投稿日:2025年10月11日

ペットフードの香りを保持する脱酸素包装と水分管理技術

はじめに:ペットフードの価値を決める「香り」と「品質」

ペットフード市場は年々拡大を続け、高品質・高付加価値商品への需要が高まっています。
その中で、飼い主がペットフード選びで重視するポイントの一つが「香り」です。
犬や猫は嗅覚が非常に発達しており、フードの香りが食欲や嗜好性に直結します。

反面で、フードの香りや食感に深く関わるのが「品質維持」です。
特に、湿気や酸素による品質劣化は深刻な課題です。
製造現場では、昭和から続くアナログな慣習に依存した品質管理から、最新の包装技術や水分・酸素管理を組み合わせる方向へのシフトが進んでいます。

本記事では、現場目線の実体験も踏まえつつ、ペットフードの香りを守りながら品質を維持するための「脱酸素包装」と「水分管理技術」について深く掘り下げます。
調達担当者、工場の現場管理者、サプライヤーのみなさんにも役立つ実践情報をお伝えします。

なぜペットフードは「香り」が重要なのか

嗅覚の鋭いペットが満足するフードづくり

犬や猫は人間とは比べものにならないほど嗅覚が発達しています。
そのため、ペットフードの香りが新鮮であればあるほど、嗜好性や摂食率が向上します。
メーカーの立場から言えば、香りの劣化=商品価値の低下に直結するともいえるでしょう。

加えて、ペットオーナーの消費行動にも香りは大きく影響します。
袋を開けたときに感じる「おいしそうな香り」「出来たて感」は購買意欲を左右し、嗜好性が高いと定期購入やブランドロイヤリティ向上にもつながります。

香りを守る要:包装技術と現場管理の進化

しかし、どんなに美味しいレシピで作っても、保管や流通の過程で「酸化」や「湿気」の影響を受ければ、すぐに香りや食感は失われてしまいます。
昭和からの現場では、「シーラーでしっかり封をする」「保管倉庫の温度管理を徹底する」といった人力頼みも根強く残っています。
ですが、今や技術の力を借りて根本から解決する取り組みが進んでいます。

ペットフードの大敵「酸素」と「水分」

酸素による劣化メカニズムと現場での課題

ペットフードに含まれる脂質やたんぱく質は、空気中の酸素と反応しやすい性質を持っています。
これが「酸化」の原因となり、香りや味だけでなく、健康に好ましくない過酸化物やカビの発生リスクを生みます。

現場で長年課題となってきたのが、「袋内の空気残存率」や「封止不良によるリーク」など、アナログな管理に起因するミスです。
製造ラインのスピード重視による封入不良や、人手の不足によって十分な監視が行えない瞬間が少なくありません。

湿度・水分がペットフードへ与える影響

ペットフードは水分値が高すぎるとカビや変質の原因となります。
特に梅雨時期や高湿度環境では、梱包作業時の微細な隙間からの湿気侵入が命取りです。
逆に水分が低すぎても嗜好性が低下し、食感にパサつきが出るなど、決して単純に「乾燥させれば良い」というものでもありません。

現場管理者やバイヤーは、水分値の適正管理を徹底しつつ、流通過程での湿気対策も求められます。

脱酸素包装:香り・鮮度・食感を守る最前線技術

最新の脱酸素包装とは?

脱酸素包装は、袋内の酸素濃度を極力減らす技術のことです。
具体的には「脱酸素剤(エージレス)」や「ガス置換(フラッシング)」、高バリア素材の多層フィルムなどが使用されます。

・脱酸素剤は、袋詰めと同時にエージレスなどの吸収剤を同梱することで、包装内部の酸素と化学反応を起こし、極めて低濃度に維持します。
・窒素置換は、袋詰め時に窒素ガスを封入し、酸素濃度を意図的に減らす方法です。
・高バリアフィルムは、外部からの酸素・水分の侵入自体を遮断する多層構造のパッケージ素材です。

これらの技術を単独で導入するだけでなく、最適な組み合わせを設計することが、現代ペットフードメーカーの実力を左右します。

現場目線での導入ポイントと注意点

包装ラインでの運用においては、導入コストや手間とのバランス、保管現場での教育・手順標準化が重要となります。
例えば、吸着剤の入れ忘れや破損混入を防ぐためのセンサー導入、フィルム選定時のバリア性能の表記チェック、サプライヤーとの試験運転の徹底チェックが現場品質の決め手となります。

また、製造後の一括抜き取り検査や、倉庫でのランダム抜き打ち検査によって、万全な品質担保が図れています。
脱酸素包装は、「導入したら安心」ではありません。
現場の細かなヒューマンエラー対策、チェックリスト、標準化文書の更新運用が継続的な課題です。

水分管理:工場現場とサプライチェーン全体で見る

ペットフード製造プロセスでの水分制御の最適化

製造現場では、原料受け入れ時から製品完成まで、工程ごとに厳密な水分測定が行われます。
従来は「見た目」「手触り」に頼るケースも多かったですが、今は迅速測定ができる近赤外線水分計や、ライン設置型のオンライン水分モニタリング装置なども積極的に導入されています。

これにより、原材料の個体差や天候変動を吸収した安定生産が実現します。
とりわけアウトソーシングや海外委託生産が増加する中、バイヤー目線では各社がどのような水分管理手法を採用しているか、細かく査定・監査することが欠かせません。

サプライチェーンにおける「水分リスク」マネジメント

出荷以降の流通倉庫・輸送段階での水分管理も見逃せません。
特に国際物流など温湿度変化が激しい環境下では、荷崩れや長期保管時のカビ発生リスクが潜在しています。
サプライヤーは出荷前の「加熱殺菌」「脱酸素パッケージ」「防湿二重包装」など多層的なリスク対応力が問われます。

最終的な製品の賞味期限表示を保証するためには、輸送業者や卸先とのトレーサビリティも意識的に強化する必要があります。

アナログからデジタルへ:現場改革のヒント

昭和のやり方を更新する現場オートメーション

包装・梱包工程を担う作業者の作業記録や目視チェックだけでは、抜け漏れ・属人的ノウハウに限界があります。
今や画像認識やIoTセンサーによる自動リーク検査、設備連動での水分異常アラートなど、省人化と品質安定化を同時に実現できるソリューションが登場しています。

ただし、現場導入には「現場の抵抗感」や「システム投資回収計画」も伴います。
理想論だけでは動かず、バイヤーや経営層と現場との対話によって現実的な一歩を踏み出すことが、業界全体の成熟を促します。

調達・購買目線でのサプライヤー選定基準

調達担当者としては、「脱酸素包装」「水分管理」をキーワードに、サプライヤー選定時の監査項目や評価基準に以下の観点を加えたいものです。

・包装資材のバリア性証明データの提示
・工程ごとの管理記録(トレーサビリティデータ)の提出
・抜き打ち検査/モニタリング体制の有無
・事故時の再発防止プロセスの整備状況

このような基準を設けることで、コスト重視だけでは拾えない「現場力」の見える化につながります。

まとめ:香りと品質のトータルマネジメントを目指して

ペットフードの香りを長く守り、鮮度や食感を保ち続けるには、脱酸素包装と水分管理が両輪となります。
現場ではアナログな慣習が根強いものの、デジタル技術やサプライチェーン管理の最適化によって、新しい時代の品質保証が実現しつつあります。

メーカー・バイヤー・サプライヤー、それぞれの立場で「現場を見える化」し、競争力強化・ブランド価値向上につなげていきましょう。
これからも、業界全体の底上げを目指して知恵と工夫をシェアしていきたいと思います。

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