兼任担当が密かに感じる転職への迷い

兼任担当が密かに感じる転職への迷い

製造業現場で増え続ける「兼任担当」

製造業において、近年とりわけ現場で増えているのが「兼任担当」の存在です。

従来は、調達購買はバイヤー、生産管理は生管、品質管理は品証と、それぞれの専門職が明確に分かれていました。

しかし、バブル崩壊を経て、リーマンショックやコロナ禍、そして急速な人手不足・高齢化の波が押し寄せる中、現場では「人が足りない」「専門を越えて複数業務を任せたい」という企業側の意向が強まりつつあります。

中小製造業だけでなく、大手メーカーの本社や工場でも、「購買も生産管理も」「品質管理も兼任で」——そんな無理難題が増えています。

たとえば、購買担当が発注仕事だけでなく、納期管理、部材受け取り、現場との調整、果ては棚卸や工程表の作成なども巻き取っていく。

製造工程そのものの理解も深めざるを得ず、多能工化の流れとも重なる重要な人材として重宝されるのです。

多能工化の潮流、その裏で増える「辞めたい」の声

多能工化やダブルトリプルロールは、経営側から見れば効率化の象徴でもあります。

正社員数を増やさず、1人が複数分野をカバーできることで、人手不足の解消やコストカットに繋がるのは明白です。

しかし、その反面で、現場担当者の負担増やストレスの蓄積は深刻になっています。

元々は購買一筋だったが、気が付けば納期調整や現場との板挟み、営業とも密に連携……。

専門外のトラブルにも巻き込まれ、気が付けば1日10時間以上PCと電話に張り付いているという声も多くあります。

「自分の得意分野を活かそうと入社したのに、なぜか何でも屋になっている……。」

そのような悩みを持つ兼任担当者が、ひそかに転職を考え始めるのは当然といえます。

なぜ「転職への迷い」が生まれるのか?

そうした兼任担当者が、転職を迷う理由はいくつもあります。

まず第一に、現場の経験と知識が他社や他業種でどのように評価されるか、分からないことです。

たとえば、大手メーカーの購買と調整、品質管理までやった実績があるが、それが専門職としてのキャリアアップにつながるのか。

あるいは、「結局すべて中途半端になっているのでは」と不安に感じる人も多くいます。

また、日本の製造業独特の「古き良き昭和スタイル」が根強く残っている現場では、「長く同じ会社にいること」が評価される文化もまだ強く、転職が善しとされない空気もあります。

加えて、目まぐるしい日々の業務に追われる中、「今さら新しい環境に飛び込んでやり直す勇気が持てない」と感じるケースも少なくありません。

バイヤー・サプライヤーの視点で見える「隠れた強み」

しかし、こうした兼任担当の経験こそ、実はメーカーのバイヤーとして、またサプライヤーの営業職として大きな価値を持ちます。

一つの業務しか分からない人材よりも、購買から生産管理、品質管理を通して、部品がどのように流れ、何が滞りやすいか、現場が求める理想と経営の落とし所がどこか――こうした現場「内側」のリアルを理解している人材は、間違いなく重宝される時代になってきています。

実際、調達購買と現場をまたぐ「プロセス全体」の知見は、海外調達の加速やローカル化・脱炭素対応、サプライチェーン全体の透明化といった課題に不可欠です。

また、営業・サプライヤー側から見ても、バイヤーが何を重視して、どこに悩みを持っているかを察することができれば、商談先や交渉力で大きな差がつきます。

現場目線で未来のキャリアを描く方法

転職にためらう最大の理由は、「自分を客観視できていない」ことです。

製造業で兼任をこなし、日々の業務で忙殺されながら、実は市販のプロジェクトマネジメント能力や調整力、交渉・折衝力も大いに身に付きます。

調達購買・生産管理・品質管理というワードで検索すれば、今や多くの大手企業が求人を出しています。

過去の「長く一つの会社」という昭和的価値観も、今や大きく変わってきています。

ひとつアドバイスするなら、現役中にしか得られない「現場の声」や知見を、五感でしっかり体験的に蓄積してください。

たとえば、部品が現場に届くのが遅れた本当の理由、工程表通りに進まない時の現場の動き、品質課題が生じた際の上流・下流の連携プレー——これらの経験は他社や海外の製造現場でも求められる普遍的スキルです。

今後求められる「越境スキル」とその伸ばし方

AIやIoT、工場の自動化といったキーワードが飛び交いつつも、製造業の現場は未だ根強くアナログ的です。

紙伝票、FAX、現場内での口頭連絡、クセの強いExcel管理——こうしたものが駆逐しきれないのは、業務プロセスが複雑すぎて、一足飛びで全自動化するのが難しいからです。

ここで必要となるのは、現場で起こる様々な問題に柔軟に対応できる「越境スキル」です。

部門をまたぎ、プロジェクトを横断し、各ステークホルダーの意見をまとめ上げる力こそ、今後の製造業に不可欠です。

自分の業務にプラスして、他部門の勉強を自主的に行う、現場作業員やサプライヤー、顧客との対話を増やすなど、自分なりの「越境経験」を積むことが、将来的な武器となります。

転職がゴールではない、自分への「問いかけ」が大切

ここまで読んで、「じゃあさっさと転職した方がいいのか」というと、必ずしもそうではありません。

本質的に大切なのは、「自分が仕事のどの瞬間にやりがいを感じたか」「どの役割を最も楽しめたか」をしっかり振り返ることです。

また今の職場で、周囲に相談できる相手はいるか、新しい仕事を任される時、納得できる理由や成長につなげられる場面があったか——こうした振り返りを経て、「ここでの経験をもっと活かせる場所はないか?」という能動的な問いかけをしてみてください。

もし今の職場で限界を感じ、新たな環境に価値が見出せるのであれば、転職も立派なキャリアアップ戦略です。

一方、今の職場で新たな役割を担いながら、自分の「価値」や「強み」を増やす道も同じく有効です。

まとめ：兼任担当の経験こそ、未来の武器になる

多くの製造業の現場で生まれた、流動的な”兼任担当”という働き方。

決して楽ではありませんが、時代が求める「変化への適応力」をリアルタイムで培える、言わば「最前線の経験」です。

転職への迷いは、誰もが感じるものです。

ですが、兼任で得た幅広い知見と現場起点の問題解決力は、間違いなく今後の製造業界でも通用する「自分だけの武器」になります。

自信を持って「自分のストーリー」を描き、あなたなりのキャリアをぜひ切り拓いてください。