投稿日:2025年10月9日

カレンダーの印刷ズレを防ぐ用紙伸縮率と温湿度管理

はじめに – カレンダー印刷における「ズレ」の真実

カレンダー印刷現場では、日付や罫線、写真やイラストのデザインが微妙にずれてしまう「印刷ズレ」が大きな問題となります。

特にカレンダーは1ミリのズレでも違和感が顕著に現れるため、品質要求が高い製品です。

実はこの印刷ズレの大きな要因のひとつが「用紙の伸縮」と「工場内の温湿度管理」に関係していることをご存知でしょうか。

本記事では、超アナログな業界ながらも見過ごせない”現場のリアル”を、長年の製造現場経験と調達サイドの目線も交えて解説します。

バイヤー志望者やサプライヤーの皆さんも、「なぜ印刷品質が安定しないのか」「何に注意すべきか」という視点でお役立てください。

カレンダー印刷でズレが起きるメカニズム

用紙が”生き物”である理由

製紙されたばかりの用紙は水分を多く含んでいます。

この状態から印刷工場や倉庫に送られる過程で用紙は空気中の水分を吸ったり吐いたりし続けます。

そして工場の環境によって収縮や膨張を繰り返します。

ちなみに、上質紙の標準的な伸縮率は1%前後。

A3サイズ(420mm)の場合、なんと4mm以上も伸び縮みするリスクがあります。

この4mmの違いが印刷や断裁のズレとして現れ、時にはクレームの原因となるのです。

用紙の種類とその違い

コート紙や上質紙など、紙種によっても伸縮率や吸湿・放湿特性は大きく異なります。

コート紙は表面が樹脂でコートされているため水分変化に比較的強いですが、上質紙やマット紙は環境の変化がそのまま寸法変化として現れます。

また、同じ製紙メーカー・銘柄でもロットごとの差があるため、仕入れ段階でサプライヤーとよく協議し、過去データや品質保証値を確認しておくことが重要です。

温湿度管理が及ぼす影響

工場設備と労務環境の”昭和的ギャップ”

多くの印刷工場は、昭和時代からの建物や空調設備をリフォームしながら使い続けているのが実状です。

冬季・夏季の温度ムラや、エリアごとの空調管理のバラつきが「見えない問題」として品質に影響します。

カレンダー印刷の場合、数千~数万部を連続生産するため、ロットの最初と最後で紙の寸法に差が生じることも少なくありません。

本来は恒温恒湿がベストですが、現場では「床付近は寒くて湿度も低い」「天井近くは熱がこもる」などの局所差が出ます。

工場長や現場リーダーは、印刷機や紙の保管エリアごとに温度・湿度計を設置し、傾向を数値で把握しておくことが欠かせません。

段取り×標準化がカギとなる

用紙を工場内に搬入後、すぐ印刷にかけるのは極めてリスキーです。

適正な時間、工場内の空気に「馴染ませる」ことで紙の伸縮変化を安定させます。

この工程を段取り作業として標準化し、入荷から印刷までの「紙の養生」時間(例えば24時間放置→計測)を必ず守ることが、高品質カレンダー印刷の生命線となります。

品質管理と工程改善 – デジタル導入の第一歩

紙の寸法測定を科学する

従来はサンプル紙を巻き尺でランダム計測していましたが、今では非接触型のデジタルマイクロメータやレーザー測定器も活用できます。

寸法変動データを蓄積し、温湿度状況と紐づけて管理することで「どの条件でズレが起きやすいか」分析が可能です。

これにより、過去実績から最適な工程パラメータを設定でき、ヒューマンエラーによるリスクも低減します。

調達バイヤーが押さえておくべきポイント

調達・購買サイドから見れば、同じスペックでも「どのサプライヤー・ロットが安定製品か」を見極める目利きが求められます。

仕入れ先候補への見積依頼時、「標準紙水分率」「過去の伸縮実績・±許容」を具体的にヒアリングし、トレーサビリティが明確な仕入先を選びましょう。

また、サンプル紙の段階で自社の工場環境(季節変化を再現した温湿度試験)で検証することは、現場目線の重要なリスクヘッジです。

「昭和体質からの卒業」へ向けたアクション

アナログから一歩進んだ現場改革

紙の伸縮・温湿度管理は目に見えないため「こだわるのは面倒」「仕方ない」とされがちです。

しかし、顧客志向の観点からも、バイヤーそして生産管理部門としても、”見過ごせない品質の根本要因”であることは間違いありません。

例えば以下のような小さな改善も、積み重なれば大きな品質向上につながります。

・温湿度データログ管理のデジタル化
・工場備品として紙専用の除湿・加湿装置を導入
・作業前の紙厚・寸法測定の標準運用化

昭和時代の「職人勘」からの脱皮に成功した現場は、必ず顧客からの信頼やリピート受注を勝ち取ることができます。

サプライヤー・バイヤーの相互理解が“無駄のない品質”を生み出す

紙の伸縮・温湿度管理はサプライヤー任せでも、現場任せでも回りません。

双方の情報共有および現場実力の見える化があってこそ、ロスやクレームを防止できます。

バイヤーは「なぜそれが起きるのか」「サプライヤーはどの工程でリスクを拾っているのか」を現場視点で理解し、技術的根拠を突き詰めて発注仕様を見直すべきです。

サプライヤーとしても「うちの紙は安定」「今まで問題ない」と過信せず、現実の数値・データを積極的にバイヤーと共有しと良い関係を築きましょう。

まとめ – 印刷ズレを未然に防ぐためにできること

カレンダー印刷のズレは、”紙”と“温湿度”という見えない要因から生まれています。

これは目に見えない分、アナログな現場対応や属人的ノウハウに頼りがちな分野です。

しかし、今こそ“ラテラルシンキング”で現場の慣習を疑い、数値管理・データ活用することが時代の流れです。

バイヤーもサプライヤーも、現場担当者も、共通の品質目標を持ってPDCAを回すことで、ズレのない高品質カレンダーが生まれます。

是非、紙の伸縮・温湿度管理を「面倒な脇役」ではなく「製造の主役」と捉え、無駄のない品質向上を現場から実現していきましょう。

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