投稿日:2025年6月30日

災害復旧に向けた受変電設備復旧工事の外注とその選定基準

はじめに:災害と受変電設備の復旧の重要性

日本は地震や台風、大雨など、自然災害の多い国です。
これまでにも多くの工場やサプライチェーンが、突発的な災害によって大きな被害を受けてきました。
その中でも工場や事業所の生命線とも言えるのが、受変電設備です。

受変電設備は、工場全体の電力供給の要です。
これが被災してしまうと、工場の操業のみならず、地域や関連企業の稼働全体に大きな影響が生じます。
災害時には、いかに早く、そして安全・確実に受変電設備を復旧できるかが重要な経営課題となります。

工場長として20年以上、調達や品質管理、現場運営に関わってきた経験から、災害復旧時の受変電設備復旧工事は、自社対応が難しい場合も多く、適切な外注先の選定が成功の鍵であると痛感しています。
本記事では、実践的な観点から外注工事会社の選び方や基準、近年の業界動向について、現場視点で深掘りします。

災害時における受変電設備のトラブルと課題

災害がもたらす受変電設備の故障リスク

地震や水害、雷などの災害が発生すると、受変電設備は次のような被害を受けやすいです。
・地震による変圧器や配電盤の転倒、損傷
・浸水(特に地下ピット部)、内部配線や絶縁物のダメージ
・短絡や漏電によるスパーク・火災
・機器内部のダストや泥の混入

これらは、すぐに現場技術者が簡単に修理できるものではなく、電力会社のルールや高圧機器の規格、安全管理が絡むため、専門工事会社の協力が不可欠です。

調達サイドの課題:工事会社の選定と、復旧までの時間

災害直後は、同業他社も含めて多くの復旧依頼が殺到します。
そのため、日ごろ付き合いのある工事会社だけでは対応しきれないことが多々あります。

また、近年は受変電設備の老朽化や、アナログ管理が続く現場も多く、図面や仕様書がすぐに出せない、といった課題も災害時には顕在化しやすいです。
復旧工事は速さだけではなく、品質や安全確保、調達の透明性も確保しなければなりません。

外注による受変電設備復旧工事の流れ

1. 初動対応(現場調査・被害範囲の特定)

災害発生直後、まずは現場担当者が状況確認を行います。
このとき、以下の点を整理し工事会社と共有できるようにしておくと、復旧がスムーズになります。

・被害箇所の写真撮影や記録
・停電/部分停電の範囲
・設備の型式・容量
・避難や二次災害防止の体制

2. 外注先の選定・依頼

日ごろから取引のある工事会社(電気工事業者・メーカー系サポート会社など)に加え、状況によっては新規業者の開拓も視野に入れます。
このとき、複数社へ相見積もりを取り、納期・価格・信頼性・対応力を総合評価します。

3. 工事計画の立案と合意

専門会社による現場調査後、必要部材や復旧工程、作業人数、工期、費用などの提案があります。
工場運営や生産再開のスケジュールとのすり合わせを事細かに行い、リスク分担や緊急時の権限委譲も明確にしておきましょう。

4. 復旧工事と立会・検査・通電

工事の際は、必ず安全責任者や監督者を立て、工場側も点検者を配置します。
復旧作業だけでなく、耐圧・絶縁試験や漏電検査なども実施し、問題なければ電力会社の立会いのもと再通電します。

外注先選定のポイントとプロ目線の着眼点

1. 実績・専門性の高さ

災害復旧工事は、通常業務とは異なるノウハウとスピード感が必要です。
・過去に災害対応の実績がある会社か
・自社設備や同業種案件の事例があるか
・主要部材のストックや調達力があるか
を必ず確認しましょう。

また、電気主任技術者などの有資格者が在籍していることも信頼度として重要です。

2. 動員力・対応力の厚み

災害時は人手不足が必ず発生します。
複数の協力会社・下請けを束ねて、短期間に必要人員を投入できる体制がある会社ほど、実際の復旧スピードが早い傾向にあります。

また、現場判断で図面なしでも施工可能なベテラン職人がいるかも、ひそかなチェックポイントです。

3. 連絡・進捗共有の迅速さと、柔軟な調整力

災害復旧現場では、稟議や契約よりも現場状況の共有や緊急決裁が優先されます。
連絡窓口・現場責任者が明確かつ素早いレスポンスをくれるか、当日の状況変化にも柔軟対応できるか―。
これは現場リーダーや工事管理職との初期打ち合わせで、雰囲気を直接確認するとよいでしょう。

4. 価格と支払い条件の透明性

災害復旧は調達購買的にみても、相場観が狂いやすいタイミングです。
普段より高めになることも想定しつつ、明細や単価根拠など、見積内容の透明性を重視しましょう。
災害特需による悪質業者を避けるためにも、過去案件や実態価格をよく把握しておくことが重要です。

アナログ業界に根強い課題と新たな地平線へのアプローチ

未だ残る紙ベース文化の功罪

多くの製造業工場では、図面・仕様書・工事履歴などが紙でしか保存されていない現場が少なくありません。
災害時には、濡れて読めなくなったり、失われたりすることが頻発します。

この“昭和的アナログ文化”は、緊急時の情報共有や外注先との連携時に大きな壁になるのです。

デジタル化・BCP強化による新地平線

一方で、近年はBCP(事業継続計画)の重要性が経営層レベルで再認識されています。
クラウド活用による図面・設備仕様のデジタル管理や、LINEやTeamsなどの即時連絡ツールの導入が、徐々に業界全体に浸透してきています。

復旧対応力を高めるには、
・被害時の写真・記録を即時アップロード
・仕様書・資格証・過去工事の情報をデータで一元管理
・工事会社単位で、復旧協定・オンコール契約締結
といった「災害に強い調達・管理体制」を日ごろから準備する―
この意識改革が、数年先の競争力に直結します。

現場主導と本社・工場間の連携

災害復旧では、現場主導の機動力と、本社や工場間の調整が求められます。
本社一括調達だけでなく、現場に復旧の意思決定権をある程度委譲することで、初動が格段に速くなる点も覚えておきたいポイントです。

サプライヤー・バイヤー双方に求められる姿勢

サプライヤー側(電気工事会社)は、提案力と実行力、実績を磨く一方で、透明な価格提示や納期感の共有、BCPやデジタル管理力の強化が求められます。

バイヤー側(調達・工場担当)は、コストだけでなく緊急時の動員力や現場対応力を重視した「人的ネットワーク構築」に励むとともに、普段から現場と調達が双方向で情報共有し合う仕組みづくりが重要です。

まとめ:リスク時代の受変電設備復旧外注は“備え”がすべて

災害は待ってはくれません。
復旧工事の外注選定も、いざという時には短時間で最良の選択が求められます。

業者の実績・動員力・柔軟性、情報のデジタル管理や判断権限の早期委譲―。
今こそ、昭和型のやり方から一歩抜け出し、BCPとしても競争力ある本質的なサプライチェーン改革を目指しましょう。

この現場発の工夫と工事会社との新しいパートナーシップが、災害大国・日本の製造業を次の地平線へ押し上げる鍵となります。

受変電設備復旧工事の迅速かつ安全な外注と選定力が、製造業全体のリスク耐性強化の要であることを、改めて現場目線で伝えたいと思います。

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