投稿日:2025年12月4日

“とりあえず過去品ベース”が新製品の魅力を削ぐ現場文化

製造業の“とりあえず過去品ベース” 文化とは何か

製造現場で新製品の開発に携わると、多くの方が「とりあえず過去品をベースに設計を始めよう」という言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか。

この“過去品ベース”というアプローチは、長らく日本の製造業界にとって常套手段でした。

確かに、ゼロから新しいものを生み出すには膨大な労力とリスクがつきまといます。
しかし、安易に過去品をベースにしてしまうことで、製品が本来持ち得る魅力や革新性が失われてしまう現象が多発しています。

ここでは、その原因を現場目線で深く考察し、今求められる発想と行動について解説したいと思います。

なぜ“とりあえず過去品ベース”が定着したのか

1. 大量生産時代の成功体験の名残

日本の製造業は、高度経済成長期に大量生産体制を構築し、世界で大きな成功を収めました。

この流れの中で、標準化・効率化のために「前例踏襲」という発想が広まりました。

似たような製品を繰り返し量産する中では、過去品の図面や部品リストを流用することは、リスク低減、納期短縮、コストダウンなど多くのメリットがありました。

2. マニュアル文化・暗黙知の連鎖

また、日本のものづくり現場では「匠の技術」や「マニュアルの徹底」といった文化も根強く存在します。

新しいことに挑戦するよりも、先輩や前任者が作ったもの・やり方に従うことが“安全策”として受け継がれてきました。

その結果、「過去品ベース」はルール化され、現場の日常と化してしまいました。

“過去品ベース設計”が招く弊害

1. 真の顧客ニーズに応えられない

近年の市場ニーズは、ますます多様化しています。

顧客が本当に求めているのは、過去品を微修正しただけの“新製品”ではなく、明確な価値や体験をもたらすプロダクトです。

しかし、「とりあえず過去品ベースで設計しよう」となった瞬間から、“本当に欲しいものは何か”という発想が抜け落ちてしまいがちです。

2. 技術革新と時流への対応遅れ

AI、自動化、IoT、カーボンニュートラル…製造業を取り巻く技術環境は日々進化しています。

過去の技術や設計を安易に転用するだけでは、新たな技術との融合や最適化が遅れ、競合他社との差別化ができなくなります。

最新の部品、新しい材料、効率的な工程設計など、本来なら積極的にチャレンジすべき要素を、最初の段階で排除してしまうリスクがあります。

3. ブラックボックス化・属人化の温床

「とりあえず過去品」となると、その過去品の詳細を知るベテラン社員や特定メンバーに情報が偏り、ブラックボックス化が進行します。

設計書き換え時のミスや手戻りも多発し、品質トラブルや納期遅延の原因にもなります。

現場に根付く“昭和アナログ文化”の課題

昭和の時代に形成されたアナログな文化は、今もなお多くの現場で色濃く残っています。

たとえば、紙ベースの図面管理、電話やFAXでのやりとり、職人気質に頼った判断…これらが「過去品ベース」と親和性を持ち、変革を難しくしている実態があります。

また、“失敗しないこと”への過剰な意識が新しいチャレンジを抑制するため、過去品からの逸脱に抵抗感が生まれ、イノベーションが起きづらい風土を助長しています。

現場から脱却するためのアクション

では、この文化をどう乗り越えればよいのでしょうか。

バイヤー、サプライヤー、技術者、製造現場の視点を俯瞰しつつ、実践的な行動をいくつか提案します。

1. 顧客要求の“なぜ”を深掘りする

新製品の開発では「機能」「コスト」「納期」「信頼性」といった要求が細かく提示されます。

その一つ一つについて、「なぜその要求があるのか」を問い直し、“真の目的”を明らかにすることが重要です。

これにより、過去品ベースの思考を外れた本質的な設計、価値創造につながりやすくなります。

2. アナログ工程のデジタルシフトをリーダーが主導

図面や仕様書のデジタル管理、ワークフローの電子化、オンライン会議の積極活用など、世の中の“当たり前”を現場にも根付かせましょう。

これにより、設計や調達に関わる情報が部門をまたいで可視化され、過去品ベースの理由や履歴も含めてオープンに議論できる土壌が生まれます。

3. 新しい技術・材料・サプライヤーの活用を推進

従来の取引先や認定品に固執せず、外部へのアンテナを高く張ります。

調達部門と連携し、積極的に新しい部品・材料・加工技術の提案を現場に巻き込んでいきましょう。

サプライヤー側も、「うちの製品は従来品の置き換え」といった売り方に頼るのではなく、「なぜこう設計したいのか」「この製品の導入で何が解決できるか」をストーリーで訴えることが重要です。

4. 実験的プロジェクトを現場内で回す

いきなり全部を変えるのは現場にとって大きな負担です。そこで、10~20%程度のリソースを使い、ごく小さなテーマで“過去品踏襲ではない新規開発”を試してみることが有効です。

その実績が積み重なれば、現場の成功体験となり、文化の転換点になります。

バイヤー・サプライヤー関係の進化

バイヤーの期待を掴むには

過去品ベースを脱却したいのはバイヤーも同じです。

バイヤーの本音としては、「新しいアイデアやコスト低減の提案」「他社との差別化」などをサプライヤーに期待しています。

しかし、現実には「過去品の図面どおりに納品してほしい」としか伝えていない場合も多いです。

そこで、サプライヤーからは逆提案――たとえば「この工程を変えれば納期が短縮できます」「この材料への切替でCO2排出量が削減できます」といった、過去品にとらわれないソリューション型のアプローチが有効です。

サプライヤーがバイヤーの“本心”に寄り添うには

バイヤーの要求の背景には、たとえば「コスト削減」「付加価値提案」「品質トラブルの極小化」など、企業内部でのミッションや課題が必ず存在します。

ただの「スペックどおりに作る」ではなく、「なぜそれが必要なのか」「ほかのやり方もあるのではないか」という“共創”の姿勢にこそ、今後は大きなビジネスチャンスが眠っています。

まとめ:“過去品ベース” 思考の先のものづくりへ

“とりあえず過去品ベース”は、確かにリスクを抑え効率化を実現する手法でした。

しかし、時代は確実に変わっています。

真の顧客ニーズにどこまで応えられるか、新しい価値をどこまで創造できるかが、今やモノづくりの現場に最も強く求められているのです。

バイヤーもサプライヤーも、現場の技術者も、昭和アナログを乗り越える“なぜ”の問いを忘れず、過去品ベースに依存しない新たな発想と仕組みづくりを日常に根付かせていきましょう。

現場から、製造業の地平線は必ず切り拓かれていきます。

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