投稿日:2025年9月26日

ワンマン経営で社員が受け身になり改善が進まない問題

ワンマン経営が招く製造業の停滞 ──現場で目撃した課題の本質

日本の製造業は、長年にわたり「現場力」と呼ばれる現場主導の生産・品質改善を武器に発展してきました。
しかし、実際の現場では、ワンマン経営者の意思が絶対となり、社員が受け身になってしまっている会社も少なくありません。
この構造的な問題は、表面化しないまま改善活動やイノベーションを妨げ、企業の競争力低下を招いています。

私は20年以上にわたり、調達購買、工場管理、生産管理、品質管理、工場全体の運営という幅広い経験を積んできました。
本記事では、実際の製造業の現場目線で、ワンマン経営がもたらす弊害と、その打開策について深く掘り下げます。
バイヤー志望の方、サプライヤーとして現場のバイヤー心理を理解したい方にも役立つ内容を意識しています。

なぜワンマン経営は改善を阻害するのか

トップダウンの決定が全てを支配する構図

昭和時代から続く多くの製造業では、「社長の一言が絶対」という文化が色濃く残っています。
経営層のビジョンが現場にうまく流通し、社員が腹落ちしていれば問題ありません。
しかし、現実にはトップが現場理解なく意見を押し通したり、現場の声を聞かずに方針転換するケースが後を絶ちません。

このようなトップダウン一辺倒の経営だと、社員は「どうせ決められる」「自己判断はしない方が得」という心理に陥ります。
自分の意見を言っても意味がないため、積極的に改善提案や挑戦的な行動を取ろうとしません。

日本特有の“忖度”文化が助長する受身

日本企業は「空気を読む」「出る杭は打たれる」といった文化が根強くあります。
現場やスタッフが、経営トップの意向に沿った行動を取ることだけを重視する傾向になりやすいのです。
ワンマン経営のもとでは、社員同士で「上の顔色を伺いながら」動くのが常態化しがちです。

こうした環境では、実際の現場で起きている課題や顧客クレーム、工程の改善余地などが上層部まで上がってきません。
結果として、PDCAの「Do(やるだけ)」「Check(形式的な点検)」にとどまり、改善(Action)に結び付かなくなります。

現場に根付いたアナログ文化とその影響

Excel・紙・FAXが主役の“昭和的オペレーション”

デジタル化やIT導入が進められても、実際の工場事務所や現場では、手書きの日報・FAXによる発注、Excel台帳管理がまだまだ主流という企業も多いです。
その理由のひとつに、「上が決めたシステムを使うしかない」「現場に合っていなくても誰も異論を唱えない」という受け身姿勢があります。

現場スタッフが自己判断でPDCAを回せば、「もっといい方法がある」と声をあげることもできます。
しかし、ワンマン経営下では「言わぬが勝ち」となり、非効率な業務が継承され続け、慢性的な残業や人的ミスを招いてしまうのです。

属人化・暗黙知偏重によるリスク

昭和的な現場では「○○係長しか分からない」「その道30年のベテランだけが把握している」など、個人の経験と勘に頼る仕事ぶりが横行しています。
この土壌にワンマン経営が重なると、改善案の共有も個人技に終始し、ナレッジが組織全体に蓄積されません。
昨今話題となっている“2025年の崖”=ベテラン退職による事業継承リスクが大きく突出してしまいます。

サプライヤーやバイヤーが直面する「受け身体質」の実害

交渉・改善案件での“不発”が多発

サプライヤー(仕入先)はバイヤー(購買担当)との打ち合わせで「何か問題点はありませんか?」と問いかけても、「特にありません」と受け流されることが実に多いです。
その背後には、「バイヤー自身が自分の頭で考える経験が乏しい」「トップが全て決めるため、少しでも意見すると“越権行為”として責められる」という事情があります。

このような受け身体質の組織では、品質問題やコストアップ要因を掘り起こして一緒に改善する“共創”がスタートしません。
ひいてはパートナーシップが形式的なものに留まり、グローバル競争のなかで成長機会を逸してしまうのです。

コストダウン提案を生かせない構造的課題

「もっと調達コストを下げてほしい」
「パーツの標準化が進まない」
「要望は伝えているが、現場で反応が薄い」
こういった悩みはバイヤーとサプライヤーの現場で日常的に聞かれます。

実は裏側では、現場スタッフが“言われた通りのことしかしない”“リスクを取って新しいことには挑戦しない”“耳心地の良い答えを返して安泰を選ぶ”といった心理が働いています。
成果主義やグローバル展開を謳っていても、この土台が変わらなければ「変化できない会社」と烙印を押されてしまうのです。

打開策――現場主義と自発型組織へのシフト

対話主導の“ボトムアップ”型マネジメントへの転換

私自身、工場長などのマネジメント職経験から最も痛感したのは「現場を信じて任せることの重要性」です。
大切なのは「上意下達」ではなく、現場・バイヤー・サプライヤーが一体となって課題を見つけ、仮説→検証→改善を自律的に回すことです。

現場スタッフや調達バイヤー、エンジニアに「あなたがどう考えるか」「どんな問題意識があるか」を問い続ける。
小さな提案や疑問を吸い上げるためのミーティング、1on1面談を定期的に持つことで、徐々に“発言することが価値”である空気が生まれます。

意識変革を促す仕組み作り

例えば、改善提案を奨励するためのインセンティブ制度や、失敗事例も含めたナレッジ全体共有の場作りなどです。
「結果が出なかった提案」も失敗ではなく現場力の一部とする評価軸を設けることで、受け身から能動へと社員の行動が変わってきます。

また、アナログ業務を残しつつも、誰もが現場ナレッジを共有・参照できるデジタル化基盤を整備することで、属人化や「知らないままで済ませる文化」を根本から見直すことも不可欠です。

「ワンマン」から「チーム経営」への進化──変革のための現場目線

企業の成熟度が進み事業規模が大きくなるほど、経営トップのカリスマ性やリーダーシップは必要条件ではなく、十分条件のひとつに過ぎなくなります。
むしろ、複雑化する調達購買やサプライチェーン、生産現場で発生する問題に最前線で向き合うのは現場のスタッフや一次バイヤーの存在です。

“昭和的ワンマン経営”のままでは、現場知や改善文化が組織の財産にならず、VUCA時代の変化に耐えうる企業体質も身につきません。
だからこそ、経営者・工場長・バイヤー・サプライヤー、そして現場作業者までがフラットに課題を語り合い、自発的に動く組織デザインが今ほど求められている時代はありません。

まとめ──現場力で「進化」する組織へ

ワンマン経営によって社員が受け身になり、改善が進まない――。
この課題は表面化しづらいものの、日本の製造業に潜在的に深く根を張ってきた構造問題です。

バイヤーやサプライヤーを目指す方にとっても、単なる価格交渉や品質管理だけでなく、「現場が自発的に動き出す仕組みづくり」に視野を広げることが重要です。
現場目線とラテラルシンキングを融合し、粘り強く組織変革を進めることこそが、次世代の製造業における最強の競争力となるのです。

今こそワンマン経営から脱却し、誰もが自ら考えて改善を進める、強い現場と組織を築いていきましょう。

You cannot copy content of this page