定数量に達したら都度発注(定量発注方式)
の他にも、
– 週一回・月二回など定期的に発注(定期発注方式)
– 日々の生産実績に応じてサプライヤーがダイレクト納入(JIT方式)
といった手法を案件やサプライヤー特性ごとに使い分ける柔軟さが求められます。
特に近年は
– サプライヤーの在庫スペース活用やデポ倉庫での預託
– 需要変動に即応できるEメール+仕組み連携
など制度的にも装備が進んできましたので、古いやり方から一歩踏み出す決断が重要です。
5.ボトルネック工程・リードタイム長品の特別モニタリング
製造工程全体を俯瞰すると、特定工程やサプライヤーが供給ボトルネックになる場合があります。
こうした品目は、
– 事前に安全在庫基準を厳格設定
– サプライヤーとの週次・日次ベースの需要予実管理
– 代替サプライヤーや多元化調達の検討
を同時並行で進めることが、発注・在庫リスクの極小化に有効です。
イレギュラー時でも「現場が詰まらない仕組み」を先回りで作ることがDX時代の調達購買戦略に求められる要件です。
現場目線のスコープ拡大:データとアナログ知の融合へ
発注ロット最適化や在庫削減は「データで一元管理」するだけでは現場課題は解消しません。
たとえば
– 計画値と現場の実需ズレに日々目を凝らす「現場力」
– サプライヤーの生産現場や地域特性まで掘り下げる「現地現物見学」
– 本当の意味での現場OJTで知見継承する「暗黙知」
など、現場の”実力者”が培ったスキル・視点が補完されて初めて成り立つのです。
このような日本的ものづくりの現場文化を尊重しつつ、「理論+実態」のバランスをうまく両立していく姿勢が、今後ますます重要になるでしょう。
まとめ:発注ロット&在庫削減の本質とは
ここまでみてきた通り、発注ロット最適化と在庫削減は「数字合わせ」ではなく、
– 需給バランスの可視化
– 社内外連携の深化
– サプライヤーとの信頼構築
– デジタルとアナログの橋渡し
を地道に積み重ねていく現場力の蓄積が鍵になります。
購買部門の現場担当それぞれが「何かひとつ変えてみる」姿勢を持つこと。
そしてバイヤー志望者は「単なる安値買い」だけでなく「ロット・在庫・工程・協力関係」まで広く理解する眼を養うこと。
また、サプライヤー側も「バイヤーの立場・痛み」を知った上で、共に最適なモデル実現を目指す態度が新しい共創時代の競争力になるはずです。
発注と在庫、デジタルとアナログ、買い手と売り手。
あらゆる境界を越えて、持続的なものづくり現場を共に築いていきましょう。
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