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ティッシュペーパーの柔らかさを作る抄紙工程とパルプ選定

目次
はじめに:ティッシュペーパーの「柔らかさ」はどのように生まれるのか
ティッシュペーパーは、日常生活に欠かせない存在です。
「肌触りが良い」「やわらかい」「なめらか」など、消費者が求める特徴は一言で「柔らかさ」に集約されます。
しかし、その「柔らかさ」を生み出す背景には、原材料の選定から抄紙工程に至るまで、数多くの製造技術と現場のノウハウが詰まっています。
この記事では、製造業で培った現場目線から、ティッシュペーパーの柔らかさを決定づけるパルプ選定のポイントや抄紙工程の工夫、さらに昨今の業界課題や新たな動向についても深掘りしていきます。
ティッシュペーパーの原材料:柔らかさはパルプ選びから始まる
パルプとは何か?種類ごとの特徴
ティッシュペーパーの主原料は「パルプ」です。
パルプには大きく分けて、化学パルプと機械パルプの2種類があります。
化学パルプにはさらに針葉樹パルプ(NBKP: 針葉樹クラフトパルプ)と広葉樹パルプ(LBKP: 広葉樹クラフトパルプ)があり、それぞれ特性が異なります。
- 針葉樹パルプ:繊維が長く、強度に優れる。紙にしたときにしなやかさやコシが生まれやすい。
- 広葉樹パルプ:繊維が短く、柔らかさや滑らかさを出しやすい。肌ざわり重視の製品に適している。
- 機械パルプ:漂白されていないものが多く、安価だが紙の強度や柔軟さで劣る。
多くの高級ティッシュペーパーには、広葉樹パルプが高い比率で採用されています。
ただ、コストや紙の強さを両立するために、針葉樹パルプとのブレンドが一般的です。
パルプ調達の実際:調達担当者の視点
現場でパルプを調達する際は、単に原料の価格や供給安定性だけでなく、最終製品で求める柔らかさや肌ざわりとのバランスを常に考慮します。
メーカーごとに「うちの柔らかさ」のベンチマークがあり、現場の調達担当者は、原料サンプルの手触りや試作テストを繰り返しながら、最適なパルプ比率を決めています。
海外産、特に南米や北欧の広葉樹パルプは高級感や滑らかさが出やすい一方、価格が安定しないのが課題です。
コスト削減ばかりを追求しない、品質最優先の調達姿勢がブランド力の維持、ひいては消費者に選ばれる柔らかさの源泉となるのです。
抄紙工程:柔らかさを生むプロセスの肝
抄紙の基本フロー
抄紙工場では、原料パルプを水と混ぜてスラリー(紙料)とし、ワイヤー(網)の上に広げて水分を抜くことで紙を成形します。
ティッシュペーパーは、この後の工程で「クレープ加工」など独自の技術が用いられ、独特のふんわり感や柔らかさを生み出します。
柔らかさを左右する“クレープ工程”
クレープ工程では、まだ水分を含んだ薄い紙を回転するドクターブレードでシリンダーから「削ぎ落とす」ことで、表面に“シワ”をつくります。
このクレープシワが多いほど、ペーパーが膨らんだ構造となり、柔らかく感じます。
ドクターブレードの角度や圧力、シリンダー温度など、現場の微調整が“手触り”に直結するため、オペレーターの熟練ノウハウが重要な工程です。
抄紙速度と品質維持の難しさ
製造現場では「速度を上げて1分でも多く生産量を確保したい」というプレッシャーがあります。
ですが、抄紙速度が速すぎると繊維がきれいに絡まず、シワが失われたり、紙が薄くなったりして柔らかさが損なわれます。
ここで効いてくるのは、現場のラインオペレーターや生産管理者の“調整力”です。
機械任せでは出せない絶妙なセットアップ技能。
生産現場ならではの「昭和的な職人芸」こそが、品質を支えてきました。
近年の工場自動化とのバランス
近年はAIやIoT活用で製造ラインのデータ収集・自動調整も進んでいます。
しかし、こと「紙のやわらかさ」や「手触り」といった感覚的な品質は、人間のチェックやノウハウが依然として不可欠です。
自動化と職人技の融合が、競争力の維持につながります。
現場目線での品質管理:見えない価値を可視化する取り組み
測定できる“やわらかさ”と、できない“感触”
品質管理では「ガーゼ法」などを用いて紙の柔らかさを物理的に定量化します。
しかし、実際の現場では「測定値と消費者の感じ方がズレる」ことも多々あります。
定量データに現場担当者の官能検査も加えることで、製品開発と品質維持の両立を図っています。
品質の“標準化” VS “差別化”
企業によっては、官能試験のプロパネリスト(感覚検査員)を専任で配置。
またサプライチェーン全体で、パルプに由来する季節変動やロット差を最小限に抑えるため、原料管理や試作レベルでの受入検査も徹底しています。
こうした「見えない価値」に対し、現場では膨大なトライアルや微調整、独自のチェックリストを築き上げてきました。
業界動向と今後の課題:「昭和」からの脱却と新たな地平線
SDGs・エシカル消費による新ニーズ
近年、パルプ調達でもFSC認証材などの環境配慮型原料が強く求められています。
ソフトとエコ、両立のための新素材開発や抄紙工場での省エネ化も進行中です。
バイヤーの立場で大きなテーマとなるのが「コストとサステナビリティの両立」。
サプライヤーには、トレーサビリティの開示能力も問われる時代となりつつあります。
デジタル化・AI活用の最前線
IoTシステムによる品質データの可視化、AI画像解析での不良検知、レシピ管理の最適化が注目されています。
しかし前項で触れた通り、“やわらかさ”という曖昧な価値は数値管理だけでは評価しきれません。
機械と人、デジタルとアナログをどこまで融合できるかが、これからの現場力に直結します。
サプライヤーとバイヤーの思考の違い、勝ち抜くためのコミュニケーション
バイヤーは「コスト維持」「品質保証」「トラブルリスク回避」に日々神経を尖らせています。
サプライヤーは「価格交渉」「品質提案」「納期対応」でバイヤーを納得させなければなりません。
勝ち続けるサプライヤーは、単なる“原料供給”にとどまらず、「柔らかさづくりのパートナー」として現場課題を共有し、製品づくりに巻き込む力を持っています。
現場目線の提案力、その裏付けとなる現場データや改善事例のストックが、バイヤーとの信頼関係を築きます。
まとめ:「柔らかさ」は技術と現場力の結晶
ティッシュペーパーの柔らかさは、パルプ選定から抄紙工程、品質管理、現場の調整力、サプライチェーン全体の連携、そして“現場で感じる価値”の積み重ねによって生まれます。
見える部分と見えない部分、デジタルとアナログ、論理と感性。
その両輪があってこそ、日々進化する「やわらかさ」が生み出されるのです。
今後は環境配慮やデジタル融合など新たな課題にも積極的に対応しつつ、現場に根差した品質づくりの姿勢を貫くことこそが、これからのものづくりに携わる全ての人に求められる使命ではないでしょうか。
製造業の現場で培った経験や知見を次世代に伝え、皆さまの現場改善やキャリアアップに少しでも役立てば幸いです。
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