投稿日:2025年9月10日

SDGs対応を進める製造業の海外展開戦略と事例紹介

はじめに――製造業とSDGsが交差する新しい時代の夜明け

SDGs(持続可能な開発目標)は、2015年に国連が採択した世界共通の課題解決指標です。
環境問題、社会的責任、経済的発展の多角的側面が盛り込まれ、世界各国の政府はもとより、今やグローバル企業はこれを経営戦略の根幹に据えるのが常識となりつつあります。

日本の製造業も例外ではありません。
国内市場の縮小、グローバル調達の宿命、顧客からのSDGs対応要望といった現実を踏まえ、次世代の事業成長を図るにはCSRや環境配慮だけでなく、SDGsという国際共通言語で価値創造しなければ生き残れない時代が到来しています。

本記事では、昭和の手法から一歩踏み出し、SDGs経営に本気で向き合う製造業がどう海外展開を強化しているのか、その実践策と事例を交えて現場目線で解説します。

SDGsが製造業にもたらすインパクト

顧客・調達先から求められるSDGs対応

近年、日系メーカーでも自動車、電機、機械など主要分野ほどSDGsへの取り組みをサプライチェーンに要求する動きが強まっています。

たとえば「グリーン調達ガイドライン」の制定、「CO2排出量可視化」の要請、「責任ある鉱物調達」など、一次部品サプライヤーだけでなく、二次、三次に至るまで要求が波及しています。

調達バイヤーの立場で言えば、SDGs未対応サプライヤーはリスク認定され入札排除対象となる場合も増えてきました。サプライヤーの皆さんも「いつかは」と思わず、今すぐ取り組む必要が出てきています。

グローバル市場で通用するための“共通言語”

海外展開を目指す製造業にとって、SDGsは「顧客開拓の共通言語」です。
海外大手企業――たとえば欧州自動車やIT企業は「パートナー選定基準」にSDGs要素を入れています。

ISO14001やSA8000といった国際認証の取得も、SDGs目標との連動が不可欠になりつつあります。

昭和型の「安く、早く、正確」だけでは選ばれなくなった今、「本当にサステナブルか」「人権・コンプライアンスを守っているか」という新しい物差しで取引が拡大します。

人材・企業価値の向上もSDGs次第

若い世代の労働者や現地採用でも「環境」「ジェンダー平等」重視の価値観が主流です。
SDGs経営ができていないメーカーは、いい人材が集まりません。
東南アジアなど新興国工場でも、労働環境改善やコンプライアンス強化が求められ、サプライチェーン全体の社会的責任が問われています。

日本製造業のSDGs海外展開戦略の具体策

1. SDGs推進のための組織内連携・体制構築

従来の環境担当やCSR専任だけでなく、調達・品質・生産管理・営業を交えた「SDGs推進チーム」の立ち上げが成功のカギとなります。

部門ごと縦割りで進めると、サプライヤー指導や海外拠点展開で不具合が出やすくなります。現場の声を吸い上げ「見せかけ」だけでなく、地に足のついた施策を検討しましょう。

2. サプライヤーと“共創型”の取り組みを推進

トップダウンでルールを押し付けるのではなく、サプライヤーを巻き込んで一緒に改善案を模索する共創型アプローチが成果を出しています。

バイヤー目線では、定期訪問や診断、勉強会を重ね、個々の工場更新の実情や投資余力を理解した提案・サポートが求められます。

3. 環境認証・CO2可視化のデータ整備

脱炭素の流れの中で、取引先からはCO2排出量や有害物質使用量の証明が求められます。

現場での“実データ”をもとに、LCA(ライフサイクルアセスメント)などの環境負荷算出や、GRIスタンダードに基づく定量レポーティング体制を構築しましょう。

手作業のアナログ調査から、IoTや生産管理システムによる自動データ収集への転換が成否を分けつつあります。

4. 工場自動化・省エネルギー施策の展開

省エネだけでなく、再生可能エネルギーの導入や廃棄物削減、循環型モノづくりへの投資促進も海外拠点で競争力の源泉となっています。

日本本社が推進しつつ、現地工場でも補助金や政府優遇税制を活用し、Win-Winのモデルを設計することが重要です。

5. 多様性・働きがい向上施策の強化

現地法制度を上回る「働きやすさ」への配慮、DE&I(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)の実践、技能継承や教育支援による社会貢献もSDGs経営には外せません。

現地リーダーや女性管理職の育成など「国籍・属性を超えたグローバル人材登用」にも注力しましょう。

SDGs経営で海外展開に成功する国内メーカーの事例

グローバル自動車メーカーA社:調達プラットフォームのSDGs対応

A社は、全世界のサプライヤーに対しSDGs自己診断シート提出を義務化し、不備あるサプライヤーには教育・改善プログラムを無償提供しています。

また、CO2排出量や人権指標を可視化する調達管理システムを導入。現地調達部門が年一度フォローを行い、改善できない工場は取引停止も辞さない厳格さを持ちます。

その結果、ESG投資家や欧米大手顧客からの信頼を高め、新規海外受注獲得が加速しています。

精密機器メーカーB社:東南アジア工場でのSDGs主導型経営

B社は、タイ・ベトナム現法の生産現場で「廃棄物ゼロ」「女性リーダー比率25%」など高い目標を設定。

工場のIoT化によってエネルギー使用量や排出物をリアルタイム監視し、現場のアイデアでカイゼンを繰り返す“従業員参加型”施策を導入しています。

その結果、欧州向けの新規案件で競合より高い価格でも選定されるなど、SDGsを武器にグローバル競争力を高めています。

日用品大手C社:生産・販売一体型SDGsプロジェクト

C社は、海外工場での障がい者雇用推進、現地小学校との教育連携、エシカル資材の現地調達といった多角施策を展開。

本社が掲げるSDGs方針を現場レベルで具体的な数値KPIに落とし込み、四半期ごとに評価・調整しています。

これにより現地コミュニティとの共創関係を築き、社内外から高く評価されています。

SDGs経営の現場定着に欠かせない「昭和からの脱却」

アナログ文化の限界と「見える化」技術の革新

昭和時代から続く書類主義・口頭報告・根回し重視の文化は、SDGs経営には必ずしもなじみません。

数値的根拠に基づくデータ管理、「現場の空気」だけに頼らずグローバル客観性で意思決定するプロセス改革が不可欠です。

生産管理システム(ERP/MES)、IoT、AIなどの“現場主導型デジタル化”によって、全工程の「見える化」を進めましょう。これがESG監査や顧客要請にも即応できる強さを生みます。

現場の“やらされ感”を「誇り」に変える仕組み

上からのSDGs施策は形骸化しがちです。
現場が自分達の仕事の意味や社会的役割を実感できるような成功体験・制度設計が大切です。

たとえば省エネ活動や安全衛生活動で実績を上げたラインに「SDGs推進賞」を設けたり、改善提案をグローバル本社へ発信できる仕組み作りが浸透には効果的です。

まとめ:新しい時代の“選ばれる製造業”になるために

SDGs対応は、海外展開を成功させるパスポートであると同時に、“自社が持続的に発展するためのコンパス”そのものです。

バイヤー、サプライヤー、現場リーダーが一体となってSDGs経営に挑戦すれば、グローバル競争で「このサプライヤーと仕事したい」「この会社なら安心」と選ばれる企業になれます。

今が、昭和の発想を超えた「攻め」のSDGs経営への転換期。
現場で培った知見とアナログ精神も活かしつつ、新しい地平の開拓者として一歩踏み出しましょう。

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