投稿日:2025年12月13日

3Dモデルは完璧でも、図面化で細部が抜け落ちてトラブルになる設計あるある

はじめに:デジタル設計が進化しても残る落とし穴

近年、製造業の設計現場では3D CADモデルの活用が当たり前になっています。

設計者は、パーツやアセンブリをパソコン上で視覚的に組み立て、干渉チェックや機能確認まで可能になりました。

一見、設計の品質は飛躍的に高まったように思えます。

しかし現場では、完璧に見える3Dモデルから図面化する際に、細部の情報が抜け落ち、製造現場やサプライヤーとの間でトラブルが発生するケースが後を絶ちません。

長年工場の調達・生産管理・現場運営に携わってきた立場から、なぜこうした「設計あるある」が起こるのか、その原因と対策を徹底解説します。

バイヤーや現場担当者、そしてサプライヤーの皆さまにも“バイヤーの頭の中”をリアルにお届けします。

なぜ3Dモデルの進歩がトラブルを生むのか

高度な3D CADとPDMシステムの導入が進む一方で、設計から現場への“情報伝達”という原則的な部分が変わっていないことに、多くの現場担当者が気づき始めています。

3Dモデルと図面で扱う「情報密度」の違い

3Dモデルはあくまで設計“者”が全てを把握している前提で操作されます。

構造、材質、組立順、検査基準——これらは設計者の脳内や紙のノートに補足されがちです。

しかし、現場では2D図面に落とし込まれた情報だけが「指示書」になります。

ここが大きな落とし穴です。

例えば、締付トルク、公差、表面処理、溶接のビード幅、組立方向などの“暗黙知”が、2D図面に記載されていなければ、現場は「分からない=製品づくりが止まる」事態になります。

昭和的アナログ現場の「安全装置」としての図面

日本のものづくり現場には、いまだに“手書き補足、赤ペン指示、製図室での口頭伝達”といった昭和的アナログ文化が根強く残ります。

その理由は、「図面が全ての基本」という共通認識が現場作業員・サプライヤーに深く根付いているからです。

CADやクラウド上のデータを直接操作できる現場はごく一部で、多くの現場では紙図面を前に「この線、記号、数値で仕事を完成させる」覚悟で動いています。

このギャップが3Dモデル全盛時代のトラブルの本質です。

設計から製造への伝達で「抜け落ちがち」なポイント

設計現場で見落とされやすい具体的なポイントを、私自身の失敗経験や現場から寄せられた声に基づき挙げていきます。

1. 寸法公差の未記載

3Dモデルでは精密に見えても、2D図面に公差指示がなければ、現場や外注先は狙いの性能や精度を満たせません。

結果として「公差どうり作ったのに組めない」「現物合わせで調整ばかり」という問題が頻発します。

2. 表面処理や仕上げの指定モレ

メッキ処理、塗装、バリ取り、ショットブラストなどの表面処理は3Dモデル上では見えません。

図面に指示がなければ外注製造品が「未処理」や「粗仕上げ」で納品され、品質トラブルとなった経験は数え切れません。

3. 組立や溶接・接合指示の省略

3D CADでは「とりあえず部品をぴったり合わせる」ことは容易です。

しかし現実の現場では、「どの順序で、どんな溶接・締結方法で、どこに治具を当てて組立てるべきか」が指示されなければ、ミス・クレームが起きやすくなります。

特に大型架台や板金の立体構造などは、現場とサプライヤー側から問い合わせや手戻りにつながります。

4. 検査基準・管理ポイントの抜け

「ここは厳しく精度管理する箇所」「この面のキズはOK」「ここは位置決め制度が重要」といった現物の要注意ポイントが、3Dだと共有されにくいのもあるあるの一つです。

図面上への指示や注記の重要さを現場で骨身に沁みて知りました。

トラブルの具体的なケーススタディ

現実に起こった「3Dモデル→図面化→現場トラブル」の一例を紹介し、どんな微細な情報伝達ミスが大きな品質・納期リスクに発展していくのかを具体的に解説します。

ケース1:寸法公差が伝わらず、現場で組立NG

ある装置のシャフト部品を外注先に依頼した際、設計担当が「この部分は標準公差で大丈夫」と暗黙知で判断し、図面に具体的な指示を記載しませんでした。

その結果、外注先では材料の標準許容差で加工したため、現場での組立時に「あそび量」不足で組み込みができなくなり、急遽リワークと追加工事となりました。

このトラブルの教訓は「設計者の頭の中の知識は、明文化されなければゼロ同然」という事です。

ケース2:溶接治具指示ミスで大幅な手戻り

大型筐体の製作で、3Dモデルでは「ぴったり正確」な組立がなされていました。

しかし外注先の現場作業員は、各パーツの上下左右をどこで固定すべきかわからず、適当に仮留め→本溶接してしまい、ゆがみによる寸法OUT。

後から治具と組立手順、溶接方向を詳細に指示し直し、大きな納期遅延へとつながりました。

現場では「作りやすい順番で作る」ため、「作り方も一緒に落とし込む」発想が3D設計時から必要です。

ケース3:表面処理指定なしで納品ミス

3Dモデル上では「シルバーに見えていた」パーツが、図面に表面処理指定を忘れていたために、外注業者が「生地のまま」で納品。

現場で「これ、メッキ処理は?」と初めて気づき、全数返却・再処理となりました。

このような初歩的ミスほど、慌ただしい現場や急ぎの納期の時ほど起こりやすいものです。

なぜ“図面化”フェーズは軽視されてしまうのか?

現場目線で見ると、設計者・バイヤー側と現場・サプライヤー側で「認識のズレ」が根深く存在します。

設計思想と現場実務の間の“距離”

設計部門は「3D上で全て理解している」つもりでも、現場は「目の前の図面・書類・実物」だけで判断しなければなりません。

この距離を埋めるためには以下のような工夫が不可欠です。

– 設計レビュー段階で、現場リーダーやバイヤーも図面をチェック(机上の空論排除)
– サプライヤー側で「この図面で必要事項は網羅されているか」質問・確認を徹底
– 変更点があれば、履歴管理を厳格に行い「設計変更伝達」のプロトコル制定

こうした打合せ・伝達プロセスの省略(または形骸化)が重なるほど、品質や納期トラブルとなって跳ね返ってきます。

昭和流の「現場力」vs デジタル設計の限界

アナログ現場のベテランは、わずかな図面ミスも「現物合わせ」「手作業の工夫」によってカバーしてきました。

しかし、これからの現場では「属人的なノウハウ頼み」から「形式知・明文化された仕様」で伝達し、サプライヤー・現場間の“誤解ゼロ化”が求められます。

設計部門は、現場の「ここまで書かないと伝わらない」という教訓をデジタル時代でも継承することが、結果として納期・品質・コスト全てのリスク低減につながります。

トラブルを防ぐ実践的な“現場伝達”のテクニック

20年以上の製造業バイヤー・工場長経験を踏まえ、実働部隊が実践できる図面化・情報伝達のコツをお伝えします。

チェックリスト方式の設計図面化

部品図や組立図を作成する際、「必須情報チェックリスト」を活用すると、図面からのモレが激減します。

項目例:
– 寸法全公差(穴・軸・嵌合部・面取り等)
– 材質・熱処理・表面処理
– 組立順・溶接位置・治具の有無
– 厳守すべき工程管理点
– 検査項目と合格基準

チェックリストを使い「抜け防止」の仕組み化が肝要です。

現場レビューで“説明責任”を担保する

設計図面は「作ったら終わり」ではありません。

現場やサプライヤーの担当者に、設計意図や注意点を必ず説明し、双方向の質疑確認(デザインレビュー、ウォークスルー)が重要です。

特に初回生産の部品や初めての外注先には極力これを徹底し、“分かりやすさ・伝わりやすさ”を現場の声で検証しましょう。

「図面は現場との唯一の言語」と心得る

設計者自身が現場・外注工場・バイヤーの現実を知り、「この図面一枚で100人全員が共通理解できるか?」という視点を持つことがプロ設計者への最短ルートです。

オリジナル略語や業界特有の用語は、必ず注記や添付でルール化し、図面上の“意味不明ワード”撲滅を徹底すると、現場の混乱や再作業は劇的に減ります。

まとめ:昭和的アナログ伝達の良さを進化させる

3Dモデル技術の進歩は、ものづくりの世界に大きな恩恵をもたらしました。

しかし、それを現場とサプライヤーに正しく伝えきる「図面化・情報明文化・現場レビュー」という昔ながらのプロセスが疎かになると、素晴らしい設計も絵に描いた餅になってしまいます。

昭和の現場が守ってきた「図面はものづくりの憲法」という文化を、デジタル進化の中で“仕組み”としてアップデートすることが、これからの製造業バイヤーや設計者に求められる最低条件です。

一人ひとりが現場感覚を持ち、伝えるべきことを確実に「見える化」していく。

それが、現場トラブルの根絶と日本のものづくり力の底力アップにつながると信じています。

ものづくりの進化は“伝達の質”から——現場目線の実践的な知見を、ぜひ皆さんの日々の業務で活かしてください。

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