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共同海損General Average宣言時に必要な担保と回収プロセスの全体像

目次
共同海損(General Average)とは何か
共同海損(General Average)は、長い歴史を持つ海上輸送の独特な仕組みの一つです。
その起源は古代ギリシャとも言われており、現代に至るまで実務で強く根付いている概念です。
共同海損とは、船舶が航行中に例えば火災や座礁、嵐などで積荷や船体を守るために「意図的に」一部の貨物・燃料・船装品を捨てたり、特別な支出を行った場合、その犠牲や支出を利用者(荷主、船主など)が「公平に」分担する制度です。
つまり、一部の荷主や船主の犠牲ではなく、関係者全体でリスクを共同して負担するという独特な商慣習です。
共同海損が宣言されるケース
船長の緊急の判断で共同海損が発生することもありますが、実際には下記のようなケースで発生します。
自然災害によるリスク回避行為
台風や嵐による荒天で、船体や積荷が危険となり、一部の貨物を海へ投棄する判断が求められることがあります。
この場合、投棄された貨物の権利者(荷主)は大きな損害を被ります。
事故による特別な支出
例えば、座礁によりタグボートを呼ぶ、積荷の一部を荷揚げ・避難するなど臨時の費用が発生した場合も、共同海損の対象になることがあります。
火災時の消火活動
船上で火災が発生し、消火のために積荷・装備品を損壊したり放出した場合、それは共同海損として扱われます。
共同海損宣言後に必要な「担保」—なぜ求められるのか
共同海損が宣言されると、まず求められるのが「担保(セキュリティ)」の提供です。
船会社(キャリアや船主)は、最終的な共同海損の分担金(Contribution金)を全荷主から確実に回収する保証が必要になります。
なぜなら、損失が極めて巨額になることもあり、一部の荷主と連絡が取れなくなるリスクもあるからです。
この「担保」は、実際に貨物の引き渡しが行われる前に、荷主やその代理人(フォワーダー、バイヤー等)が必ず用意しなくてはなりません。
担保を差し出さない貨物は、共同海損清算前には引き渡されないという、非常に厳格なルールが運用されています。
具体的に求められる担保の種類
共同海損のケースで多くの船会社が採用する実務は、以下のいずれか、または複数の書類・保証です。
共同海損保証書(Average Bond)
貨物の所有者が共同海損清算に従うこと、算出された分担金を支払うことを約束する公式な書類です。
通常は署名・捺印をして提出します。
保険会社発行の保証状(Average Guarantee)
貨物保険を付保している場合は、保険会社が分担金の支払い義務を保証する書類を発行します。
保険なしの場合は自社による現金担保や保証人による手配が必要となるシビアな取り扱いです。
現金担保(Cash Deposit)
信用が十分ではないケースや書類の手配が間に合わない場合、一時的に一定額の現金(多くは共同海損額の推定値プラスα)がデポジットされます。
これらの担保書類が正式に船会社、アジャスターと呼ばれる第三者専門家に提出・受諾されない限り、貨物はいかなる理由でも引き渡してもらえません。
担保を提出するまでの現場プロセス
製造メーカーや商社のバイヤー実務で困るのは、担保書類の準備から現場引取りまでに複雑なステップが絡むことです。
ステップ1:共同海損宣言の公式連絡(General Average Declaration)
船会社・代理店から「共同海損宣言」が公式に通知されます。
現場では、LOI(Letter of Indemnity)と誤解される場合も多いですが、この段階では最終的な精算金額は未決定です。
ステップ2:アジャスター指名と初動対応
専門の損害調査人(アジャスター)が指名されます。
アジャスターは、損害状況や必要な担保種類・提出先を公式文書で案内します。
ステップ3:荷主・保険会社への連絡と担保書類発行
積荷のバイヤーや荷主は、自身の付保保険会社へ速やかに連絡し、共同海損保証状の発行依頼を進めます。
複数社が関わる場合や、複雑なサプライチェーンでは情報・書類が錯綜し遅延が生じやすいので要注意です。
ステップ4:担保書類提出と認可
指定されるフォーマットに則った担保書類を、船会社・アジャスターに提出します。
ステップ5:貨物引取の許可
担保手続きがすべて完了した段階で、荷揚げした貨物の引取許可(Delivery Order)が発行されます。
共同海損分担金の回収プロセス全体像
担保の提出で一旦は貨物の引き渡しが行われますが、そこから分担金の決定・回収までの流れはさらに長期間かかるのが特徴です。
アジャスターによる損害額算出と報告
アジャスターが全てのコスト(投棄・損壊貨物の評価損、救助手配の費用、追加運賃など)を精査し、「どの貨物がいくら負担すべきか」を複雑な計算式で算出します。
分担金の請求・精算
最終的な求償額が確定した後、担保書類を提出したすべての荷主に請求書が発行されます。
貨物保険をかけていた場合は、保険会社が分担金を立て替え、被保険者(荷主)へ一部費用を請求します。
保険未加入時の落とし穴
製造業現場やサプライヤー現場で多いのが、保険未付保・条件不備による自己負担案件です。
この場合、共同海損分担金は自己資金から直接支払うしかありません。
高額なケースでは黒字が一気に吹き飛ぶ為、現場調達・購買は「貨物保険」の付保を絶対に軽視してはいけません。
共同海損発生時に求められる現場力・交渉力とは
昭和から続くアナログ業界の手順や、船会社によっては書類フォーマットが統一されていません。
そのため、次の現場ノウハウ・交渉力が必須となります。
素早く情報伝達・関係各所の連携
特にメーカーやバイヤーの場合、サプライヤー先にも状況を説明し、場合によっては追加納期・コスト説明が必要です。
船会社・アジャスター・保険会社・通関業者との連携も、決して後回しにできません。
書類フォーマットのミス防止
アナログな業務ゆえ、手書き・FAX・印鑑等が依然として横行しています。
一文字のミスでも受理まで再差戻しされ、納期が致命的に遅れるリスクがあります。
必ず実際に使われる「現場の最新フォーム」を事前に確認し、提出サンプルをもとに誤記・漏記をチェックしましょう。
サプライヤーはバイヤーの立場を理解することが重要
サプライヤー(出荷元)は、共同海損時の担保提出、分担金発生リスクを「対岸の火事」と思いがちです。
しかし実際は、バイヤーが引き取りできなければキャッシュフローや次工程で大きな混乱が生じます。
「入念な貨物保険の付保」「いざという時の現地在庫や納期説明」など、事前リスクコントロールが双方の信頼構築につながります。
これからの共同海損対応とデジタルトランスフォーメーションの可能性
令和の時代となっても、共同海損の手順や書類は昭和の手法が色濃く残っています。
今後は、ブロックチェーンや電子保証状などの活用が進むことで、関係者全体で負担を最小化する新しいオペレーションが期待されています。
調達購買部門では、「もしもの時の共同海損リスク」を具体的な業務マニュアルに落とし込み、保険、書類対応、関係先連携のタスク管理へ落とし込むことが求められます。
まとめ:共同海損担保と回収プロセスを現場目線で捉える
共同海損(General Average)は、「誰か一人が損をするのではなく、みんなでリスクを分担する」極めて商業的合理性の高い制度です。
一方で、その運用実務は保険、法務、総務、現場調達、サプライヤーなど多くの部署との連動が必要なため、強い現場力と交渉力が求められます。
製造業バイヤー、調達購買、サプライヤー全てがこの仕組みと担保回収プロセスを理解し、公開された情報やDX推進の流れをうまく取り込めば、昭和のアナログを超えた現場力の構築が可能です。
いざという時に本記事が、製造業に携わる現場の方々の力になることを願っています。
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