投稿日:2025年9月21日

成果を自分の手柄にする上司を陰で揶揄する部下たちの会話

成果を自分の手柄にする上司を陰で揶揄する部下たちの会話

はじめに:製造現場に根強く残る「手柄横取り文化」

日本の製造業の現場では、長年にわたりいわゆる「手柄横取り上司」の存在が問題視されてきました。
高度経済成長期から続くピラミッド型の組織文化においては、トップダウンが強く、上司の一声で現場の努力や成果が無かったことにされてしまう場面もしばしば見受けられます。
特に調達購買や生産管理、品質管理といった間接部門では、成果の可視化が難しいという業界特有の事情も相まって、報告の中で実際の立役者が埋もれてしまうケースが多発しています。

本記事では、20年以上にわたり現場で管理職を歴任してきた筆者が、部下たちが陰で交わすリアルな会話やその背景、そしてその問題が製造業の組織やバイヤー、サプライヤーの関係性に与える影響を掘り下げます。
さらに、「なぜこんな文化が令和になっても抜けないのか?」という業界の根深い課題を、現場目線でラテラルに分析します。

部下たちはどのように上司を見ているのか

典型的な会話例:休憩室や飲み会で聞こえる本音

「この資料、全部自分で作って会議に出したのに、課長が“私の指示でうまくいきました”って締めくくったよ」
「やっぱりまた部長の武勇伝になるんだな、俺たちは裏方扱いか」

このような会話は、製造工場の休憩室や終業後の居酒屋で日常的に耳にします。
表向きは組織のルールやマナーを守っているものの、腹の中では「またかよ」とあきれ顔の若手部下たち。
その背景には、評価が昇進やボーナスに直結しやすい組織構造が色濃く関わっています。

なぜ“手柄横取り”は無くならないのか

昭和以来の「年功序列」「終身雇用」「忖度」による上下関係の名残は、今なお強力です。
一方で、成果主義が徐々に導入され始めていますが、それ自体が「成果を誰のものに見せるか」が重要視される逆説的な状況を生んでいます。
つまり、本当に成果を出した個人よりも、それをより巧みに“アピール”できる者が得をする、構造的な問題が根強く残っているのです。

組織の透明性や公正な評価体制が不十分な現場では、部下たちの信頼を失った上司はやがて孤立し、逆に「自分が損しないようにだけ動く動機」が蔓延します。
こうした組織風土は、やがてモチベーションの低下や、現場改善意識の希薄化、最悪の場合“新しい挑戦をしない”という文化の固定化につながります。

現場における手柄横取りの実態とその影響

調達購買での“功績のすり替え”

調達業務では、サプライヤーとの価格交渉や納期調整、品質向上のために地道な折衝を繰り返します。
実際には担当者や若手が苦労して条件を引き出したにもかかわらず、最終報告になると「〇〇部長による巧みな戦略交渉」と書き換えられる例が後を絶ちません。

この結果、当事者であるバイヤーのやりがいが失われ、モチベーションダウンにつながるほか、サプライヤー側も「現場感覚のわからないお偉方」と感じ取り、真の信頼関係構築が難しくなるのです。

生産管理の“ヒットアンドアウェイ”

出荷遅延や工程トラブルがあったものの、現場スタッフが汗まみれで間に合わせた場合でも、会議では「上層部の迅速な判断で生産計画を繰り直したため大事に至らなかった」というストーリーに。
これでは、現場の柔軟な改善力や判断力が認識されず、PDCAサイクルの真の精度向上に繋がりません。

品質管理の“現場軽視”

クレーム削減や不良対応の大半は、現場で起きて現場で対策を講じて終わります。
にもかかわらず、成果はミーティングで「上司の仕組み化」「管理職の統率力」にすり替えられます。
若手の創意工夫こそ、現場改善の種であり製造業全体の進化の源泉ですが、「組織の成果」として横取りされることは、創造的な人材の流出につながります。

昭和から続くアナログ業界構造が変革を阻む理由

デジタル化の波に乗り遅れる理由

製造業では、帳票や伝票が手書きで残っていたり、現場の日報が紙ベースで管理されていたりと、2024年現在もアナログ運用が根強く残っています。
これは、ミスを恐れて新しい仕組みの導入を避ける「現状維持バイアス」、そして「誰がどの成果を出したか」を可視化するツールが不得手である証左とも言えます。
個人の努力や知見がナレッジ化されにくく、組織の成果と個人の貢献が分離して評価されがちです。

見えにくい“影の功労者”にならないために

とはいえ、近年ではデジタルツールを活用し、「いつ」「誰が」「何を」実行したかを透明化する仕組みを導入する現場も増えつつあります。
進捗管理や問題点の共有をリアルタイムで可視化し、個人の貢献を明確に残すことが、最終的に組織全体の持続的成長につながります。

さらに、現場側の工夫として「自分のやったこと」をエビデンスとして残す日々のログ付けや、定例会議での直接報告、現場QCD(品質・コスト・納期)の数値責任を仲間で分担して「見える化」する中で、上司の“手柄横取り”を許さない空気が少しずつ広がっています。

賢いバイヤー、サプライヤーが知っておきたい現場の空気

上司だけでは分からない“現場の本音”を読み解く力

サプライヤーとしてバイヤー(購買担当)との関係構築を目指すなら、単なるお偉方同士の商談だけでなく、現場担当者の苦労や工夫を正しく把握し、評価する視点を持つことが重要です。
「今回は現場の◯◯さんのおかげです」と伝えるだけで、その情報は組織内の風土改善にもつながります。

また、バイヤーとしては自身の成果を上司に証明できる仕組み作りが不可欠です。
取引先との折衝ログや業績報告、問題発生時の根本原因の共有など、データに基づいた現場起点の発信を心がけると、自己防衛だけでなく組織全体の底上げにつながります。

「手柄横取り上司」時代の終焉に向けて

透明性・個別貢献度評価へのシフトが急務

今後の日本の製造業は、AIやIoTを活用した可視化・自動化が加速度的に進むことで、個人の貢献が正しく評価される時代へとシフトしていくでしょう。
そのためには、「現場で汗を流す人たち」にスポットライトを当て、新しいアイデアやチャレンジを歓迎する空気を醸成する必要があります。

最後に:現場の一人ひとりが主役になるために

成果を“自分のこと”として誇れる現場ほど、個々の自発的な成長やチャレンジ精神が根付きます。
「上司の手柄にされない」ための仕組み作りと、現場の声を正しく吸い上げるマネジメントの両輪が、これからの製造業を強く、しなやかにしていくことでしょう。

昭和的なアナログ業界を抜け出し、個人の力が正当に評価される未来へ——。
私も現場を知る一人として、そんな製造業の進化を、皆さんと一緒に実現していきたいと心から願っています。

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