投稿日:2025年8月26日

貨物積み替え時の破損リスクを下げるパレット・ラッシング設計

はじめに:製造業を支えるパレット・ラッシングの重要性

製造業の現場において、物流効率の向上は常に追求されてきたテーマです。

さまざまな部品や完成品が国内外の工場や拠点を頻繁に行き来するなかで、「貨物の破損」は大きな課題となっています。

昭和から続くオールドファッションな現場でも、最新の自動化工場でも、貨物の積み替え時に発生する破損リスクは決して無視できません。

この記事では、現場で培ったリアルな課題感と現実的な対策に着目しながら、パレット・ラッシングの設計ポイントについて深掘りします。

バイヤーだけではなく、サプライヤーや物流担当者の皆さんにも役立つ視点をお伝えします。

なぜ貨物積み替え時に破損事故が起こるのか

現場で起こる“あるある”なトラブル

貨物積み替え時の破損は、「運ぶ側の不注意」の一言で片付けるにはあまりにも多くの要因が絡んでいます。

たとえば以下のような現場の“あるある”は、どの工場や倉庫でも見受けられます。

・クレーンやフォークリフトの爪がパレットを貫通させてしまう
・積み替え時の衝撃で荷崩れが発生し、箱が破損する
・ラッシング(固縛)が甘く、トラック走行中に荷物がズレる
・異なるサイズ、質量の貨物同士が直接ぶつかり合い損傷

貨物積み替え時には、短時間で作業を終えるための「焦り」や、多様な作業者による「スキル差」もかなり影響しています。

物流プロセスの進化と変わらない課題

近年、AIやIoTによる物流自動化が急速に進みました。

とはいえ、ピッキング作業や積み替え作業には依然としてヒューマンエラーがつきものです。

また、グローバル調達の拡大で、貨物は複数回もの積み替えを経て、時に過酷な輸送環境を強いられています。

昭和の工場で使われていた木製パレットから最新素材のプラスチックパレットへの移行など、イノベーションは起こっているものの、「積み方」「締め方」という本質的な問題解決には至っていません。

パレット設計:破損リスクを抑えるための工夫

パレットの種類と現場の“最適解”

パレットには木製、プラスチック製、スチール製、紙パレットなど、さまざまな種類があります。

それぞれの特性を活かしつつ、現場でよく起こる失敗と照らし合わせてみます。

・木製パレット:コストは安いが、割れ・ささくれによる荷物や作業者へのダメージリスク
・プラスチックパレット:軽量で清潔だが、滑りやすくラッシングが緩みやすい弱点
・スチールパレット:高強度だが運搬コスト・価格面のハードル
・紙パレット:軽量・リサイクル性が高いが、湿度に弱く強度が不安定

それぞれ「現場の使いやすさ」「貨物内容」「輸送距離」「費用対効果」をバランスすることが大切です。

特定の工場でだけ使われる“専用型”ではなく、多拠点展開や他社との混載輸送にも適応できる“標準化”を意識した設計が求められます。

ゲンバ発、効果の出るパレット設計7つのポイント

1. 耐荷重に余裕を持たせる:割れやたわみに強い構造設計
2. 四隅・側面の補強:クレーンやフォークリフトの爪で損傷しにくいガード成型
3. 滑り止め機能:パレット表面の滑り・ズレを防止(表面処理・テープ等)
4. 異形貨物対応:突起部の専用溝や固定枠の設計
5. トレーサビリティ:ICタグやQRコードの埋め込み
6. リサイクル観点:材料特性と運用オペレーション(現場回収のしやすさ等)の両立
7. メンテナンス性:現場での修理・再利用の容易さ

こうしたポイントを現場の声とともに設計へ織り込むことが、積み替え時の破損リスクを確実に減らします。

ラッシング技術:破損を防ぐ「縛り方」の知恵

昭和から続く“伝統”と最新技術

荷締め(ラッシング)は、パレット設計と同じくらい現場で重視される破損防止テクニックです。

ラッシングバンド(結束バンドやPPバンド、スチールバンド)、ストレッチフィルム、コーナーガード、緩衝材といった資材をどう組み合わせ、どう締め付けるか。

昔ながらの職人技から最新の自動ラッシング設備まで、手段は多様です。

一方で「とにかく強く縛っておけばいい」と乱暴に作業すれば、荷物の変形や外装破損を招きかねません。

現場で効くラッシング設計5つの極意

1. 貨物同士の“隙間”を妥協しない:パレット上で1cmの隙間も荷崩れの原因。異方性の緩衝材で密着固定。
2. 締め付けトルクの“見える化”:誰が締めても一定品質になるよう、トルク管理やバンド締め機の設定を統一。
3. 固定位置の“標準化”:貨物のサイズ違いに対応したパレット上のラッシングポイント設計。
4. 荷重分散の“工夫”:コーナーガードや中間プレートで一点荷重を防ぎ、荷物変形を抑制。
5. 作業手順書と現場教育の徹底:写真や動画でベストプラクティスを共有、“アンラーニング”の文化醸成。

これらを徹底することで、アナログ現場でも“たまたまの失敗”が激減し、大きな物流コスト削減へつながります。

パレット・ラッシング改善の現場フロー:バイヤー・サプライヤー連携がカギ

現場の気付きが新しい改善サイクルを生む

多くの工場では、「一度決めたパレット仕様」「昔から使われているラッシング法」をそのまま使い続けている現実があります。

輸送中の破損が出たとき「運送会社のせい」にしていませんか。

調達・生産管理・品質管理・物流管理……部門横断で情報共有し、
「どの現場で、どんな破損が、なぜ発生したか」
を正確に分析することが大切です。

失敗事例を隠さず共有する社風こそ、強い現場を作る第一歩です。

最新バイヤー像:サプライヤーと一体化した共創型へ

これからのバイヤーは、“買って終わり”ではありません。

・サプライヤーと共に現場を見つめ
・課題を深掘りし
・改善スピードを共に競い合う

そんな「現場密着型のバイヤー」であることが、結果的に品質リスクの削減と調達コスト抑制の両立につながります。

サプライヤー側も「エビデンス提示型」の営業・技術提案が主流。

「うちのパレットはコスト安です」ではなく、「こういった現場リスクをこう防ぎました」と具体的に語る力が問われているのです。

サプライヤー視点で考える提案力とは

サプライヤーの立場から見て、バイヤーの現場課題・調達意図を正確にくみ取り、以下のような提案を心がけましょう。

・実物サンプルによる現場検証・評価
・動画・DXを使った使用イメージの可視化
・過去の破損分析例と、それを織り込んだ設計
・物流費(リターナブルパレット・梱包作業工数等)のトータル削減案
これらを積み重ねることが「選ばれるサプライヤー」への道です。

アナログ業界も進化する!今こそ現場DXを推進しよう

デジタル現場見える化とトラブル削減の関係

最新の製造現場では、RFID・IoTセンサーで「積載重量」「固定状態」「温湿度」「衝撃ログ」などをリアルタイムにモニタリングできます。

万一の破損トラブルは、積み替え時刻や作業者、作業環境と結びつけて迅速にフィードバックされます。

これにより、「いつ、どこで、なぜ壊れたか」を感覚や勘に頼らず再現性を持って改善できます。

昭和から令和への三段階ステップアップ

1. 現場のルールを見直す(見える化・標準化)
2. パレット・ラッシング選定・設計を多角的に進化させる
3. DX(IoTや動画マニュアルなど)を段階的に導入する

こうした流れを着実に進めることで、古い慣習に縛られた“昭和のままの物流現場”から抜け出し、顧客満足を最大化する製造業現場へ進化できます。

まとめ:現場力と設計力の融合で未来の破損ゼロ工場へ

貨物破損リスクは、「古い現場の課題」と思いきや、自動化やDXが進んだ今も、必ずどこかで発生する普遍的なテーマです。

パレット・ラッシングの設計を、本気で“作業現場主導”で磨き上げることで、
・コスト競争
・品質向上
・顧客満足の最大化
すべてをバランス良く実現することが可能です。

現場担当者、バイヤー、サプライヤー、すべての関係者が「破損ゼロ」を本気で目指し、課題を共有・可視化・標準化し、変革のうねりを広げていきましょう。

製造業の進化は、現場の智慧と勇気から始まります。

あなた自身の現場でも、今日からできるパレット・ラッシング改善のヒントがきっと見つかるはずです。

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