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スウェットパンツの膝抜けを防ぐためのパターン設計と補強縫製

目次
はじめに
スウェットパンツは快適さと機能性を両立した衣類として、多くの場面で活躍しています。
しかし、スウェットパンツを長く使っていると、膝部分だけが伸びて“膝抜け”が発生し、型崩れや見た目の劣化につながってしまいます。
特にアクティブな現場作業や日常的な着用が多い製造業においては、この膝抜け問題は避けては通れない悩みです。
ここでは、20年以上の製造業経験を踏まえ、現場目線で「なぜ膝抜けが起きるのか?」から最新のパターン設計、具体的な補強縫製まで、アナログ業界に根強い課題を解決するための実践的アプローチを詳しく解説します。
バイヤーやサプライヤーだけではなく、現場で“いいもの”を作りたい方やすでに膝抜け問題を抱えている方にも、役立つ実践的ノウハウを共有します。
なぜスウェットパンツの膝抜けが起きるのか?
膝部分への負荷集中と素材特性
スウェットパンツの膝抜けは、大きく2つの要素が関与しています。
ひとつは、日常動作による膝部分への集中的な力の作用です。
もうひとつは、使用している生地(主に裏毛や裏起毛)の伸縮性や耐久性です。
膝を曲げたり立ち上がったりするたびに、膝の前側の生地は引っ張られて伸び切ります。
この動作を繰り返すことで、膝の繊維が元に戻る力を失い、結果的に「膝が抜けた」状態になるのです。
洗濯によるダメージと形状保持力の低下
スウェットパンツの膝抜けが加速するもうひとつの要因は、繰り返しの洗濯による生地の摩擦と劣化です。
高温での乾燥や過度な脱水、柔軟剤の過剰使用も形状保持力の低下を招きます。
特に製造現場では、汗や油汚れなどで高頻度の洗濯が必要となり、一般家庭よりも早いペースで膝抜けが発生しがちです。
膝抜けを予防するパターン設計のポイント
膝可動域を考慮した立体裁断の活用
膝抜けのリスクを下げるには、パターン設計の段階から膝への負荷分散を意識することが不可欠です。
シンプルな前後の2枚仕立てではなく、膝関節の可動域に合わせてダーツ(タック)やパネル切り替えなど、立体的な裁断を採用することで、伸縮時のストレスを生地全体で受け止められます。
最新の工場自動化技術と連動したCAD(コンピュータ支援設計)を使えば、平均的な体型データに基づき最適なシルエットと動きやすさを高精度で両立することも可能です。
現代の設計現場では「着用者の動きを想定したパターン設計」が膝抜け予防の第一歩となります。
補強パーツ・二重構造の導入
膝部分にあらかじめ生地を2重にする設計や、負荷のかかる部分だけ異素材のパッチ(補強布)を縫製する方法も効果的です。
たとえば、日本の作業着でよく見る“膝当て付きパンツ”や、欧州ワークパンツのような「Cordura」など耐摩耗性布の局所補強は、現場のアクティブな作業でも膝抜け・破れのリスクを大幅に抑えます。
この手法は少しコストがかかりますが、パンツ自体の寿命が格段に延び、トータルコスト削減にもつながるため、長期視点でのバイヤー提案として非常に有効です。
適切な膝位置設計
もうひとつ重要なのは、パターンの段階で膝位置を的確に設計することです。
着用者の平均身長や動き方をふまえ、膝の可動範囲がちょうど補強布や縫い目の上に重なるように調整します。
これにより、動きに伴うヨレや引きつりを最小限に抑えられます。
昭和時代の大量生産パターンでは「とりあえず履ければよい」とされがちでしたが、現代では心地よさと耐久性、両方を追求することが重要です。
補強縫製の実践例とポイント
膝補強の代表的な縫製テクニック
膝抜け対策としてもっとも確実なのは以下の補強縫製です。
1. ダブルステッチ(二重縫い):膝パーツや補強布を二重かつ強い糸で縫うことで、広範囲に応力を分散させます。
2. バーガーステッチ(ジグザグ縫い):膝部分の引っ張りや摩擦に耐えるため、強度の高いジグザグ縫製を導入します。
3. 装飾糸や太番手糸の活用:特にカジュアルウェアなど外観も重視する場合、通常より太い糸を意識的に使い、見た目も強度もアップさせます。
4. ロックミシンによる縁処理:生地端を特殊ミシンで始末し、ほつれや生地のねじれを防ぐことで、膝部分の型崩れリスクを最小限にします。
補強テープやシームテープの現場投入
輸出向け高機能ウェアやユニフォームでは、近年、補強用の専用テープ(布補強・PORONシートなど)や、シームテープ仕上げによって耐久性を極限まで高める例も増えています。
これは国内工場のアナログ現場でも比較的容易に導入できるポイントです。
ちなみに、当方の工場でも試験的に「膝周りだけ裏面に熱圧着テープ」を貼る加工を導入したところ、膝抜けやヒビ割れが3割以上低減する事例が出ています。
サーマルボンディング・超音波縫製の新領域
最新の工場設備では、糸を使用しない「サーマルボンディング」や「超音波縫製」も脚光を浴びています。
これらは従来の縫い目に比べて柔軟で、段差やアタリも出にくいのが特徴です。
大量生産現場や海外工場においてはコストバランスと調達性が課題ですが、日本の品質志向現場でも将来的導入の検討価値は高いといえます。
バイヤー・サプライヤー目線から考える“膝抜け対策”の本質
短期コストか長期トータルコストか
膝抜け対策には、「初期コストは上がるが長期的な耐久性と品質維持でトータルコストを下げる」という発想が重要です。
バイヤーとしては、あらかじめ数年間の使用イメージや交換頻度、補修対応まで見据えて提案先にコストメリットを明確に伝えるスキルが不可欠です。
一方、サプライヤー側からすると「付加価値による他社との差別化」となり、リピートオーダーや品質ブランド化へ直結する柔軟な対応力が求められます。
現場ニーズのヒアリングとユーザー参加型開発
昭和から続くアナログ産業でも、生産現場と開発現場が連携し、実際の作業員の声をヒアリングした現場起点の改良が大きな武器になります。
膝抜けで悩むユーザーのフィードバックを積極的に回収し、設計や縫製現場へ即時フィードバックできる仕組みを持つ企業は、信頼性と競争力の両面で優位に立てます。
DX化やAs Is/To Be業務フローによる現場改善とも親和性の高い取り組みです。
エビデンスと“見える化”で説得力向上
膝抜け対策の有効性は、摩耗試験や引張試験など定量的エビデンスで示すことで、説得力が飛躍的に向上します。
「膝当てパッチ有無で、200回の膝屈伸試験後の伸び率○%減少」
「従来品比較で○ヶ月長持ち」
このような数値や写真付きレポートの提出が、新規受注や顧客満足度アップに直結するコツです。
自社現場ですぐに使える!膝抜け対策アクション
1. 実際に膝抜けで困っているスタッフや現場リーダーの要望を徹底ヒアリングする
2. 膝部分に補強布見本やサンプル縫製を用意し、短期テスト運用する
3. パターン設計時に必ず膝位置と可動域、補強可否をチェックリスト化する
4. 改良後はコスト・耐久性・デザインのバランス感を見る
5. ユーザー参加型開発でフィードバックを素早く取り込む
これらは特別な設備投資をせずに“今すぐできる”対策です。
まとめ:膝抜け対策は現場力と設計力、そして未来を見据えた共創力
スウェットパンツの膝抜け問題は単なる生地や縫製の話ではありません。
設計段階から現場目線で“動きやすさ・強さ・経済性”を掛け合わせた開発が必要不可欠です。
バイヤーとしては、長期コスト削減とブランド価値向上の提案が肝要。
サプライヤーとしてはユーザーの課題解決を提供価値として強みにできます。
アナログな現場でも、今すぐできる小さな工夫と、データやエビデンスを交えた“見える開発”で新しい地平線を切り拓きましょう。
現場で本当に役立つ製品こそ、製造業の未来を支え、顧客にも自社にも持続的な成長をもたらします。
膝抜け対策の最前線を、現場と設計・調達でつなぎ、令和時代のものづくりに貢献していきましょう。
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