投稿日:2025年12月15日

庫内温度管理が不十分で製品劣化が起こる見過ごされがちな要因

はじめに──現場で見過ごされる庫内温度管理の重要性

製造業の現場では、多くの方が日々生産性向上やコスト削減に取り組んでいます。
しかし、実際の現場で意外と見過ごされがちなのが「庫内温度管理」です。
現代の高度な生産設備やデジタル化が進む中でも、倉庫や保管庫といった“裏方”部分の温度管理がうまくいっていないケースが少なくありません。

その結果、製品の劣化や歩留まり低下、サプライチェーン全体の品質損失など、思わぬ損失が発生しています。
本記事では、現場目線で庫内温度管理の見落としがちな盲点を紐解きながら、課題の本質と対策を深掘りします。

製品・原材料の品質劣化が起きる本当の理由

庫内温度管理の盲点──単なる計測では不十分

庫内温度は温度計さえ設置すれば安心、と考えている方が意外に多いです。
確かに庫内の一箇所に温度計を設置し、「この温度なら大丈夫」と評価する会社も見かけます。
しかし現場では、空間内の温度が一様でないことが多く、特に広い倉庫や、保管棚の上下、出入口付近など温度ムラが生じやすいポイントが存在します。

また、外気温、出入り頻度、日射、フォークリフトの稼働など、様々な要因が温度変化を引き起こします。
これを見落としていると、部分的な“ホットスポット”や“コールドスポット”が発生し、モノによっては劣化が始まってしまいます。

ヒトの運用慣習によって生まれるアナログ感覚の落とし穴

昭和時代から継承されてきた「なんとなくこの場所は大丈夫」「夏場だけ気をつけよう」などの属人的な判断は根強く残っています。
現場歴の長い担当者が長年の経験則で温度管理しているケースでは、イレギュラーな事態(機械の熱源増加や一時的な外気温上昇)に敏感に対応できないことがあります。

特に繁忙期や人員交替時に“管理の手薄さ”が生まれやすく、そこが劣化リスクの要因となるのです。

バイヤー・サプライヤーから見抜かれる品質管理レベル

近年は大手バイヤーやサプライヤーが、ISO9001やサプライチェーン全体の監査の一環として、庫内温度管理にも目を光らせ始めています。
「どこでどう保管し、どんな体制で管理しているか」を追求され、温度・湿度の実績データ提出を求められる場面も増えています。

その際、口頭や紙帳票だけで対応していると「本当に管理できているか?」と疑念をもたれ、サプライヤー選定で不利になるリスクもあります。

庫内温度管理にひそむ、昭和的アナログ運用の限界

紙帳票・記憶頼みの“温度管理”はなぜ今も消えないのか?

多くの現場ではいまだに「午前・午後1回ずつ温度を紙に記録」といった運用が残っています。
理由の多くは「投資コストがかかる」「現場の高齢者がデジタルに不慣れ」「昔からやってきて問題が起きてない」という声です。

しかし、環境規制や顧客要求が高まる今日、こうしたアナログ管理は“突然の危機対応”に極端に弱いという事実もあります。
例えば、急な冷却装置の故障時に、どの範囲が何度になっていたかを正確に把握できなければ、出荷の可否や原因追及にも支障が出ます。

「見ているつもり」から「データで知る」管理へ転換する

温度ロガーやIoTセンサーを設置すれば、庫内各所の温度変動をリアルタイムで把握できる時代です。
しかも設置コストも以前より格段に安価なものが増えています。

「決まった時刻に目視・記録」だけではなく、「センサーで全体を可視化し、異常時には即アラームを通知する」仕組みを取り入れることで、現場力は格段に上がります。
特にバイヤーや上流の顧客には、管理の高度化=信頼性アップとして強力な武器となるでしょう。

製造現場で見逃されがちな温度管理リスク事例

1. ピッキング待ち・一時保管ゾーンの盲点

しっかり管理された冷温庫内でも、実は「一時置き」や「翌朝便までの仮置き」スペースがノーチェックで、外気が入って庫内より高温になることが珍しくありません。
抜き取り検査対象外になりやすく、ここでの温度逸脱は帳簿や実績データにも反映されず、不良品流出の温床になります。

2. 機械熱源の近くでの品質異常

電動フォークリフトの充電エリアや大型モーター周辺部、さらには加湿・乾燥装置の近隣では、想像以上の「熱だまり」が発生します。
ここに温度や湿度に敏感な原材料や製品を置いておくと、目には見えない劣化が進行します。

現場調査や温度ログの分布可視化で、こうした異常ポイントを特定することが必要です。

3. 多湿条件での潜在的リスク

「温度」だけに注目が集まりがちですが、梅雨時や冬場の加湿条件下での「湿度」も劣化要因となります。
特に紙製品、樹脂材料、電子部品類は湿度依存性が高く、温度+湿度の監視が不可欠です。
庫内の空間ごとに適切な換気・除湿対策を行っていないと、長期保存品の不良率増加や、真因不明のクレーム多発につながります。

バイヤー・サプライヤー視点から見た温度管理課題への要求

「トレーサビリティ」「見える化」の徹底が評価される時代

今や製造業の購買担当者は、単なる価格比較だけでなく、「供給元がどう品質管理しているか」を多角的に評価します。
製品・材料だけでなく「保管中の履歴」「温度逸脱時の対処履歴」などがシステム化されていれば、バイヤーは「このサプライヤーなら任せられる」と安心します。
逆に、温度逸脱や品質トラブルの記録が曖昧なら、リスク回避の観点で取引中止・縮小の判断がされやすくなります。

持続可能なSCM(サプライチェーンマネジメント)の核に温度管理がある

2020年代以降、サステナブルやESG経営の観点から、「廃棄ロス削減」「フードロス対策」などが製造業でも要求されます。
適切な庫内温度・湿度管理で品質を守ることで、再検査・廃棄処理・返品対応といった無駄なコストを防げます。

調達購買やサプライチェーン担当は、こうしたリスクヘッジ型の取引パートナーを好む傾向が益々強まっています。

今日からできる!庫内温度管理レベルを今すぐ上げる具体策

まずは現状分析からスタート

・温度・湿度管理を担当する人物と記録方法を洗い出す
・保管庫内のレイアウト図面上に、現在の温度計設置場所/検査頻度をマッピング
・半年、1年単位で温度逸脱の履歴やクレーム情報を棚卸しする

こうした現場目線の棚卸しに始まり、どこに弱点/盲点が潜んでいるかを全員で確認しましょう。

低コスト導入できるIoTロガーを活用する

最近はWi-Fi/Bluetooth連携など簡易設置型の温度センサー・ロガーが多数あります。
まずはリスクの高いゾーンや一時保管エリアを優先して、センサー設置+クラウド自動記録を試行導入しましょう。

異常値アラートや、データの遠隔確認を現場リーダーと共有できれば、“見ているつもり”から“即座に知る”へと大きく進化できます。

教育・マニュアル整備で属人化を防ぐ

どんなに仕組みができても、運用が現場リーダー頼みになってしまえば抜け漏れが発生します。
若手・ベテラン問わず、「なぜ温度管理が必要か」「自分のミスでどういう損失が生じうるか」を事例豊富に教育し、マニュアルと標準帳票を全社で統一しましょう。

これにより世代交代や業務繁忙時にもぶれない安定品質が維持できます。

まとめ──庫内温度管理は“攻め”の品質保証

製造現場では、多くの方が設備投資やデジタル化に注力している一方で、庫内の温度・湿度という“シンプルだけど見落とされがちな品質管理”がボトルネックになる場面が増えています。

昭和的なアナログ感覚に頼らず、現実的なIoTやデータ活用を組み合わせ、全体最適で庫内温度管理を仕組み化することが求められます。
これにより、「取引先から信頼される」「リスクなく高品質供給できる」現場づくりが可能となります。

今日からすぐ始められる現場改善として、貴社でも庫内温度管理の見直しをぜひご検討ください。
現場発の小さな取り組みが、大きな競争力につながります。

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