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支払い通貨の最適化で為替手数料と利鞘を圧縮

目次
支払い通貨の最適化で為替手数料と利鞘を圧縮
はじめに――現場経験者が語る“通貨選択”の重要性
近年、製造業界ではグローバルサプライチェーンの複雑化とともに、調達・購買部門の役割はますます重要になっています。
特に、調達先が海外に広がる現在、取引における「支払い通貨の選択」が企業の利益に与えるインパクトは軽視できません。
私自身、20年以上にわたりメーカーの現場から管理職の立場まで経験してきましたが、「支払い通貨の見直し」によって生まれるコストメリットを実感しています。
為替リスク、手数料、サプライヤーやバイヤーの意図。
本記事では、具体的な現場の課題とともに、どのように通貨最適化を進めて為替手数料・利鞘(マージン)を削減すべきかを、実践的な視点で掘り下げます。
なぜ今、支払い通貨を見直す必要があるのか
グローバル調達の拡大と“気が付きにくい”コスト
世界中のサプライヤーと結ぶ製造業において、支払い通貨は取引ルールの一部として長年“慣例”で選ばれている場合が多くあります。
しかし、その「慣例」が企業にとって「隠れたコスト負担」につながっていないか。
とくに円安・円高が急激に進む昨今、その影響は日々の利益に直結してきます。
例えば、円建てでなくドル建てで支払いを行うだけで、為替手数料やサプライヤー側の見積もり利鞘が大きく変動します。
サプライヤーが自国通貨で価格計算したものを無理やり日本円に換算し直す場合、為替の変動分を「リスク見積もり」として上乗せしてくることも珍しくありません。
昭和型アナログ取引がいまだに残る現場
多くの現場では、IT化・DXの進展にもかかわらず、伝票処理や決済通貨の選択が形式的・属人的に処理されています。
特に中堅規模以下のメーカーや協力工場では、「海外取引=ドル建て」「社内ルールで円決済」という古い慣習が未だ根強く残っています。
しかし、そのアナログ体質こそが、大きな無駄や機会損失を生んでいる元凶です。
実際、現場を知る立場からは「通貨を一つ変えるだけで粗利が数%改善した」ケースも多く見てきました。
為替手数料の仕組みと“ダブルパンチ”の実態
銀行の為替手数料――想像以上に重いコスト
海外送金や為替取引の際、銀行などの仲介業者は「為替手数料」を徴収します。
ここで見落としがちなのが、表示される「手数料」だけでなく、提示レートと実際の市場レートのスプレッドです。
たとえば1ドル=145円の市場レートに対して、銀行のTTS(顧客が買う場合のレート)が147円、TTB(顧客が売る場合のレート)が143円、などというのはよくある話です。
送金額が1,000万円規模でも、これだけで数十万円単位の為替手数料が乗ってきます。
サプライヤー側に発生するリスクヘッジの利鞘
見えにくいのが、サプライヤーが見積りに上乗せする“為替変動リスク”分です。
たとえば「日本円建てで見積もってください」と依頼した場合、相手国が人民元や米ドルで支払いを受ける体制であれば、円安や円高変動を見込んで売値に上乗せします。
これは“見積もり利鞘”として、日本側に直接伝わってきません。
実態としては、見積り時の為替リスクと、日本の購買部が支払う為替手数料が“ダブル”で取引コストに含まれてしまうのです。
最適な通貨選択がなされていないことで、過剰に利鞘を支払ってしまっている企業は多いと言えるでしょう。
支払い通貨最適化の具体的アプローチ
ステップ1:サプライヤーとのヒアリング
まずは“自社のルール”だけでなく、サプライヤーの事情・意向を必ず確認します。
彼らにとって最もリスク・コストの少ない通貨は何か、どの通貨建てならば「見積り利鞘」を最小化できるか、現実的な選択肢を探ります。
たとえば中国のサプライヤーなら人民元決済、欧米なら現地通貨またはドル建て等、相手にとって「自然な設定」がベストとなる場合が多いのが現実です。
ステップ2:自社の送金・為替体制の見直し
支払い通貨の多様化は、社内の経理処理や送金手順にも影響します。
現状、多くの企業では円建て決済以外に対応しきれていないこともありますが、もう一歩踏み込んで多通貨決済口座(外貨口座)の開設や、オンラインバンキングの活用を進めることが重要です。
また、複数銀行の為替レート・手数料を比較するだけでも、トータルでメリットを出せる場合があります。
実際に現場で手動計算を繰り返している現状を脱することで、手数料構造のブラックボックス化を防げます。
ステップ3:見積り単価の透明化と“共通理解”
通貨最適化の際、サプライヤー側は「為替リスクが減るなら値引きに応じる」ケースが多々あります。
そのメリットをしっかり説明し、お互いの期待値を明確にしておくことが重要です。
書面で為替リスク分を明示し、「人民元建てでいいので、その分販売単価も下げてください」という交渉は非常に実務的です。
大切なのは通貨最適化が「Win-Win」になる条件を設計することであり、一方がリスクを全て被るような交渉は避けるべきです。
現場でよくある抵抗と、その克服法
社内経理・現場担当者からの“面倒くさい”声
新たな通貨への切替は、現場の実務担当や経理部門から「管理が煩雑になる」「社内ルールとして難しい」といった抵抗が出がちです。
実際、「混乱した」「伝票入力手順が増えた」といった声が現場から上がるのも確かです。
しかし、そこに潜む“損失額”を具体的な金額で示すことで、現場の意識改革は十分可能です。
たとえば年間で数百万円単位のコストセーブが見込める場合、経理部門としても「やる意義」を理解できるでしょう。
経営層への説明と意思決定フローの整備
支払い通貨の最適化は、日々の省力化・機械投資とは違い、「目に見えないコスト」に切り込む改革です。
ゆえに、経営層へのロジカルな説明と、意思決定フローの見直しが肝となります。
たとえば社内規定で「ドル建て取引は役員決裁が必要」「新規サプライヤーには円決済を強く指導」といったルールが残っていれば、それが現状の“障壁”となっている可能性があります。
柔軟な経営判断と現場主導の提案で、ルールのアップデートを促しましょう。
実践事例――通貨最適化がもたらす具体的効果
事例1:電子部品メーカーにおける人民元建て切り替え
中国サプライヤーと円建て契約を行っていたA社は、人民元建て取引へと切り替えました。
その際、サプライヤーから「元建てでなら単価1.5%値引き可」のオファーがありました。
このディスカウントは、過去の為替リスク・手数料上乗せ分が相当額あったことを示唆しています。
年間購買額2億円のうち、1.5%のコストダウンで約300万円の利益改善。
円安元高の局面でも、為替リスク分がサプライヤーに吸収されやすく、双方が納得のいく“公正な価格”で取引継続できています。
事例2:欧州工具メーカーでの外貨口座・複数通貨取引
欧州の取引先と主にユーロ建て決済を行っているB社では、外貨口座を銀行2社で運用し始めました。
両銀行のレート・手数料を常時比較し、都度有利なレートで送金するルールを社内に徹底。
その結果、為替手数料分は月あたり約10 万円改善、年ベースで100万円超のコストダウンにつながりました。
また、銀行間で競争が生まれ、さらに有利なサービスを受けられるようになっています。
今後の展望とバイヤー・サプライヤー双方への提言
バイヤーが知るべき“サプライヤーの意図”と需給バランス
支払い通貨の最適化は、単なるコスト意識ではありません。
サプライヤー側も、自国通貨で安定的な資金繰りができることで経営の安定につながります。
また、多国間取引が進むグローバル時代では、「一社だけの希望」ではなく、「市場の合理性に基づいた共存・共栄」の視点がより重要です。
サプライヤーが身につけるべきバイヤー思考
サプライヤーとしては、単に「請求しやすい通貨」を選ぶのではなく、バイヤー側にとってのコスト構造や手数料体系にも理解を深めるべきです。
そのうえで、適切な説明とコミュニケーションを通じて信頼関係を強化できます。
また、決済プロセスの透明化、多通貨口座運用や為替リスクの共同管理といった先進的な提案ができれば、バイヤーから高評価を獲得しやすくなります。
まとめ――通貨最適化は“現場力”を支える経営改革
製造業の現場では、日々の調達・購買活動が経営成果へと直結しています。
通貨の最適化は、見過ごされがちですが、細部に宿る“利益の源泉”です。
現場実務の見直しと経営判断の両輪で、為替手数料およびサプライヤー側の利鞘を着実に圧縮し、真の意味でのグローバル競争力を獲得しましょう。
伝統を重んじながらも、新しい選択肢を用意する。
これこそが昭和から令和へと進む製造業の基礎体力強化に他なりません。
現場から発信できる経営改善、新時代のバイヤー力を身につけましょう。
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