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PCBAのDFT/DFM:SPI/AOI/ICT/FCTの検査カバレッジ設計

目次
はじめに:製造業の変革期—PCBAのDFT/DFMの重要性
製造業、特に電子機器組立(PCBA:Printed Circuit Board Assembly)は、今や高度な自動化・高速化を求められる時代を迎えています。
かつては「職人技」や現場の勘で進んでいた生産現場も、品質保証・コスト削減・効率化という大きな波にさらされています。
そのなかで、製品を設計段階から「いかに作りやすく、いかに検査しやすいか」を盛り込むDFM(Design For Manufacturability)/DFT(Design For Testability)の考え方は、もはやグローバルスタンダードです。
本記事では、SPI(はんだ印刷検査)、AOI(自動外観検査)、ICT(インサーキットテスト)、FCT(ファンクションテスト)といった各種検査装置を軸に、実務現場で使える「検査カバレッジ設計」のポイントを、製造業20年以上の経験をもとに現場目線で解説します。
DFT/DFMが生み出すメリット
「作りやすさ」と「検査しやすさ」の両立
日本の製造現場では、設計部門と製造部門が分断されがちで「設計は設計」「生産は生産」となってしまう傾向が根強くあります。
しかし、実際に生産現場で苦労しているのは、設計者がなかなか見えていない“現場の罠”です。
DFT/DFMの思想を初期段階から織り込めば、回路設計者も生産側目線でリスクを読み込み、歩留まりや品質クレーム削減につなげられます。
調達・調達先との協働によるサプライチェーン強化
部品点数や実装密度、検査のしやすさを設計で担保すれば、調達やサプライヤーとのコミュニケーションも円滑です。
昨今の部品不足やサプライチェーン混乱対策にも、DFT/DFMは非常に有効です。
SPI、AOI、ICT、FCT、それぞれの役割と検査カバレッジ
SPI:はんだ印刷検査の要点と設計インパクト
はんだ印刷は、SMT実装ラインの最初の工程になる重要なプロセスです。
毛細血管現象を活かしたはんだ形成やショート、未実装、ブリッジなどの不良を早期に発見するSPIは、不良流出防止の要です。
SPIでカバレッジを最大化するには、パッド設計、はんだペーストの種類・量にも直結します。
設計段階でパッドの形状や間隔、部品配置の規則性を意識することがSPIの有効性を高めます。
AOI:自動外観検査装置の活用と設計上の工夫
AOIは、部品実装工程直後の外観検査を担います。
部品のずれ、逆挿し、極性違い、ハンダ不良、異物混入まで対応できる“万能選手”ですが、部品の高さや陰になる箇所、反射率の違いで死角が出やすいという課題もあります。
現場でありがちなのが、「隣接部品の高さ違いで影ができて判別できない」「部品同士が近すぎてカメラが死角になる」といった問題です。
これを回避するためには、設計段階で部品配置ガイドラインを明確にし、AOI装置の仕様と合致させることが必要です。
ICT:インサーキットテストの設計配慮と限界
ICTは、回路ネット単位で各接点の導通・絶縁・コンポーネント値等を測定する検査です。
治具ベースで高速かつ網羅的に不良箇所を特定できますが、テストポイント(ランド)の配置や部品裏面への配慮が重要です。
ここでの検査カバレッジ向上のカギは
・必要な信号ラインすべてにテストポイントを設ける
・可動プローブの範囲に部品や大型コネクタを配置しない
・電子部品の極性や識別がしやすいランドデザイン
などが挙げられます。
テスト工程で「ここにプローブが届かない」「治具が当たってしまう」というトラブルを避けるには、設計段階からICTの仕様を取り込む必要があります。
ただし、近年の高密度実装基板や小型化製品では、それぞれテストポイントが設けにくくなり、ICTの限界も見え始めています。
従ってDFT/DFMの観点で「どこまでICTカバーが効くか」「残りを後続のFCT等でどう担保するか」の見極めが、現場では重要課題です。
FCT:機能検査でのDFT設計のポイント
FCTは、最終的に製品本来の機能が期待通りに動くかを検証する重要なステップです。
外部通信、センサー出力、電源連動など、実環境に近いテストができる一方、治具側の設計変更やソフト・ファーム要素への依存が高まります。
FCTカバレッジを最大限活用するには
・FCT治具インターフェース(コネクタ、ピンレイアウト)の標準化
・ファーム/ソフト開発部門との早期連携
・コンビネーションテスト(複数ファクターの同時検査)
これらの設計部門・製造部門・検査部門をまたがる調和が成果を左右します。
近年はIoT機器やエッジデバイスのように「複雑な通信試験を絡めたビルド」も増え、検査部門だけでは設計しきれない要素が多くなっています。
4つの検査装置のカバレッジを最大化する具体的ノウハウ
1. 初期段階からの協働設計と工程FMEA活用
製造業の現場では、設計部門の“完了品”が流れてから「うまく実装できない」「テスト不能」となって後工程で足踏みすることが、未だに多くあります。
これを防ぐには、初期検討段階からDFT/DFMの専門家、検査部門担当、調達担当を巻き込んだFMEA(故障モード影響解析)を徹底することが効果的です。
それぞれの検査装置が「何を見落としやすいか」「どこが死角になるか」を現場目線で洗い出し、早期対策を盛り込めます。
2. ガイドラインと設計レビュー体制の強化
業界内には「設計ガイドライン」や「実装設計標準」は存在しても、現場の声が反映されていないことがしばしばあります。
DFT/DFMの観点でガイドラインを“生きたルール”にし、設計レビュー段階で検査部門・現場エンジニアと一体になってブラッシュアップしましょう。
定量的な指標として「SPIで未検出になる微小パッドを減らす」「AOIの影生成要因の部品レイアウトを明確化」といった“具体的な改善数値目標”も併せて設定すると、PDCAが回りやすくなります。
3. シミュレーションとIoT/AIの活用
最新のDFT/DFMプロセスでは、設計段階から生産・検査フローを3D-CADやシミュレーターで仮想体験し、治具干渉や死角判定を自動抽出する手法が普及しています。
大量生産品だけでなく、多品種小ロットにも応用が可能です。
また、SPIやAOI装置から得られる検査画像・ビッグデータをAI解析に掛け、設計・工程改善サイクルを高速化する事例も出始めています。
アナログ思考からの脱却と現場目線の徹底
「うちの工場はまだ紙図面だよ」「製造現場の意見はどうせ設計に届かない」「治具のトラブルは納期遅延の理由になる」。
こうした“昭和マインド”が製造業の成熟を鈍らせている現状は、身をもって痛感しています。
しかし、日本の製造現場には高い現場力・着実なものづくりの「現場の知恵」が息づいています。
DFT/DFMの推進は、「現場と設計、検査部門が一体となり、製品ライフサイクル全体を効率化できる」という意味でも、今こそ推し進めるべき改革です。
現場に根ざしたノウハウを積極的にガイドライン、設計ツール、シミュレーションフローに落とし込み、組織として文化を醸成しましょう。
まとめ—製造業の未来を切り拓くDFT/DFMの実践
PCBAにおけるSPI/AOI/ICT/FCT各検査装置は、それぞれがカバーできる範囲と限界を持っています。
現場目線でDFT/DFM設計を強化し、協調設計・ガイドラインの活用、先端技術の導入で「検査カバレッジ」を最大化すれば、不良流出削減、コストダウン、そして安定した品質の実現が可能です。
この視点は、調達・購買業務に携わるバイヤーを目指す方や、サプライヤー側でバイヤーの考えを知り現場提案力を強化したい方にも大きな武器となります。
今この瞬間も変化のただなかにある製造業の現場で、ぜひ「今できる実践、現場ドリブンのDFT/DFM」を進めてください。
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