投稿日:2025年12月24日

鍛造プレス用モーター部材の容量不足が起こす過負荷

鍛造プレス用モーター部材の容量不足が起こす過負荷

はじめに:製造現場で起きている本当の問題

鍛造プレスは自動車、建設機械、電機部品など幅広い業界で用いられている重要な生産設備です。
中でも、モーターはプレス機の動力源として核心的な役割を果たしており、その部材が持つ「容量」は、製品品質や生産効率、安全性に直結します。

しかし、現場では「モーター部材の容量不足」がひそかに重大な問題を引き起こし続けています。
この背景には何があり、具体的にどんな現象が起こり、その解決策は何か―。
現場主義で培った経験と最新の業界動向をもとに、今こそ一歩踏み込んで解説いたします。

鍛造プレス用モーターと容量の関係―なぜ容量不足が致命的か

鍛造プレス機は、金属を高圧力で変形させるため強力なモーターが必要です。
このとき、モーター部材(主にコイル、シャフト、絶縁体、ベアリングなど)は「容量」、すなわち設計想定されている電気的・機械的負荷への耐性や放熱性を持っています。
設計容量以上の負荷=過負荷がかかると、摩耗や発熱、異常振動、絶縁劣化といった不具合が現れやすくなります。

とくに、多くの日本企業では「まだ使えるから」「予算的に今回は見送りで」「昭和の設備でも動いているから大丈夫」といった理由から、当初の設計容量を正確に把握せずに機械の延命・リプレイスが先送りされやすい傾向が残っています。

モーター部材の容量不足が引き起こす“現場あるある”

1. 過負荷による突発的な停止
2. モーターの異常発熱と焼損
3. 金型やシャフトの偏磨耗
4. 制御システムのリレーやブレーカーの誤作動・頻繁なトリップ
5. 製品不良の増加(寸法ずれ・形状不良)
6. 工場エネルギー効率の悪化
7. 周辺設備への悪影響(振動・ノイズ・伝播)
8. 想定外の設備トラブルによる納期遅延

こうした現象が「なんとなく毎日ちょっとずつ」進行し、やがて大きな事故や損失を生み出してしまいます。

どうして容量不足が見逃されるのか?昭和型アナログ業界の実態

多くの日本の製造業が「定期点検中心」「事後保全主義(壊れてから修理)」をベースにしてきた歴史があります。
これは職人の勘や経験が積み上げてきた伝統である一方、実は設備ごとの設計容量や運転プロファイルの実データ化・可視化が進んでいないケースが大多数です。

例えば、「このプレスは初代工場長の代から使っていた18kWモーターだよ。カタログスペック?多分あるけど見たことないな…」「前回の修理記録?手書きカルテをロッカーの奥にしまってあります」といった声がまだ現場を支配しています。

更に、IoTや予防保全といったデジタル化にも予算や人材リソース不足から抵抗が大きく、設計値や実際の稼働状況・負荷の“見える化”が遅れているのが実情です。

転ばぬ先の杖―購買・生産・品質の三位一体で取り組むべきポイント

バイヤー(購買部門)目線では、コスト削減だけでなくサプライヤーの部材能力や設計負荷、安全率をどう評価するかが問われます。
「安い部材を選んだはいいが、設計容量が本当に自社の鍛造プレスの実負荷条件に合っているか?」は盲点になりがちです。
一度設備がダウンすれば、数日・数週間分の生産停止=数千万円以上の機会損失が一気に噴出しかねません。

現場(生産管理・品質管理)の視点からも
・現在装着しているモーター部材の設計図書の再確認
・実際の負荷測定(ピーク電流・温度・トルク波形など)
・サプライヤーに対する技術的ヒアリング
・定期的なデータ記録、ファシリティマネジメントシステムの強化

など地道な“データ化”と“書き起こし”が今後益々重要になっています。

サプライヤーが知っておくべき「バイヤーの真意」

部材メーカーやサプライヤーの皆様に今注目してほしいのは
・「価格競争力」も大事だが、「耐久度」「温度耐性」「稼働環境対応力」が例年以上に問われている
・グリーン調達や省エネ評価指標(CO2排出量トレース)も含まれてくる
・モーター容量やトルク特性など、数字に裏打ちされた技術データの即時提出・透明性
・導入事例やフィールド実績による安全率提示の必要性

です。
バイヤー側が求めるのは「根拠ある安心感」であり、パンフレット以上の説明・定量データの開示が競争力の分かれ目になっています。

現場リーダーが実践すべき「ひと手間」とは

昭和的な「なんとかなってきた」アナログ対応から脱却するためには、現場リーダー自ら下記を実践することが求められます。

1. 今使っているモーターの部材構成(ベアリング、絶縁材、巻線スペックなど)をもう一度、仕様書レベルで棚卸しする
2. ピーク負荷が設計値の何%で動いているか、簡易測定(イベントロガーやサーモグラフィ)でもよいので確認する
3. 「前任者に任せきり」から、「自工程管理(部材ごとの運転履歴・記録)」へ文化を変える
4. サプライヤーから技術書・データシートを入手し、購買メンバーと定期的にレビュー会を行う
5. 設備投資の際には、TCO(総運用コスト)で「少し高くても容量に余裕がある」部材の採用を意識する

たったこれだけでも、トラブルの芽を未然に摘むことが現実的になります。

失敗事例から学ぶ―こんな実話に注意せよ

地方中堅企業A社では、古いプレス機のモーターベアリングを「昔ながらの同サイズ」で交換し続けていました。
しかし、材料改良による製品強度アップで、いつの間にかプレス負荷が10%上昇したにもかかわらず、モーター部材の容量見直しは行われませんでした。
一年後、連日深夜の稼働中にモーターコイルの絶縁破壊が発生。
20時間以上の全ライン停止と、復旧コスト1000万円超が一気に発生した例があります。

その後「設計容量見直し」→「温度監視&IoT導入」→「少し多めの容量部材発注」へ切り替え、生産安定・省エネ化・計画的予防保守の三拍子が定着。
部材費の上昇(年20万円程度)と、突発トラブル削減分(数百万円)が比べものにならない“投資対効果”となりました。

これからの鍛造プレス用モーター部材選びはこうあるべき

1. 必要設計容量の明確化
2. 実運用・負荷変動に応じたヒアリングとデータドリブンな選定
3. 安易な低価格品での妥協よりも、予防保全・TCO発想で安全余裕を持たせる
4. サプライヤー&現場間の技術対話を重視する(ただスペックで選ばない)
5. 省エネ・CO2可視化まで見据えた設備選定(カーボンニュートラル時代への布石)

この5つを軸に、購買―生産―品質の部門横断で知恵を出し合い、時代の変化をリードしていくことが、競争力強化・現場の底力となります。

まとめ:昭和から令和へ、“考える現場”へのシフトを

鍛造プレス用モーター部材の容量不足がもたらす過負荷は、現場で働く一人一人の「当たり前」や「伝統」との戦いでもあります。

アナログ主義の美徳と、最新のデータ活用を両立しながら、「現場で今何が起きているか」への深い観察と、一歩踏み込む問い直しこそが生産現場の未来を切りひらきます。

大手メーカー現場で積み重ねた失敗と成功のリアルな体験を、業界全体でシェアし、購買力・現場力・モノづくりの底力再生へつなげていく―。
こうした地道なステップこそ、今製造業に求められている本質です。

今日から、ご自身の現場で“容量”と“過負荷”について、ひと手間かけて点検・問い直しをしてみませんか。
きっと新たな改善のヒントと、次の世代につなぐ知恵が見えてくるはずです。

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