投稿日:2025年12月3日

海外クレームの原因が物流ではなく“保管条件”の問題である話

はじめに:製造業の現場に潜む意外なリスク

製造業、とりわけ輸出入を日常的に行う企業において、海外クレーム対応は大きな悩みの種です。
製品が無事に顧客先へ届いたにもかかわらず、不良や異常が発生し、その原因特定に現場が混乱するケースを何度も経験してきました。
多くの場合、「物流中の衝撃や温度変化が原因だろう」と早合点しがちですが、実はその陰に「輸送・保管時の条件不備」が潜んでいることが少なくありません。
この記事では、現場の管理職やサプライヤー、バイヤー志望者が知っておくべき「物流トラブルと保管条件」の本質と、解決への視点を深堀りしていきます。

海外クレームの本質:物流より“保管”が危険な理由

よくある誤解:物流トラブルへの過大な警戒

海外から寄せられる品質クレームの多くは、「物流中の破損・劣化」が原因と見なされます。
パレットのずれ、コンテナ内の荷崩れ、湿度・温度管理不足などが代表例です。
そのため、多くの企業が「物流会社の選定」や「パッキング強化」、さらには「特殊な緩衝材の導入」など、物理的なリスクマネジメントにばかり意識を集中させがちです。

ですが、製品というのは単純に「壊れる」だけがリスクではありません。
部品や部材、または完成品の一部でも、「適切な保管条件」から外れることで、最初は見えない異常が後から現れることがあるのです。

保管条件がもたらす“見えない劣化”

工場現場で管理職を経験し、海外拠点とのやり取りを続けてきた私の実体験として多いのが、「日本から出荷時は全く問題がなかったはずの製品が、納入先で時間差をもって異常を示す」パターンです。
たとえば、以下のようなアナログ製造業特有の傾向があります。

– 合成樹脂部品が現地倉庫で数週間保管された後に変形や表面くすみが現れる
– 精密機械部品が突然サビを発生させる
– 化学品やコーティング製品が分離・異臭などの変質を起こす

この際、日本国内の品質管理や生産管理部門は「出荷時ロット検査はパスしているから自社問題ではない」と結論づけがちです。
しかし、よく調べると、実は「現地倉庫や輸送途中の中継基地で、推奨保管条件から外れていた」ことが真因だと判明することが多々あるのです。

実際に現場であった“保管条件クレーム”事例

事例1:合成樹脂製品の“湿度問題”

海外の高温多湿地域向けに出荷した合成樹脂部品で、不良品率が急増。
調査すると、現地の中継倉庫で窓を開けっ放しで保管され、大気中水分を吸収したことが原因でした。
製品仕様書には「60%RH以下で保管」と小さく記載があったものの、翻訳ミスや意識不足のため守られておらず、数千万円級の損失に発展。
「運送」や「梱包」自体には全く問題なしでした。

事例2:電子部品の“静電気対策抜き”

静電気に弱いIC部品を海外協力工場へFSで納入していたとき、出荷検品は全良にも関わらず、現地到着後に動作不良が頻発。
後日、現地担当者へのヒアリングで、倉庫が静電気対策されていなかったこと、出荷待機時に電子基板同士がむき出しのまま重ね保管されていたと判明しました。

事例3:特殊鋼部材の“短期間腐食”

アジア某国の現地倉庫で一時保管された特注鋼製品が、到着から数日後に錆・腐食が発生。
現地の梅雨期特有の湿度・塩害地域で空調管理されておらず、「日本国内の通り一遍な保管指示」では想定できないリスクが露呈しました。

なぜ現場では“保管”の意識が薄れるのか

昭和的“アナログ思考”の罠

昭和から続く日本の製造業現場には、「物流はバイヤーや物流会社の問題」という意識が根強く残っています。
また、「気候風土が似通った国内流通」を基準にした発想のまま、海外現地の環境に対するイメージが弱いのも実情です。

「うちの商品はそんなにデリケートじゃない」「倉庫なんてどこでも一緒だろう」という無意識の固定観念が、大きな損失や信用失墜につながる時代になりました。

情報伝達の“伝言ゲーム”問題

製品仕様書や図面、SDS(安全データシート)などの「条件」が、正確かつ理解しやすく伝わっていないケースも多発します。
例えば、保管温度や湿度、積層禁止や振動禁止などの注意事項が、日本本社→現地法人→現地倉庫・オペレーターへと伝わる中で省略・簡略化され、最後まで守られない状況が起きやすいのです。

“良かれと思って”の現地対応

現地スタッフが日本品質に合わせようと、「余計な手間をかけよう」とした結果、逆効果となる場合もあります。
例えば「梱包を開封して現品確認したまま、適切な再パッキングをせずに戻してしまう」など、善意の介入が問題を招くことも現場目線ならではの“あるある”です。

現場に根付くべき“保管条件”管理のポイント

1.保管条件の“可視化”と現場教育

– 製品ごとの「保管条件(温度・湿度・静電気・紫外線など)」をシンプルで多言語対応のマニュアルで明示する
– 取引先や現地倉庫現場まで、“実物サンプル”や写真を使って啓蒙、誤解を防ぐ
– 定期的な集合教育だけでなく動画コンテンツを活用し、属人化を避ける

2.物流・保管プロセスの見える化(トレーサビリティ)

– 海外運送時の温度ロガーや湿度計を活用し、出荷から納品まで記録を残す
– 物流工程だけでなく「納品後にどこで・どれだけ保管されるか」も可能な限り管理
– 物流会社や倉庫との協議により、必要に応じてスポット的な空調倉庫利用も検討

3.本当に“太いパイプ”をつくる地道さ

– バイヤー、現地サプライヤー、物流会社、現地倉庫、それぞれの現場担当者と、定期的なミーティングや現地視察を行う
– 「言った・聞いた」の責任なすりつけ型ではなく、「なぜこの条件が必要か」まで共有して、リスク意識のベクトルをそろえる
– 小さなトラブル例や、過去の“未遂事件”もデータベース化して関係者間で広く共有する

4.保管に強い“設計”も重要

– 出荷用パッケージまでも「そのまま保管条件を満たす設計」(乾燥剤同梱、真空パック等)に進化させる
– 一律な標準仕様から脱却し、納品先の保管環境や使用直前保管も加味した「現地対応バージョン」の設計配慮
– 不安点があれば“保管テスト”を出荷前に実施する意識改革

まとめ:クレームゼロへの“保管意識革命”を起こそう

製造業の海外クレームの真因の多くは、物流そのものではなく、むしろ「見過ごされてきた保管条件の問題」です。

バイヤー・サプライヤー双方の立場、現場にいる管理者としての体験からも、この「保管こそが最後の品質管理の砦である」事実に今こそ目を向けてほしいと考えています。

アナログ昭和の発想から抜け出し、“現地のリアル”を体感しながら、物流×保管×設計の三位一体でリスクに備える。
そうした現場起点のラテラルシンキングが、グローバル競争で勝ち続けるための絶対条件となるでしょう。

工場現場、バイヤー志望、サプライヤー、それぞれの立場で「保管基準は我がこと」と捉え、明日からでもすぐできる“小さな改革”を始めてみませんか。

それがクレームゼロ、そして真の顧客信頼獲得への第一歩となるはずです。

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