投稿日:2025年8月19日

共同中継拠点の設置で地方出荷の回送料を恒常削減

はじめに――物流コスト削減の新しい潮流

近年、多くの製造業企業が頭を抱えているのが「物流コストの高騰」です。

特に地方の工場では、消費地への納品のたびに遠距離輸送が発生し、運送費用や配送効率の悪さが利益を圧迫しています。

原材料費や人件費の上昇に加え、燃料費の高止まり、物流2024年問題(ドライバーの働き方改革による運行規制)など、さまざまな外部要因が絡み合い、「どうやって出荷コストを抑えるか」は全社的な重点課題になっています。

その最前線で今、業界を変革しつつあるのが「共同中継拠点(ハブ配送)」の活用です。

本記事では、昭和的な個社完結志向から抜け出し、恒常的なコスト削減とサービス品質向上を両立させる共同ハブ運用の実践的方法を、現場感覚を交えて解説します。

地方工場の「出荷コスト敗戦」の実態

1ヶ所出荷=物流コスト増大のカラクリ

多くの地方工場は、商圏や需要が首都圏に偏在する構造的な問題を抱えています。

地方から都心部や西日本主要エリアへの長距離輸送では、大型車両を1工場単位でチャーターすることが基本です。

この形態だと必然的に
・便数が分散しトラック1台あたりの積載率が低下
・帰り便(リターン便)が確保できず「片道稼動」になる
・積載効率が悪くなるため、1パレットあたりの輸送単価が割高
といった非効率な状況に陥ります。

とくにアナログ色の強い中小の工場では、「長年の慣習」としてこのスタイルが昭和期から根強く続いてきたケースも多いのです。

変革を阻む現場心理――「独自配送の安心感」

なぜ非効率と分かっていても個社完結型から抜け出せないのでしょうか。
代表的な理由は
・「他社の商品と混載で納入品質が落ちるのでは」という不安
・配送の遅れや数量ミスの責任所在が曖昧になる点への警戒
・独自トラックによる“お得意様訪問”文化
といった現場独特の心理的抵抗です。

しかし時代は変化しています。
「いつまでも昭和のままでは勝てない」という危機感が、いま全国の製造現場にじわりと広がっています。

共同中継拠点とは?――全ては「混載」と「集約」にあり

共同中継拠点の基本概念

「共同中継拠点」とは、複数の地方工場・サプライヤーが出荷する商品や半製品、部材などを一箇所(ハブ)に集め、それを共同で都市部へ運ぶ仕組みです。

具体的には
1. 地方エリア内の工場(複数社)がそれぞれ小口でハブ拠点に物を運ぶ
2. ハブ拠点で他社の商品と混載し、大型トラックに“満載”状態で積み直す
3. 首都圏や大消費地に向けて大量一括配送
4. 都市側中継所で再び小分けにし、各得意先へ納品
こうした集約・分割の流れをとることで、トラックの積載率を恒常的に最大化。

「ムダな運賃」「ムリな出荷体制」を根本から覆します。

なぜ共同ハブ運用は持続的に効くのか

共同中継拠点による出荷は、一時的な施策ではありません。

・荷物量が増減しても、他社貨物と混載するため常に積載効率が安定
・「リターン便」(帰り便)の手配もしやすく、実質的な運送料の相殺が可能
・ドライバーシェアによる人材活用の最適化
・配送計画の自動化による属人的運用からの脱却
こうしたシナジーが、昭和型の「自社車両だけ」「1社だけの契約」よりはるかに強固なコスト削減基盤を築きます。

実際の導入事例――製造現場から学ぶリアルな効果

ケース1:A県工業団地での水平連携

A県のある地方工業団地では、食品加工、鉄鋼部品、医療機器といった異業種の中小工場が、連携して共同中継拠点を運用しています。

導入前は
・1社あたり週4便チャーター、積載率約40%
・一部の会社はトラックが空荷で出発することも
でしたが、共同ハブを週6便運用に増強した結果、
・積載率85%超
・輸送単価約30%低減
・納期遅れゼロ&配送事故大幅減
といった定量的成果が出ています。

個社ごとに「出荷計画」「製造ペース」は異なりますが、デジタルツールと管理工数最小化を工夫することで、現場負荷はほとんど増えなかった点もポイントです。

ケース2:資材サプライヤーと加工バイヤーの共創

自動車部品サプライヤーのB社は、地場の鋳造会社、自動車メーカー(バイヤー)と三者協力でハブを共同開設。

サプライヤーは「バイヤーの出荷指示情報」と連携、納期・品質のトレーサビリティも強化。

「どこから、どの商品が、どのルートで」の可視化が進むことで、トラブル発生時の即応や責任分界が明確になり、今では新規案件の受注獲得にも寄与しています。

バイヤーにとっての共同拠点――なぜ導入せざるを得ないのか

(1)SDGs・カーボンニュートラル化圧力

取引先・顧客企業側(バイヤー)も物流2024年問題、そしてESG(環境・社会・ガバナンス)経営への対応が不可欠になっています。

「小口バラバラ配送」はCO₂排出量も膨らみ、社会的信頼を落としかねません。

逆に、共同ハブを使うことで
・CO₂排出量の“見える化”
・サステナブル調達の実績化
・第三者評価(ISO14001、エコステージ)等の取得
など、バイヤー側のCSR活動やサプライチェーンマネジメントにも好影響を及ぼします。

(2)BCP(事業継続計画)の武器に

単独配送依存だと、災害や不測の事態で「物流が切れる」致命的なリスクが常に付きまといます。

共同拠点をいくつか持っておけば
・ルート切替の容易さ
・他拠点相互融通による「代替輸送」
・ハブ拠点に一時在庫・緊急物資を持たせて即納体制化
といったBCP的な強靭さまで獲得できるのです。

サプライヤーから見た「バイヤー心理」

サプライヤーの立場でバイヤーの思考を知ることは、取引最適化や新規採用の大きなヒントです。

・「出荷単価が一定以下でなければ採用できない」
・「CO₂削減など非財務価値も評価項目」
・「荷主責任(納入遅延・品質不良時の問い合わせ先)が明確であること」
バイヤーはこうした多面的な評価軸で物流委託先やサプライヤーを選んでいます。

共同拠点化を提案することで
・価格競争力
・サステナビリティ
・危機管理体制
といった付加価値を一気にアピールでき、「面談での信頼度」や「採用率」が大きく高まります。

導入の進め方――昭和的障壁をどう乗り越えるか

1. 経営層をはじめ現場までの「意識ギャップ」を埋める

共同ハブ導入にあたって最大の障壁は「今まで通りで良いのでは」という現場視点です。

まずは数値で示し、「積載率」「運賃」「CO₂排出」などの現状分析から着手。
紙マニュアル→デジタル管理に置き換える利点も伝え、段階的に意識改革を図ります。

2. 荷主間の“信頼とルール作り”

共同運用では「他社製品との混載不安」や「責任分界の明確化」が重要です。

あらかじめ
・「輸送中の事故時はどうするか」
・「納品遅延時の連絡フロー」
・「不良時の原因究明手順」
などの業務ルールを詰めて文書化することで、トラブルの未然防止と公正な運用を実現できます。

3. デジタルツールの活用

現代の共同拠点は、輸配送管理システム(TMS)、IoT物流タグ、クラウド日報といったデジタルツールが四半世紀前とは比べものにならないほど進化しています。

昭和型の電話・紙FAX・暗黙の了解から完全脱却でき、むしろ現場負担は軽減します。

今後の展望――地方工場から日本を変える

「地方で作り、都市で売る」この構造は製造業の宿命です。

しかし従来のアナログ仕組みにこだわり続けていては、グローバル競争の荒波に飲まれてしまいます。

共同中継拠点は「物理的な効率化」だけでなく、地域を超えた水平連携、サプライチェーン全体最適、そして人材育成やデジタル化推進といった「次の時代の製造業像」への懸け橋です。

今こそ、現場発のイノベーションを共に実現し、強い製造業を取り戻しましょう。

まとめ

共同中継拠点の設置による地方出荷の回送料の恒常的削減は、もはや一過性の流行ではありません。

業界の次世代標準として定着しつつあり、導入企業は「コスト」「信頼」「未来価値」の全てで優位に立てます。

特にバイヤー・サプライヤー双方の実利を深く理解したうえで、現場現実と業界動向を把握した方は今こそチャンスです。

「変化を恐れず、現場起点で新しい輸送のカタチを創る」
日本の製造業が昭和から令和へと進化する、その最前線で共に汗を流しましょう。

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