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性能を上げすぎてコストが爆上がりする“開発者あるある”

目次
はじめに:性能向上の落とし穴「コスト爆上げ」現象
製造業の世界では、「もっと良い製品を作りたい」「市場で他社に差をつけたい」という思いから、開発者や設計者が製品の性能向上に力を入れるケースが非常に多いです。
私自身、20年以上にわたり調達購買、生産管理、品質管理、工場自動化の現場で多くのエンジニアや開発担当者と接してきました。
その中で繰り返し目にしたのは、「性能を極限まで追い求めるあまり、コストが跳ね上がり、せっかくの新製品が市場要求や利益確保の観点から“迷子”になってしまう」という“開発者あるある”です。
この記事では、なぜこのような現象が繰り返されるのか。
昭和から続くアナログな組織体質も含めて、現場目線で深掘りしつつ、バイヤーやサプライヤー双方に役立つ実践的な知見を共有します。
なぜ「性能を盛りすぎる」現象が生まれるのか
1. 開発者の“理想”が暴走する構造的背景
製品開発は本来、顧客要求や市場ニーズを満たすことが目的です。
しかし、開発者や設計者には「せっかくなら世界一のスペックを」「最新の部品を使ってやろう」といった技術的好奇心が根強く存在します。
この姿勢は日本の製造業の強さでもありますが、現実には
– 過剰な安全率
– オーバースペック
– 想定外に高価な部品選定
– 不要な機能の追加
といった形で“本当に必要なもの”から乖離することがしばしば起こります。
2. 分業化・縦割り組織がもたらす弊害
特に昭和の名残とも言える、日本独特の分業化・縦割り体質。
開発設計と、調達購買部門の連携が希薄なため、開発現場が“原価”を意識しにくい構造になっています。
たとえ購買や生産管理から「その部品は高すぎます」と声をあげても、「設計図が優先」「設計変更NG」となりがちです。
この構図も、コストが爆上がりする根本原因の一つです。
3. 顧客や営業からの“盛り要求”も原因
一方で、顧客や営業部門が「念のためスペックを上乗せして欲しい」と要望してくるケースも少なくありません。
日本市場に根強い“品質は高ければ高いほど良い”という文化が、必要以上の過剰品質要求・“盛り性能指示”を助長しています。
性能とコストのジレンマ:現場でよくある事例
ケーススタディ1:最新IC部品で全機能を盛り×コスト爆増
ある工場では、既存設備用の制御用基板をリニューアルするプロジェクトがありました。
設計エンジニアは「将来の拡張性も考慮し、現状必要ない機能もすべて盛り込む」「大量生産品ではないが、とにかく今できる最高性能を」と提案。
すると、IC部品単価が2倍、ベンダーも限定され対応も遅延、調達も苦しむ結果に。
最終的にプロジェクト利益は大幅に減少しました。
ケーススタディ2:図面の要求精度が厳しすぎて高精度加工品に
古い図面を踏襲してリニューアルした場合、もとの高信頼設計の名残で「必要以上の高い寸法公差を指定」してしまう。
結果、通常の量産加工では対応できず、特別精密加工が必要になり、コストと納期がともに直撃。
無駄に厳しい図面は生産性を大きく損ないます。
ケーススタディ3:安全率を“昔通り”に追加しコスト肥大
設計段階で「一応、念のため」という理由から安全率を高めに設定。
その結果、構造材や部品がワンランク上のものに変更となり、設計全体のコストが想定外に膨張しました。
同時に、サプライヤー側も調達難・在庫負担に巻き込まれます。
新時代の“適正品質主義”へのシフトチェンジ
「顧客要求を正しく翻訳」することが最重要
性能を上げる=良いもの、ではなく
– 安価で早く
– 必要十分な品質
– 市場価値に見合う価格
を実現できてこそ、お客様が納得する“価値”です。
そのために必要なのは、顧客要求や設計意図を「本当に必要なスペック」まで分解し、“適正品質”を言語化することです。
調達購買・設計・営業のトライアングル連携
伝統的な縦割り体質を超え、調達購買・設計・営業の三位一体の連携を強化しましょう。
例えば購買担当が初期段階から開発会議に入ることで
– 「その部品は調達コスト的にNG」
– 「リードタイム的に実現困難」
– 「類似部品の安価代替提案」
といった現実的な指摘ができるようになります。
調達力=収益力。
このマインドを全員で共有することが一歩目となります。
現代流サプライヤーとの協業方式
昭和的な「何でも自社開発・内製」にこだわる時代は変わりました。
サプライヤー(部品メーカーや外注加工会社)は現場の豊富な知見・価格競争力を持っています。
「こんな部品や仕様で困っている」と早期に相談し、価格・納期・品質のバランスを徹底的にブラッシュアップする協業体制を作りましょう。
アナログな業界構造が“盛りすぎ事故”を助長していないか見直す
日本の伝統的な製造現場には
– 図面主義
– 前例踏襲
– 担当者の職人芸頼み
といった昭和的な価値観が今も根強く残っています。
しかし、こうした文化が過剰品質・コスト爆上げの温床でもあると意識しましょう。
特に現代では「DX(デジタル変革)」や「データドリブン経営」が主流になっています。
過去の“思い込み設計”から脱却し、IoTやAIなど最新テクノロジーも活用しながら、
「最小限の投資で最大の価値」を追求する経営感覚が不可欠です。
サプライヤー・バイヤーの両視点で持つべき“原価意識”
バイヤー視点:説得力のある理由で上流設計に介入する
「安い部品にしろ」ではなく、「仕様をこう見直せばコストが30%下がる」「不必要な精度を削ればサプライチェーンも楽になる」など、具体的な数字や実例で提案しましょう。
サプライヤーの提案力を活かしたコストダウンアイデアの“翻訳者”となることが、バイヤーの本領発揮です。
サプライヤー視点:顧客(バイヤー)の立場・コスト意識を知る
「なぜその要求精度が必要なのか」「なぜその部品が指定されたのか」といった“設計意図”の背景を深読みしましょう。
さらに、「実はこうした設計見直しによるコストダウンができます」と率直な改善提案をすることで、
バイヤーや設計者との信頼関係を強化でき、長期的な受注につながります。
まとめ:今こそ、“必要十分主義”で製造現場をアップデート
「世界一高性能の製品」を追い求める姿勢は、戦後日本の製造業を大きく成長させました。
しかし今は時代が変わり、「市場価値に合ったコストで、必要十分な品質」という“ミニマリズム”こそ競争力の源泉です。
性能の盛りすぎによるコスト爆上がり——この“開発者あるある”から脱却するには、
– 適正品質の定義を明確化
– 開発・購買・営業の三部門連携
– サプライヤーとの協業提案
– アナログ体質からデータ主導型思考へのシフト
が必要不可欠です。
現場を預かる管理職、購買バイヤー、サプライヤー、そしてものづくりに関わるすべての方に、
「良いものを、合理的なコストで」
この視点を今一度意識していただければ嬉しいです。
製造業の進化と、現場力の底上げのために、現実的な価値追求を共に目指していきましょう。
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